第18話 少女、1人


生を諦め、父に心の中で別れを告げ、あとは首を刎ねられるのを待つだけ。



…だったのだが、敵将トラバルトは彼女に何故敵を白刃から庇ったのかと問われた。


それを聞いて一体何を知りたいのかは分かりかねたが、彼女は自分の一番素直な気持ちをそのまま伝えた。


「子供、だったから」


その言葉は結果として、トラバルトの心の何かつっかえていた物をとる事になったのだが、彼女にはそれを知る由はない。



ともかくその言葉は振り下ろされようとしていた白刃を止め、思わぬ“何か”を得るに至った。


“女性”、“あどけない”。

後に彼女はその言葉を何度となく反芻する事となる。


この考えは彼女が深く考えた故の事ではないが、それを推し量っていうならば、要人の子を巻き込まなかったのは子供が争いにおいて弱者であったからな他ならない。


だがその式が彼女に当て嵌まった事はなく、敵からは積極的に首を狙われ、力を信奉するはずの味方からすら恐れられる始末。



それなのにトラバルトは彼女を女性だと言った。あどけないと言った。


自らの命を晒し、彼女を庇った。


動くのもままならない彼女をおぶった。



(あったかい)


その背中から伝わる体温に彼女はつい体を預けてしまい、微妙にテンポが合わない鼓動に耳を傾ける。


本来天敵とも言える男の背中に、自国のどんな場所よりも安らぎを覚えた。



(この人とはもう、戦いたくない)





それから程なくしてトラバルト失脚の報が入る。


彼女は自分にとどめを刺すのを躊躇っていたトラバルトに対して怒鳴っていた男を思い出した。


(わたしを、助けたから?)


近頃戦から遠ざかっていた彼女は再び刀を携え、トラバルトの行方を知るべく再び血生臭い戦いの場へ戻る決意を固めた。


(将軍を、探さないと。

新しく将軍になったアトスって人、なにか知ってるかも)



王女・ヨルムンガンド。

これよりトラバルトと再開するまでの間の彼女は、正に無敵である。

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