第6話 魔導・ヨルムンガンド
「カルロス」
トラバルトは眼前の魔族を斬り後退し、自らの親衛隊長の名を呼んだ。
すると長身のトラバルトにも並ぶ程の大男が乱戦の中から駆け付けてきた。
「閣下、狼煙があがっておりまする」
トラバルトは早口でカルロスに伝えた。
「ああ、ガウェインがそう簡単にあれを打ち上げるとは思えぬ。
恐らくまずいことが起こったのだ。
私はこれより急ぎ救援に向かう。
お前はここを指揮し恐らく下流より進軍してくるアトスと協力しここを制圧。
そして状況をアトスに話し我らの元へ急行してくれ。
すまぬが頼んだぞ。」
そういうとトラバルトは全速力で上流へと駆け出す。
「あっ、閣下お一人では…」
カルロスがここまでいう頃にはトラバルトはもはや声の届かぬ程駆けていた。
(閣下の腕なら死ぬことはあるまいが…
今は託されたここに専念すべきか)
そう思い直しカルロスは味方に檄を飛ばし自らも乱戦の中に突っ込んで行った。
(ガウェインよ、何があった)
トラバルトの豪脚は瞬く間に少し先で行われている戦場の様子を捉える。
そして近くなるにつれてその惨状が少しずつ見えてきた。
(これは)
魔族の数はそう多くない。
中央の部隊の片割れといったところか。
だが、700人いた味方はかなりの数が倒れており死屍累々の有様でその只中、ガウェインを始めとする兵士達が死に物狂いで剣を振るっていた。
その光景に唇を噛み剣を握る力に力が入る。
だんっ、と大きく跳躍しトラバルトは敵陣の後方から陣中深く斬り込んだ。
「すまぬ皆、待たせた。」
斬り込んできたトラバルトに対し、魔族も当然黙ってはいない。
自ら囲いに入ってきたトラバルトに四方八方から斬り掛かった。
流石のトラバルトも無傷では捌き切れず大きな傷こそ全て避けたが黒い軍服が所々裂けていた。
すると前方で交戦中のガウェインの声が響いた。
「閣下、魔導です。
ヨルムンガンドです」
それを聞き、トラバルトのこめかみを冷や汗が伝う。
魔族には稀に、特殊な個体が存在する。
通常の魔族よりも強靭な肉体を持ち羽を持つ魔族。
通称“羽付き”
そしてその中でも更に特殊な個体が“魔導”。
現在報告例は3人のみ。
姿形こそ羽付きのそれだが、戦闘力は桁外れに高い。
身体能力の高さは勿論だがそれとは別に奇妙な術を使うという。
やつらが手をかざせば紫色の閃光が空を飛び襲いかかり、吹き飛ばされたり、貫かれたりする。
得体の知れない力を自在に操る様から人族は、奴らを魔導と呼び全軍に通達した。
魔族の剣術は繊細さに欠けるものは多いが、その奇妙な術との合わせ技は強力であり、人族の最高戦力として名高い5将軍の1人が以前魔導の手にかかり戦死している。
ヨルムンガンドは、5将軍の一角を落とした魔導ではないが同程度の戦闘力を持つと見て間違いない。
トラバルトの体に一層の緊張が走る。
すると
「誰?」
と声がしトラバルトの前の魔族達が道を開け始めた。
そしてそこにいたのは魔族としては随分小柄な、しかしその背の羽は明らかな格の違いを示し、そしてその顔はこの世のどんなものよりも白い肌に、金色の瞳でこちらを無感情に見据える少女であった。
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