第33話 暖かいと眠くなる
そこはタニア王国王宮、玉座の間。
「トラバルトを将軍に命ず」
傅いたトラバルトが王より剣を賜る。
「お前は何を望む?」
「タニアの安寧と繁栄を」
「そうだな、お前はその為によく戦ってくれた。
だがもう違う、お前はもはや国のためのお前ではない。」
国王のその言葉が終わると辺りの景色はグニャリと曲がり、白い光しか存在しない空間へ2人は立っていた。
「…」
「国を守る一心で戦うお前は確かに強い。
だがそれはある意味思考を一つに纏める逃げのようにも見える。
今回それを強く感じたはずだ。
すぐにわからなくていい、もう負けてもいいのだ。
だが一つだけ覚えておくのだ。
お前と共に在る者は、お前が失われると失意の内に沈む。
もう自分の命を投げ打ってでもいいものだとは思うな。」
「………………お言葉のままに。」
そう答えるトラバルトの顔を見て王は安堵したように消えた。
(陛下、どうか安らかに。)
パチリと目を開けると、そこは病院の一室のようだった。
少しボーッとしていたが、胸の辺りに温かみを感じ視線を下に落とすと、ベッドの脇に置かれた椅子に腰掛け、トラバルトの胸に伏せて寝ているヨルムンガンドの姿があった。
その傍らには子犬の姿もあり、彼女に倣うが如く体を伏せって眠っているようだ。
(ヨル、無事だったんだな。)
恐らく自分を心配していたであろう彼女の頭をそっと撫でた。
「ん…」
トラバルトの手が触れると、彼女はピクンと反応しバッと顔を上げた。
「ヨル、心配をかけたな。」
「…」
彼女は焦りや、戸惑い、安堵、喜び等何もとも取れない表情を浮かべ、何か言おうとしていたがその声帯は形を決めかねているようだ。
(色々考えてくれているのだな。)
その様子にトラバルトは事情を察した。
「ヨルは無事か?怪我はないか?」
「あ…、私は、平気。」
「そうか、本当に良かった。」
そういうとトラバルトは彼女の頭を撫でていた手を下ろした。
「…あ。」
「どうした?」
「……?
ん…よく分からない。」
自分の頭に触れていたトラバルトの手が離れて、何か思うところはあったがその思うものが何か彼女にはまだ難しい問題だったようだ。
「ところでその子犬は饕餮か?」
「うん、私と、トラバルトで飼うの。」
ただの子犬とは思えぬオーラを持つそれが、饕餮であろう事はなんとなく察してはいたが、まさか飼育することになるとは予想していなかった。
「饕餮を?ペットにするのか?」
「うん。ダメだった?」
「……ふふ。ダメなわけないさ。」
ヨルムンガンドが眠る饕餮を抱えトラバルトの胸に預ける。
そして右手で抱きしめるとそのふさふさの毛に纏った暖かさが肌に伝わってきた。
(ヨルといい、饕餮といい、ぬくいな。)
その温もりの心地よさにトラバルトは再び目を閉じ眠りに落ち、それを見届けたヨルムンガンドもトラバルトの胸に顔を伏せ寝息を立て始めた。
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