第2話 新たなる旅立ち

「本当に一人で大丈夫?」

 入学式の朝、お母さんがそう言った。

「うん」

 千佳はそれだけ返事をして身支度を整えた。昨日まで何回も試着した新しい制服は、白のブラウス、細紐の赤いリボンそれに薄い青のブレザーとチェックのプリーツスカート。ソックスは白をくるぶしまで折りたたんである。実は鏡の前で何回もスカート丈を調整している最中に翔太が「あの学校で珍しいからスカートめくられるぞ」と不安になるようなことばかり言ってくるので、スカート丈を膝下まで下ろしてしまっていた。

 髪は中学まではツインのおさげ髪だったが、今日からの闘いに備えて、千佳的に気合のショートにしてある。

 ——中坊みたい。

 鏡を見ながら自分の姿にそんなことを思い、もう一度気合を入れるために両手で頬を2回叩いた。


 駅まではお母さんが車で送ってくれる。両親は共働きで、「ネンドガワリ」でどうしても休みが取れなかったらしい。だから、昨日家族で写真を撮った。


「あら、春木さんおはよう」

 玄関を出ると、お隣の佐々木のおばちゃんと会う。

「おはようございます」

 お母さんが返事をすると、おばちゃんは制服の千佳を見て、

「千佳ちゃん、おはよ。へえ、やっぱり女の子の制服もあるんだねえ。この制服は初めて見たわ」

と近くに寄ってきて千佳の服を触りまくってくる。

「そうなの。もともと制服はあったらしいんだけど、誰も入学してこなかったから、着る子もいなかったらしいのよ」

 お母さんは、あの高校に行かせる心配はもう吹っ切れたのか、「どう、可愛いでしょ」と佐々木のおばちゃんに自慢げに言っているのだ。

「でも、千佳ちゃんみたいな大人しい子がやっていけるのかねえ」

とむしろおばちゃんの方が心配顔だ。

「まあ、この子はこう見えて意外と大丈夫よ、きっと」

 お母さんはなんの根拠もないことを言いながら、車に乗り込みエンジンをかけた。千佳も助手席に乗り込みながら、

「じゃあ行ってきます」

とおばちゃんに挨拶をすると、おばちゃんは心配そうに小さく手を振った。


 そして千佳を乗せた車は、新たなる希望へ向けて走り出したのだった。

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