11.早食いは良くないことは知っている

 連日暑い。なかなか文章もまとまらない。何か考えようとしても、「ドイツ語で深紅の死神って「プルプルンゼンゼンマン」だっけ」とか昔ネットで見たどうでも良い知識が深層心理から顔を覗かせるだけである。

 暑かったがなんとなくふらふらと昼食を食べに外に出たら、目当ての店が軒並み入れない状態で、十五分ぐらい炎天下を彷徨う羽目になった。最終的に飛び込んだカレー屋でチーズカレーを貪ってから時計を見ると、五分しか経っていなかった。


 食べるのがかなり早い自覚はある。昔は寧ろ遅いほうだったのだが、社会人になってからは年々速度を上げていった気がする。これと言うのも忙しいせいだ。飯を食う時間はないが腹は減っている。そんな状況で抗う術は「食べずに我慢する」か「急いで食べる」の二択である。急いで食べる場合でも、栄養補給的なブロックやゼリーは苦手なので、パンやおにぎりに手を出す。駅前のコンビニで買って、電車に乗る時には全て消えている。そんな不健康な日々を過ごしている。


 あと純粋に、食べることに対してあまり興味がないのが原因かもしれない。じっくりと食事を楽しむ習慣というものが存在しないので、食べている時は殆ど「無」である。近所の犬のほうがまだ感情豊かに食べている。

 だったらブロックやゼリーでも食っていれば良いのではないかと思うかもしれないが、それとこれとは話が別だ。服に興味がないからといって、布切れ巻いて生活はしたくないだろう。私とて譲れない一線はある。


 そもそもあの類がなぜ苦手かというと、私の中の「食べ物」のカテゴリが狭いためだと思う。拡張性に乏しく、オーソドックスなものから抜け出せない。食事と言えば米かパンか麺類であって、そこに急にゼリーが代用品として与えられても脳が正常に処理しない。カブトムシじゃございませんことよ、と思うのみである。

 同様に、汁物と言えば味噌汁だし、干物と言えばアジである。あまり冒険はしたくない。ワニ肉には梅肉が合うし、煮込みにするならトドよりカンガルーだ。


 そんな風に固定概念が強いものだから、いつまで経っても携帯食料に慣れない。もう少し柔軟に出来れば、コンビニの前で明太おにぎりを胃袋の中に押し込む生活をしなくて済むと思う。

 だが人はなかなか、一度覚えてしまったことからは抜け出せない生き物だ。修正したり忘れたりするのは至難の技なのである。だから生きていくうえで使うことのない言葉「プルプルンゼンゼンマン」も、ずっと記憶の中で生きている。リピートアフターミー「プルプルンゼンゼンマン」。

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