第4話 戦意高揚

ガウェインがトラバルトから先ほどのコーメル親子との会話を聞き、苦々しげな顔をしている。


「怖いのなら屋敷にいてくれればいいのですがね…」



トラバルトは内心大きく同意しつつ、ガウェインを諫めた。


「言うな、もはやどうにもならぬ。

今回の戦いで、少しばかり怖い目にあっていただき大人しくなってくれることを祈ろう。」



ガウェインは合わせて笑いつつも、そう言うトラバルトがいよいよ気の毒になった。


「先程アトスにも伝えたが敵が正面に少数とも限らぬ。

無理はせず伝令を走らせた後は遠慮なく引け。

特にお前の隊はコーメル卿達を伴っているので足が遅い。

いざの際は狼煙を上げろ、私が行く。」



ガウェインは将軍の頼もしい言葉に、体に力が入るのを感じた。


「ありがとうございます。

しかし一番危険なのはやはり閣下の隊です。

おこがましいとは思いますがどうかお気をつけて。」


ああ、とトラバルトは微笑みを返す。




「さて、各隊行動開始。

準備位置に付き次第伝令を出し待機。

開戦の報せを待て。」




トラバルトは少し緊張していた。

作戦は本当にこれで良いのか、今回はもはや自国領の地形を把握できている戦場ではないが敵にしたらどうなのか、不安要素をあげればキリがない。

そもそも敵は本当に潜んでいるのか、渡河した後も現れずに合流した所を叩かれたらどうする?

潜んでいなかったら森を迂回したいがどれほどの大きさの森なのだろうか。


トラバルトは元々ポジティブな性格ではなかったが、将軍に就いてからというもの、より心配性になった。

それはやはり自分の指揮下にある部下達の存在故だ。


そしてそんなドラバルトを部下達は慕っていた。


閣下の刃が鈍っている。


トラバルトは強い、それでも心に思うところがあるうちはその集中が乱れ、部下達もそれには気付いていたようだ。



我らが閣下を我らで盛り立てる。


彼等の意気は盛んだった。


そういう意味ではトラバルトは優秀な指揮官であるかも知れない。



ガウェインもアトスも準備位置に付き伝令を放ち、湧き立つ戦意を抑え開戦の報せを待つのだった。

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