第34話 ロンの招待

2人と1匹を見る目は痛い。


幸いにも死者は出なかったものの、人と翼のある魔族、そして伝説の魔獣。


この組み合わせは異様としか言いようがなく、その視線もやむなしと本人達ですら思わざるを得なかった。



「この街で騎竜は諦めるか…」


自嘲気味にトラバルトが吐く。


「騎竜?」


子犬の姿にはなったが相変わらず人語を解する饕餮が首を傾げる。


「ああ、人の足になるよう飼い慣らされた生き物だ。

人よりもずっと早く、タフでな。

クドゥへの道は長いからなんとか手に入れておきたいのだよ。」


「それならば私の背中に乗るといい。」


そう言うと饕餮の背丈はみるみる大きくなり、2人と対峙した時の巨大なものとなった。


「饕餮……

非常にありがたいが、街中でその姿はまずいな。」


ハッとした饕餮を含む彼らの周りから人影が消え去っていた。


「む…しまった。」


饕餮が慌てて子犬の姿に戻る。


「饕餮、私達が乗っても疲れない?」


感心したようにヨルムンガンドが饕餮を見つめていたが、やや心配の面持ちで口を開いた。


「人間の1人や2人どうということはない。」



「なんとも思わず頼もしい仲間ができたな。」


「ふん。」


饕餮はそっぽを向いているが尻尾は左右に振れているのだった。




「ところで饕餮、お前の封印が解けた事だが、何か心当たりとかはないだろうか。」


「それに関しては何も分からない。

意識を取り戻し纏わり付く封印を吹き飛ばし外に出た。

それだけだ。」


「そうか、我々が饕餮と会えた事は結果的にいい巡り合わせだったが、何者かの悪意がないとも限らん。

これから先、一層注意していこう。」



と、そこへ気を引き締めた一行に壮年の男性が話しかけてきた。


「もし、そこの方々」


トラバルトは誰も近づいてはこまいと思っていた矢先の出来事に少し動じたが、これに応じた。


「いかが致しましたか」


「唐突にすみません。

私はロン、この街で鍛冶屋を営んでおります。

遠巻きながら皆様の活躍を拝見しておりまして、街を守って頂いたのになんのお礼もできないのでは申し訳が立ちません。

どうか私の家でせめて一晩体を癒して行ってはくださらんか。」


ロンはくったくのない笑顔でトラバルト達を誘った。


2人と1匹は顔を見合わせて、少し悩んだ。


結果として人的被害こそ出なかったものの、災厄の元凶である饕餮を伴ってもてなされるのは少し憚られる。


「私は街の外で待とう」


流石にバツが悪いのか、饕餮が立ち上がった。


「饕餮殿、それには及びませんぞ。

あなたが外にいては2人も心安くはなれませんからな。」


「ぬ…。」


トラバルトもヨルムンガンドも当然ながら饕餮1匹を外で待たせるような真似はしない。


饕餮は妙な気持ちになりながら2人を見た。


「そうだな、ここは好意に甘えさせてもらおうか。」


トラバルトの裾を掴むヨルムンガンドもまた、それに頷いて応じるのだった。




その頃一行がロンと邂逅しているその様子を密かに伺う影があった。


「……チッ。

あの怪物を手懐けるとは。」



影はそのまま背中から羽を広げ飛び去っていった。

次なる悪意を秘めた瞳を光らせながら。

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