第31話 瞳は語る
憎悪の炎は再び燃え盛る。
主人の幻影を纏い、憎い世界を壊す為に。
「あれで倒れないのか。」
(討ち取れずに封印したわけだ…。)
ヨルムンガンドの攻撃は誰の目にも致命的であったため、トラバルトは驚きを隠せないでいた。
饕餮をこの世に縛り付けるモノはなんなのだろうか。
死なないだけだこうも生きられるのだろうか。
(お前は、何を求めて戦っているのだ)
折れた剣を構え、饕餮に向き合った時、その真っ赤な瞳と目があった。
(…。)
途端、剣を握る手に力が入らなくなった。
この戦いで消耗したからだろうか。
この剣ではやつに致命の一撃を入れれないと分かっているからだろうか。
わざとらしく自問したが、答えはその眼を見た瞬間に分かっていた。
赤く血走る目からは血の涙が流れ、おおよそ感情など伺えない真紅からは、ただの殺戮者のモノではない光が揺らいでいる。
そんな瞳を見せられたら——
饕餮は気力を振り絞りトラバルトに襲いかかる。
右から左から正面から、距離をおかれたら炎を吐いての死に物狂いの猛攻だった。
「トラバルト…?」
ヨルムンガンドは怪訝に思った。
トラバルトの剣の真髄は攻めにある。
受け太刀を許さない彼の剣は攻撃してこそ威力を発揮するのだ。
だがあの彼の動きはなんだろうか。
自ら踏み込む事はせずに、躱してばかりいる。
先程の炎がそれほどのダメージだったとも思えない。
覇気と集中を欠いている。
トラバルトは激しく自責していた。
(私は何をしているのだ。
こいつを斬らねばこの街は滅ぶ。
それどころか、せっかく戦争が終わったのに、また世界を巻き込んだ戦いになりかねない。
それに勝てなかった場合は私も死ぬということだ。
斬らぬ理由がないではないか。)
彼がタニアの将軍だった頃、ヨルムンガンドと戦った。
その際、彼はこれ以上斬りたくないものを斬らないと誓い彼女を見逃した。
それは結果として国の滅亡の遠因となったであろう。
しかし、彼は国王の願い、自分やヨルムンガンドの思いの元、今後も納得した戦いのみをしたいと標を定めた。
(だが、私はまた迷っている)
様子の変化に気付いたヨルムンガンドが、追撃の準備を止め、援護に向かって来るのが見える。
(私がしっかりせねば。)
彼は饕餮の爪を捌きその喉元に刃を突き立てようとした。
そもそも通用したかわかりはしないが、剣は届くまでもなく空で止まった。
再びその目と目は交錯してしまい、彼の剣を止めてしまったのだ。
そんな瞳を見せられたら——
饕餮の爪がトラバルトを捉えた。
——斬れぬではないか
彼の胴に大きすぎる傷跡を残し、血が舞い、体は遠く吹き飛ばされ民家に突っ込んだ。
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