第23話 未知との遭遇

「じゃあ、この剣をください」


2人は今、村の商店にて旅支度を整えている。


その最中村人達との再会を懐かしみつつ、ヨルムンガンドを紹介した。

皆一様に驚き、戸惑い、慄いたが、村長とトラバルトの取りなしがあり、皆次第に魔族の治める国々の事を聞いたり、翼を見せてもらったりと受け入れられたようだ。


(本当にこの村はいい村だな)


人に囲まれて、困りつつもどこか嬉しそうな彼女を見て、トラバルトは尚早ながら満足を得た。

理想の世にいるような気がして。



「ヨルムンガンド様はトラバルトとはいい仲なんで?」


彼女を囲む村人の1人が野暮ったく尋ねた。


「いい仲?

いい仲ってどういう事?」


「そりゃお互いに好き合ってる恋人なのかって事ですよ」


「恋人じゃないよ。

“志を同じくする仲間”、なんだって。」


そう話す彼女の表情からは、とても感情など読みきれそうにもなかった。



彼女のこれまでの人生を全て分かった気になれるほど、傲慢ではない。

だがそれでも彼女が、これまであまり対人関係を築いてこなかったであろうことは何となく察する。

…人の事を言えた義理では無いが。



しかしまさか恋人という概念すら知らないとは思わなかった。



トラバルトの脳裏に先程の村長の家での会話が思い出される。



「ヨル、恋人を知らないのか?」


変わらぬ表情で彼女がうなずく。


「そうか。

恋人というのは、お互いに好意を持ち合う者同士が、パートナーとして連れ添う者をそう呼ぶ。

まぁ男女2人旅というのは端からはそう見える事もままあるのだろうな。

異性での友誼は結び難いと聞いた事もあるし。」


「じゃあ、私とトラバルトはどういう関係になるの?」


彼女の顔を見るに、イマイチ理解し切れていないのがなんとなくわかる。


「そうだな、私もあまり対人関係において深く思案したことはなかったからな。

一番今しっくりくるのは“志を同じくする仲間”ってところだろうか。」


「仲間…」


「私と仲間では嫌だろうか」


「よく分からないけど、嫌じゃない」





2人は理由は各々違うが、個人対個人の人間関係に非常に疎い。

トラバルトは幼少より修行や狩りに奔走し、若くして軍に入り、出世も早かったため対等な関係を築くに至る事がなかった。

そして生来の生真面目さゆえ、異性への興味が無いわけではなかったがそれよりも軍務への責任が勝り、彼はこれまで異性交友を行った事がなく、またあまり頓着がなかった。


ヨルムンガンドは、その身分と力、感情の起伏が乏しいその性格が由来して近付くものが少なく、また彼女のほうからも人に近づくこともない。

よって彼女は父との会話位しかまともにした事がなく、他人とのコミュニケーションに大きな影を落とす事になり、心の発達も未成熟であった。



この2人の胸中は複雑であり、お互いに名前をつけられない感情を持て余している。


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