第7話 魔導の力


魔族は大柄な者が多いが彼女は違った。


目算ではトラバルトの胸くらいまでしかない身長だが、それに油断をする彼ではない。



かの人族の大国、バステア帝国の先代将軍、ローランが魔導に殺されている。

トラバルトは改めてその事実を噛みしめ剣を構えた。



「ガウェイン、兵を纏めつつ退却せよ」


ガウェインへ退却の指示を出したのち、ヨルムンガンドを見据える。


「ヨルムンガンド殿とお見受けする。

私はタニア王国将軍トラバルト。

一騎討ちを所望する。」


トラバルトの名乗りを受けたヨルムンガンドはハッとした表情を見せた。


「あなたがトラバルト将軍。

悪いけど一騎討ちはできない。

5将軍とは不用意に戦うなって言われてるし、私の仕事まだ終わってないの。ごめん。」



トラバルトは内心冷や汗を流した。

いくらやむを得なかった事とは言え自分に慢心があったのではないだろうか。



ある意味当然ともいえる。

“輿”などに乗る人間があれば敵国の要人である事は必須、狙ってくれと言ってるようなもんだ。

口ぶりからしてヨルムンガンドの立案ではないようだが間違いない、敵の狙いはコーメル卿だ。


そのコーメル親子は味方の圧倒的不利に慄いたのかすっかり幕を下ろし、ただ息を飲んでジッとしていた。




くっ、とトラバルトが駆け出すがすかさず包囲していた魔族が襲い掛かる。


獅子奮迅のトラバルトだがそれでも多勢に無勢、己の不明を呪うばかりだ。



「あまり時間をかけられないみたい。

ごめんね。」


そう言うとヨルムンガンドは左手に力を込めると魔を体現するかのような紫色に発光し始める。

対し、既に満身創痍のガウェインだったが、トラバルトが来た今、自分の責務を果たすべく奮起した。


「死なばもろとも、我らで仕留めるのだ」


それに怒号を上げ兵士たちが続いた。



10人でいっぺんにヨルムンガンドに斬りかかろうとしたその時彼女の左手の光が勢いよく飛び立ち、ガウェインたちの胸を貫く。




もはや体は死んだガウェインはただ執念で剣を振り下ろした。

ヨルムンガンドは一言「ごめん」と呟き、振り下ろされる剣より早くガウェインの首元を右手の刀で裂いた。




そして大きく踏み込み迎え撃つ兵士達の中に飛び込むと刀で切り裂き、死角から迫る兵を光球で迎え撃ち、全く寄せ付けない立ち回りでどんどん切り進んだ。



そしてついに輿を間近に捉え、担ぎ手を撃ち崩し親子の乗る輿が地面に落ち親子が放り出された。



その時だった、今まさに親子を捕らえようとしたヨルムンガンドだったが一瞬たじろぎ固まった。



その腰を鋭い感覚が襲う。



もはや事切れていたがガウェインの放った小剣が深々と刺さっていたのだ。




そこへトラバルトが包囲を突破し迫る。



(ガウェイン、みんな、すまぬ。)



ヨルムンガンドはトラバルトに向き直り顔を青くしながら光球を放つ。



だがトラバルトは目にも止まらぬ速さで迫りくるそれをこれまた目にも止まらぬ速度で斬り霧散させた。



(痛みでうまく集中できない)



ヨルムンガンドの左手から光が消え、そのまま刀に添え、トラバルトを迎え撃ったのだが、トラバルトの剛剣は受け太刀した彼女の刀を半分に折ってしまった。


そんな状況でも表情を変えない彼女は、返す太刀をなんとか避けて一歩距離を置く。


そんな彼女の目に入ったのは自分の折れて吹き飛ばされた太刀がルーメルの頭上に降りかかろうとしている瞬間だった。


彼女は右手の折れた太刀を投げ捨て不乱にルーメルの元に駆け出す。


トラバルトは自分とは違う方向に駆け出したヨルムンガンドに一瞬出遅れてしまったが、目線を移した先のルーメルの頭上に今正に突き刺さらんとする白刃が見え、ヨルムンガンドとと同じく駆け出した。



刹那、伸ばした手の甲に白刃が刺さったヨルムンガンドの姿があった。



(…!)


トラバルトは唖然とし、足を思わず止めてしまった。



震えるコーメル親子をジッと見つめヨルムンガンドは一言ボソッと呟く。



「ごめんね」

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