タタカイノ、キロク

西川笑里

第1話 プロローグ〜開戦前夜

 たぶん、誰もがそう言うのはわかっている。


 ——そんなことは最初からわかってたことだろう。


 そうよ、確かにわかってた。でもそこであきらめたら、世の中何も変わらない。歴史上、女たちは戦ってきたのだ、この世界の不条理と。


 ——明日から私も闘う女になる。

 

 高校入学式の前夜、鏡の前で明日から着る真新しい制服を試しながら、千佳はそう心に誓っていた。


「姉ちゃん、もうその服着るの何回目?」

 弟の翔太が呆れたように言う。

 ——うるさいわ。

 心の中で弟に文句を言う。

「何度も言うけど、姉ちゃんにあの学校無理じゃね?」

 ——うるさい。姉ちゃんの気合いがわからんか。

「初日から泣き出すんじゃね?」

 ——だから、うるさい。

「だいたい、姉ちゃんみたいなヘタレの泣き虫が行く学校かよ」

 こたつで寝転がってからかう翔太を千佳は睨みつけるが、翔太は気にもとめない。

「ほら、もう涙目じゃ」


 ——ホントうっさいわ。うちは変わるんよ、明日から。


 泣きながら誓う千佳であった。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る