第5話 相思相愛


トラバルトの元にガウェイン、アトスからの伝令が到着した。


「よし、進軍開始。」


トラバルト率いる精鋭100名が動き出す。


緩やかな斜面を登り下りして少し進むと川が見えた。


斥候の報告によると川の深さは中央で1メートル程度、幅は目算で20メートル程度か。


トラバルトを先頭に一行はついに川に足を踏み入れ進む。

流石に今の段階では敵は出てくるまい。

出てくるとしたら恐らく我々半分近くが陸に上がった程度の頃。



一行に緊張が走り先頭のトラバルトが対岸に上がった。



一人また一人とどんどん上がっていき、30名程が上がったろうかという時。




「かかれ」



と森の中から怒号が発せられた。

すると同時に魔族の部隊が幅広の重厚な剣を掲げ突撃してきた。




「鳴らせ」


トラバルトは兵に発し、角笛を吹かせた。

辺りにこだまする音が開戦を報せガウェインとアトスにも届く。




「さぁ行くぞ、我らで抑えるのだ」


トラバルトは剣を抜きかけ出した。



閣下に続けと皆も次々と剣を抜き気勢を上げる。





トラバルトと魔族の剣が火花を散らしたかと思うと、魔族の剣は叩き折れた。


逆袈裟にその魔族を斬り伏せ、左から首を狙ってきた横薙ぎを、ひょいとやや上体を後ろにそらして躱したかと思えば、そのそらした動きそのままに剣を切り上げ2人目を倒した。


その後も最小の動きで、可能な限り効率的にかつ効果的に、トラバルトの剣は敵を斬り伏せていく。


(…。)





トラバルトの剣技は、多くの王国兵士が使う王国剣術とは異なる。



彼の生まれは狩人の家だった。

物心ついた頃から国を守る兵士に憧れていたトラバルトは早くから体を鍛え、狩りに出ていた。



足場の悪い山を駆け巡り体幹は鍛えられ無理な体制での攻撃や回避を可能にした。


鋭利な爪や牙を何度も受けながら、度胸と洞察力が鍛えられ敵の白刃を冷静に捌く判断力を得た。


そして自らの体躯を大幅に上回り、筋肉と厚い毛皮に守られた獣にダメージを与えるべく彼の剣戟は鋭くなって行き、受け太刀に回った相手の剣を断ち切る程の剛剣を手にした。




剣を愛し、剣に愛され、幼少より昼夜を問わず剣を握り続けた狂気により完成されたトラバルトだけの剣。


本来屈強な魔族相手に一般の兵士では3人以上でかかる必要があるとされる。


しかしトラバルトの場合は、例え魔族が3人以上で掛かっても勝てぬ域に達していた。




閣下の奮戦に部下達の剣も猛る。



この隊の役目は囮。

故に耐えることが必要であったため、この隊には副官クラスでこそないものの精鋭が集められていたのだ。

皆がが一様に刃を振るい、味方を庇い、鬼気迫る戦いを展開していた。




斬って斬って斬りまくるトラバルトの周りは少し開けており辺りを見渡した彼は焦りを感じた。


(少なすぎる…。)


森より出てきた魔族の数はおおよそ50程度。

今までの交戦経験からして少ない数だ。


(何か狙いがあるのか?指揮官らしき姿もない。)



その時上流へと向かっていたガウェイン達の方角から狼煙が打ちあがる。




赤く立ち上る煙を見てトラバルトは自らの心臓の音が早くなるのを感じていた。


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