第21話 当面の目的


「ヨルの父親が国王?

という事はヨルは王女ということか?」


彼女と話してて驚く事は多々あるが、今回の事は飛び抜けて驚いた。



「知ってると思ってた。

人が魔導って呼ぶ私達は、皆各国の王子と王女だから、てっきり知った上で区別してるのかと思ってたわ。」

という事は中央戦線のヘルも、北部戦線のフェンリルも、皆王族だったという事だ。


王族が前線へ出てくる事の意外さも手伝って、その驚きは計り知れなかった。



(そうか、ヨルの奔放さが許されているのは強さ故だと思っていたが、そういう事情もあったわけだ。

だが…)


トラバルトはその事実に逡巡する。


これから見聞を広め、数多の土地を巡り人々の助けとなるためには彼女やその父上の後ろ盾はかなりありがたい。

だが知らなかったとは言え、彼女を助けたことに始まり、全てが彼女が王女である事に帰結しやしないかと生真面目なトラバルトは思ったのだ。


うーん、とトラバルトが唸っている理由が分かりかねる彼女はそれを問い理由を知った。



「トラバルトが、そういう企み事で私を助けたわけじゃない事は、分かってるよ。

嫌なら無理には言わないけど、父の名前があれば、トラバルトの旅の目的は、果たしやすくなると思う。」


「ヨル…」


彼女よりの信頼が非常に嬉しかったし、彼女の言う事は正論だ。


「そうだな。

すまぬが、私をヨルの父親に、国王ロプトル殿に会わせてくれ。」


彼女はサムズアップしてそれに応えた。




そして、水を飲み干した2人は明日に備えて寝ることにし、ベッドにヨルムンガンドを寝せ、自分は椅子に座りテーブルに突っ伏して寝ることにした。


「ここ、トラバルトの家なのに、私がベッド使うのおかしい。」


「気にするな、今日はヨルのおかげで村についたのだ。」


「一緒に寝ようよ。」


「それはダメだ。

嫁入り前の女性が安易に男と床を共にしてはいけないよ。」


「トラバルトの言うこと、たまによく分からない。」

ヨルムンガンドは胸が少しだけ熱くなるのを感じた。



「ともかく遠慮するな。

私は野営には慣れているから、寧ろ椅子があるだけ贅沢なくらいだ。」



彼女はほんの僅かに口をツンとしベッドに潜り込んだ。


「おやすみ」


「ああ、おやすみ。」


蝋燭の火をフッと消し、トラバルトも椅子に腰掛けると、顔を伏せ目を閉じた。





その後、幾らか時間が経った頃、物音がしてトラバルトは顔を伏せたまま目を開いた。


(ヨルが起きたのか。)


彼女はフラフラと起き上がり、トラバルトの隣の椅子に座り、同じように顔を伏せて寝息を立て始めた。


それをチラっと横目で見ていたトラバルトは、フッと笑うとベッドから毛布を取ってきて彼女の肩にそっとかける。


(そういえばヨルはいくつなのだろうか。)


そのあどけない顔にふと疑問が湧いたが、今は自分も体を休めねばと、再び眠りについたのだった。

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