第27話 四凶


かつて人族と魔族はただ一度手を携えた事がある。


呉越同舟。

お互いよりも遥かに強大な敵がいたのだ。


その敵は4体の怪物で、各々が大陸各地で猛威を奮った。

それぞれが巨大な体躯と尋常ならざる膂力を持ち、更に口から火や氷を吐き出すその怪物達を人々は“四凶”と呼んだ。


時の指導者達は討伐隊を組織し、大きな犠牲を払い勝利を収めた。


4体のうち2体は討ち取る事に成功するも、残りの2体は追い詰めながらもトドメを刺すに至らず、高名な魔族の呪術師の働きにより封印されたという。



そしてその封印の祠はタニアにある。





「これが封印の祠か」


フードを目深に被り顔を隠す男が四凶の内の一体が封じられている祠の前に佇んでいた。


祠にはかつて、魔族の呪術師が魔力を抑制する為に貼った札があり、周囲を立入禁止にする事で封印は保たれてきたのだ。


だが男はニヤリと笑うとその札を引き剥がしてしまった。




トラバルト達がベルンに到着する数日前の出来事であり、それ以来近辺では地鳴りが続いている。


原因は封印されていた怪物が力を取り戻しつつ、纏わり付く残りの封印を吹き飛ばしている為に起こっていたのだ。



そしてトラバルト達がベルンに到着した現在、彼は最後の封印を破る。

纏わり付く岩壁も同時に吹き飛ばし、その拍子に彼の封印されていた祠のある山は崩落してしまった。



封印を解き、自由の身となった彼が最初に考えたのは復讐だ。

一体何百年眠らされていたのか。


この世のものとは思えない悍しい雄叫びを上げ、彼は手始めに遠目に見えるベルンを滅ぼすべく、風を置き去りにする程の速度で駆け出した。



四凶・饕餮(とうてつ)


かつてたった4体で、人とこの世の覇権を争った怪物がベルンの街を蹂躙しようとしていた。

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