第14話 和睦の報せ


奇妙な関係の2人の旅人は今トラバルトの生家がある村、オステインに向かっている。


まずは先立つものがなければ何もできない。



オステイン村は旧タニア領の東南、少し歩けば海がある暖かい村だ。


潮風が吹く為農業には向かず、村人は漁を行ったり、山側にて狩や山菜を取って生活をしている。



オステイン村を始め、タニア領内の村や町は意外な事に殆ど魔族の侵略を受けていない。

それは魔族が力を信仰し、兵士同士の戦いによる決着を是とする者が多い為だ。



ヨルムンガンドからも軍が南下したことはないと聞き、トラバルトは安心した。



彼の両親は彼が王国騎士として取り立てられて間もなく流行病で亡くなっている。


そのためトラバルトは定期的に村に帰っては両親の墓の世話をしつつ、軍の給金を生家に蓄えていた。


元々質素な生活をしており、剣以外に特に関心ごともなかった為、彼の資産は潤沢であり、旅支度をするには充分だった。


オステインまでは通常ならば7日ほどかかるが、現状の装備ではあまり長い野営は辛いものがあるので2人は急ぐ事にした。





その道中、トラバルトは行商から戦争終結の報せを聞いた。





(そうか、終わったのか。)




タニア王国は滅亡。

テゾ共和国は降伏。

残りの三国は和睦。



魔族はテゾの降伏も3国の和睦も受け入れたがそれに条件をつけ、4国は了承。

ここに世界を二つに割った戦争は終了した。



その和睦の条件とは概ね以下のようなものだった。

・滅亡したタニア及びベレトニア大陸な残存する人族の国の領地の一部を魔族の領地とする事。

・ベレトニア大陸における開墾作業に人族から人員を動員すること。

 尚動員された人族には最低限の生活を保証する。

・友好的な交易を開始する事。



トラバルトを始め人族の多くは、その条件に驚いた。

数百年の対立の終わりにしては、驚くほど平和的で人道的だ。



人族は魔族を野蛮な種族だと認識していたが、仮に人族が勝利していたらこういう温情ある対応が出来できただろうか。


(完敗だな)





トラバルトは戦争の早期の終結に安堵した理由があった。

当然戦争は早く終わるに越したことはないのだが、それとは別に、戦争中であればヨルムンガンドを伴っての人族の村や町への立ち寄りは困難を極めたであろう。

戦争が終わったからといってなんの弊害もないとは思えないが、和睦の条件も後押しとなっていくらか敵意も緩和されるだろうと期待していた。



(根底にある敵対感情はそうそう薄れるものではないかもしれないが、まずは営利関係からでもいい。

お互いを知れば未来もあるだろう。)

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