第26話 忍び寄る災厄
「おい、お前。
魔族となんか仲良くして、自分だけ利権を貪ろうって腹か?」
真ん中の剃髪している大柄な男が吐き捨てるように言う。
「いや、そのようなつもりはない。
私は旅をしている故、魔族と癒着した所でどのような利権があるかすら知らない。」
「そうかい。
だがこの街の人間にはそうは映ってないぜ。
魔族を伴った怪しい男が、街に入るなり一直線に魔族が屯するギルドに向かったってな。
普通に考えれば自然なこととは言えねえよなぁ?」
「誤解があるようだから言っておくが、こちらは私の命の恩人で共に旅をしている人だ。
別に魔族とのパイプではない。
そして旅人が街へ着いて公共の施設を目指すのはおかしな事ではないと思うが。」
「人族と魔族が共に旅だ?
つくならもう少しマシな嘘をつけ。
誰もそんな事信用しねえ。」
痺れを切らしたかのように男が腰の剣に手をかけると、追従して取り巻き達も剣を抜く構えを見せた。
「待ってくれ。
お前達の言う事が本当だとして、私を手にかける事に何の意味がある。」
「決まっている。
タニアを滅ぼした魔族も、タニアを裏切るような真似をする人族にも、これ以上俺たちの国で好き勝手やらせる訳にはいかねぇんだよ。」
悲しみ、憎しみ。
目の前の男が存外愛国者である事が少しだけ嬉しかったが、ヨルムンガンドを伴う今、この敵意はしんどいものがある。
しかし口で言っても聞き入れてくれそうにない。
(得策ではないが、やむを得ないか)
傷付けはしない。
これから手を取り合う種族同士で諍いを起こしている場合ではないのだ。
トラバルトはヨルムンガンドに下がるように伝え剣に手をかけた、その時だった。
ドン、と恐ろしい程の爆音が轟いたかと思うと、地鳴りが起こった。
地鳴りはとても大きく、体幹が優れているトラバルトは苦もなく立っていられたが、男達は膝をつき、ヨルムンガンドも身体をグラグラと揺らしている。
(何が起きている)
彼女の近くに行き、裾を掴ませる。
「またかよ。
魔族が来てから何度目だ。」
「しかも今回のは今までとは比べものにならないほどでかいぞ。」
地鳴りの音に紛れて聞こえる男達の嘆きぶりから、これが初めてじゃない事を伺わせた。
———
(収まったか)
辺りは所々脆い建物が壊れていたり、場所によっては地面に亀裂が入ったりしている。
未だに立つことが出来ない男達にトラバルトは尋ねた。
「先程“また”と言っていたな。
何度もこういうことがあったのか?」
先程トラバルトと話していた男が、顔を汗でびっしょりにしながら息を荒くしている。
もはやそこにトラバルトに啖呵を切った凄みはなく、すっかり消沈していた。
「数日前に魔族の連中がきてから連日地鳴りが続いている。
やっぱりアイツらロクな事しやがらねえ。」
男は頭を抱えて叫んだ。
(魔族が地鳴りを?
そんな事可能なのか?)
ヨルムンガンドを伺うように見つめたが、彼女は首を横に振るだけだ。
それもそうだ。
魔族随一の力を持つ彼女ですらこんな事をする力はないだろう。
ならば偶然連日起こっているのか。
あの爆発音のようなものは何なのか。
思案を巡らせていると、2人は背筋が凍る感じがした。
あの無表情のヨルムンガンドの顔にも汗が伝う。
「ヨルも感じたか。
一体なんだというのだ。」
彼女の裾を握る力が一層強くなる。
すると街の入り口の方から悲鳴が聞こえてきた。
そして恐らく建物が崩壊する音。
「ただ事ではないな。
行くぞ、ヨル。」
2人は渦中に向けて走りだした。
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