第3話 作戦


「では2人とも、予定通り頼む。

何かあったら急ぎ使いを出してくれ。」


手筈を副官の2人に告げトラバルトはコーメルとルーメルの元へ向かった。



「コーメル殿、ルーメル殿、この先に川があり、それを渡った先に森があります。

確かではありませんが昨日、付近で敵影を発見したとの報告があり警戒しておりましたが未だこちら側に渡っていない事を考えると、敵はこちらの存在に勘付き森の中に潜んでいる可能性が高いです。

よって我らは3手に分かれて行動します。」


トラバルトからいよいよ開戦の知らせを聞いたルーメルは、戦闘の惨さに似つかわしくなく目を輝かせ、おぉっ、と声を上げた。

コーメルはというとやや訝しげにトラバルトに聞く。


「何故3手に別れるのだ。

魔族は屈強、1対1では人は敵わぬと聞く。

分散すると不利ではないか。」


コーメルの言う通り、魔族は屈強だ。

そもそも人族と魔族の数というのは人族が圧倒的に多い。

それでも未だに均衡が崩れないのは一重に魔族の戦闘力の高さ故だ。

腕力、耐久力共に人族の一般的なそれを大きく上回り、人族の間ではあるセオリーが生まれた。


“魔族と戦う際には必ず1人に対して3人以上でかかれ”、と。


一般的な魔族でそれなのでコーメルの心配も理解できる。



「仰る通り魔族は屈強です。

ですがこの先の川と森との間隔は狭く多数の兵ではうまく動かずかえって危険です。

それに仕掛けてくるとしたら全員が川を渡り切るまで恐らく待ってはくれぬでしょう。

そうなると数で劣るまま戦い味方は思うように陸に上がれず、そして川にも戻れずという状況になりかねませぬ。

そこでまず私が100人の精鋭を率い正面から渡河し敵を迎え撃つ囮となります。

その際、副官のガウェインとアトスに兵を700ずつ預け、敵に動きを悟られぬよう迂回し、上流と下流よりそれぞれ上陸し我らと交戦中の敵を挟撃する作戦です。

敵に動きを悟られる可能性もあります故、最悪各個対峙も視野に入れねばなりません。

しかし今までの交戦経験からして敵は1部隊につき100〜200人程度が一般的なようですから勝機もあり、お互いの救援も可能でありましょう。」



トラバルトは将軍とはいえ決してその用兵は巧みではない。

だが戦争の作戦を聞いて興奮する我が子を横目にコーメルは気を良くして納得した。


「つきましては、お二人にはガウェインの部隊と共に渡河していただきます。」



えっ、と2人は驚きルーメルが少し焦りながら言った。


「私達はトラバルトと共に行くのではないのか?

いざという時に誰が私達を守るのだ。」



「ガウェインがおります。

彼は私の副官、“羽付き”とも互角に戦える数少ない男です。

それに私は中央を少数で囮になります故、私と一緒ではかえって危険でございます。」


トラバルトは予想していた台詞を言われて心の中で溜息をついたがそこは納得してもらうしかなかった。



「そ、そうか、ならば仕方あるまい。

その代わりガウェインとやらには私と父上をしっかり守るように言っておいてくれよ。」


不安げな顔でルーメルは清々しく自分本意な懇願をしてきた。


(こういう方々なのだ、怒ってもどうにもならない。)


「承知しております。

命に替えてもお守りするように指示を出しております。」



そこまでいうとこの困った親子は安心したようだ。




(さて、敵がうまく乗ってきてくれればいいが)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る