第29話:約束の時と予想外な出会い

 現在、オオバとの約束の日の約束の時間。

 以前にオオバに連れられた家に、オオバそして着物を着た女の狐のアニマリアといる。

「キトさん、来ていただいてありがとうございます」

「あ、ああ。それは、お互い様なんだが……お前の後ろの威圧感のすごいのは何なんだ?」

 オオバの背後に腕組みをして立ち、俺を鋭く睨むその狐のアニマリアに聞こえないよう俺はオオバに囁く。

「この人は、東叉の篝火と名高い儂らの隊長イナリさんです」

「そんな隊長さんが、なんでいるんだよ?二人で会うって約束だっただろ」

「儂も約束を違えるわけにはいかんと話したとですが……」

「何をひそひそと話している、ここに来たのは雑談をするためだったのか?」

「……まあ、長話は好きじゃない。まずは、本題を話そうぜ」

 俺は、ここに来る前にシシから俺たちトレイター側の戦力や、オオバたちと協力関係になるにあたっての俺ら側から出す絶対条件を聞いた。

 まず、トレイターの全体の戦力はシートやイグリに俺と、これまで助けてきた奴隷たちの家族や友人たちなどのなかの戦える者たちの総勢20名らしい。 そして、トレイター側からオオバらに対しての絶対条件は、奴隷商の活動激化の理由を調査に協力すること。

 シシから聞くところによれば、帝国での奴隷とは初めは身寄りのないアニマリアたちの生活援助を目的としたものだったらしい。それがいつからか、主に裕福な人間たちの目には欲望の捌け口のように変わってしまった。シシは、その現状を変えるとともに原因の究明がしたいと語っていた。

「なるほど。今の奴隷商の活動や、奴隷たちの扱われ方には私も疑問を抱いている。私は異論無い」

「儂も構いません。しかし、そちらからの条件があるということは、こちらからも少し条件を出させてもらわんといけません」

「ああ、それはこっちも覚悟の上だ」

 そしてオオバは、俺たちへの条件を話し出した。

 簡単にまとめると、オオバら奴隷解放小隊に俺たちトレイターの指揮を全て任せると言うことだ。

「もちろん、捨て駒として使うつもりは毛頭無い。ただ、私たちはいくら小さな国と雖も一国の訓練した隊だ。想定されるイレギュラーは少ない方がいい」「つまりは、俺たちに好き勝手動かれると邪魔だから指揮下に付けという話だろ?」

「言い方は悪いが、そうだ」

「いいぞ、その条件でお互いに手を組もう。だが、その作戦会議には混ぜてもらうぞ」

「ああ、構わない。では、後日改めて全員で顔をあわせよう」

 その後、詳しい予定を相談し、イナリはその場を去った。

「それでは、儂も失礼します」

「ああ、またな」

 オオバらと解散した後の帰路、俺は何者かにつけられている。

 隠密のスキルでもやっているのか、少し気配を感じにくいな……。

 実は、これまでの帝国内の見回りをしたおかげで俺は、帝国中央都のほとんどの地面を俺の支配下としている。

 そのおかげで、自分の近くの文字通り地に足を着けている生き物の大まかな位置情報を感知できる。

 人数は背後に一人。今までにスキルを使う奴との接敵は、リヴァイアサンとの時ぐらいだ。

 それに、屋根の上なんかにいられたら気づけない。

 もしこれが、俺たちの行動に気づいた奴隷商側の追っ手だとしたら、アジトまで帰ることは出来ないな。

「なッ?!」

 背後に感じていた気配が、急に地面を強く蹴り物凄い早さで俺の方に近づいて来るのを感じた瞬間。

 ——グサッ。

 右胸部に、鋭利な短剣が突き刺さる。

 そして、それと同時に体の力が抜ける感覚におそわれ次の瞬間、完全に意識を失った。

 

 目が覚めた。

「暗いな……どこだ?」

 周りを見渡すと、薄暗くてよく見えないが鉄格子が見える。

 どうやらまた、牢屋の中らしい。

 それに俺は、ことあるごとに気絶させられるな……。

「とりあえず、ここの岩壁も床も慣らしとくか」

 壁に手を付け、目を瞑り少し集中する。

 初めてやったときよりかは、スムーズに魔力を操作できるようになったが、やはりまだ岩相手には集中が必要だな。

 壁、床に俺の魔力が伝わると、段々と壁や床の魔力自体が俺と同じ魔力になっていく。それと同時に、薄暗く大まかな場所しか確認できなかったところが少しだがさっきよりは把握できた。

 俺の背後、床に一つ気配を感じる。

 どうやら俺は、相部屋らしい。

 近づき気配の正体を確認すると、そこには色あせたぼろい服を着た髭の長い白髪の老人が座り込んでいた。

「おい、じいさん生きてるか?」

「……」

 俺の言葉に少し反応したが、返事はない。

「おい、じいさん?聞こえてるなら、返事してくれ。聞きたいことがあるんだ」

「……」 

「はあ、返事無しか。今回は、以前のようにレヴィアタンに誘拐紛いに助けてもらう訳にも行かねえし、それにシシたちとオオバたちの関係が悪くなる可能性もある……」

 無理矢理脱出することも可能だが、ここに来る前にくらったあの謎の短剣のこともある。

 それにあの短剣を刺されたとき、シート、ルナらと初めて会った時に飲まされた薬と気の失い方が似ていた。

 体中の力を段々と吸われていくような……。いや、あれは魔力を奪われていくような感覚だった。

 レヴィアタンの《メルトラヴ》とは違う。

 正直言って嫌いだ。

「……シシ?」

 不意に老人が、俺の言葉に反応しシシの名前をこぼした。

「ん、じいさん、シシのこと知っているのか?」

「あの子は、奴隷として我が帝国のメイド見習いになるべく毎日励んでいた……」

 老人は、先ほどまでとは裏腹に話し出す。

「帝王に仕えるメイドは、普通の貴族のメイドよりも仕事、仕草の質が求められる。そのため、幼くしてメイドになるために連れてこられた彼女は、酷な努力を強いられていた。私もほとんどの使用人たちも、シシの努力する姿や成長する様に強く感心を持っていた。しかし、私たちが彼女に好意を抱く一方で彼女を妬み悪意を向ける者たちもいた。その悪意が、実際に彼女に牙を剥きだしたのは4年前のことだった。本来与えられるはずの仕事以上の仕事を任せたり、それまでも静かに行われたシシに対するいじめとは、比にならないほどの出来事が起きた」

「出来事?」

「そう。シシを妬んでいたメイドの一人が、ある貴族をけしかけシシを訴えさせた。いくらシシが何もしていなかったとしても、そのメイドがシシがしたように見せかけることも出来ることにあわせて、シシに対する訴えを出したその貴族は、帝国にとってとても有力な貴族であったため、誰もシシをかばうことが出来ずやがてシシは、奴隷へと身分を戻されてしまった。その後彼女の身に何が起きたのか、激化する奴隷へを扱いを見ると想像に難くない……」

 いままで聞いたことの無かったシシの過去。年の割に家事を完璧にこなしたり、帝国のことを案じていたりと多々あったシシへの疑問が解消された。

 しかし、このじいさんは何なんだ?これほどまでにシシや帝国のことを知っているとなると、元はこんな獄中の老人になるなんてあり得ないほどの身分なんじゃないか?

「おい、じいさんあんた……」

 ——カツッカツッ。

 俺が老人に話しかけようとしたその時、ここから奥の方から誰かの足音が響いてくる。

「誰か来たのか?」

 何者かの足音とともに、明るい火の光が近づいてくる。

 やがて、その火が俺の牢の正面に来ると、足音の正体が露わになる。

「やっと、見つけた」

「……え?」

 俺の眼前に現れたのは、くせっ毛で金髪ロングで目つきの鋭い見知った顔だった。

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鉱石よ、大志を抱け! ありづき @ari-8-duki

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