第16話 客

陽はすっかり落ちてしまったが、なんと2人はその日のうちにオステイン村についてしまった。


(本当に凄いな。

まさか今日の内に着いてしまうとは。)



しかし多少の無茶をしたのか、肩で息をしているようだ。


「助かったよ。

無理をさせてしまってすまない。

だがおかげで野宿は避けられそうだぞ。」



「力になれたのなら、よかったわ」



そしてヨルムンガンドを伴って村の門をくぐり、足早に生家に入り込むと、中は薄暗くろくに身動きも取れない。

そこで闇目が利くトラバルトが何やら壁際でカチッカチッと音を立てると蝋燭に火が灯り部屋に光が広がった。



「私がたまに帰って片付けているからそんなに汚くはないはずだ。

こんな状況だから大したものはないがくつろいでくれ。」



おおよそ5.6メートル四方程度の家の中は、荷物が少なく物がきれいに並べられており家主の気質が窺える。

そしてトラバルトは部屋の隅の床の一部を取り外して、何やら中から取り出した。



若干の好奇の目で見ているヨルムンガンドに気付いた彼は「ああ」と言い、作業を続けながら語る。


「ここには保存がきく干し肉と私の将軍時代の給金が入っているんだ。

この穴の外へ繋がる壁に少しだけ穴を開けて多少は長持ちする様にしていてね、私はここに帰る度に食しては新しいのを作って入れておくんだよ。」



穴から出てきたトラバルトは巨大な木を切って作られたテーブルに取り出した容器を置きベッドにチョコンと腰掛けていたヨルムンガンドを卓へと招いた。



「少し待っていてくれ、井戸から水を持ってくる。」



「私も」とヨルムンガンドも着いてこようとしたが、客人を働かせるわけにはいかないと待ってもらう事にして足早に井戸に向かう。


(家に人を招いてもてなすのは初めてだな。)


そう思う彼は自分が少し高揚している事に気づく。


剣と国に捧げた彼の青春に後悔はないが、こういう些細な事もまた彼が望んでいた事は間違いない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る