第27話:同業者
トレイターの活動に参加し出してから、一週間が経とうとしていた。
約一週間の間、奴隷商を見つけた数は8。
一日何もなかった日もあれば、一日に複数回見つけることもあった。
そして、今日も見回り中、奴隷商を発見したのだが……。
「同業者か?」
「多分」
俺とイグリは、物陰に身を隠し小声で話す。
俺たちの目の前には、奴隷商の大きな荷台の付いた馬車と男が二人に、それに襲いかかる一人のアニマリアの姿だった。
そのアニマリアは、奴隷商の男たちを殺し終わると馬車も奴隷だったアニマリアたちも置いて何処かへ走り去って行った。
「一人だったみたいだな」
走り去った方を見たが、すでに影一つ終えなかった。
「とりあえず、この子たちを家に帰そう」
「ああ」
その後、馬車に積まれていた奴隷たちを各々の家まで送り返し、アジトに帰り、同じようにシシたちにも謎の同業者について話した。
「再びその現場に立ち会うことができたなら、話をする価値はありますね」
「……えぇ」
「俺たちと同じ目的で動いててくれたなら、そうだな」
「うん?奴隷商を殺してるんだ、目的は一緒何じゃないか?」
「まあ、普通はな。確証はないが、警戒は必要だということだ」
確かに、奴隷商を殺すことに関しては俺たちの活動と一致している。一つ気に掛かることと言えば、奴隷商の被害者を置いていったこと。
俺たちに気づいて、わざと置いていった?
いや、そんな素振りはなかったし、俺もイグリも気配を消すことに関しては自身がある。
もし、あのとき、片手間で俺たちの存在に気づいたとすればただ者じゃない。敵にはしたくないか……。
「では、今度また遭遇した場合は警戒しつつ接触を図ってください。少しでも危険だと感じたら、全力で逃げるように」
そして、現在。
前回の遭遇から二日後の夜、二回目の見回りにイグリと出ている時だった。
「――ウァアアアアアアアア!」
大通りのすぐ近くの路地裏から見回りをしていると、路地裏のずっと奥の方から誰かの声が物凄い早さで近づいてくるのを感じた。
「何だ――ッ?!」
振り返ると同時に、腹に大きな衝撃を感じ膝をつく。
「キト!」
「奴隷商、こんな小規模にも動いていたとはな!今の頭突きで死ななかったのは、褒めてやる。光栄に思い死ね!」
「おい、待てお前!」
「問答無用、お嬢ちゃんは離れてて。――猛牛進ッ!」
謎の声の主は、そう言うと少し距離を取り再び向かってくる。
明らかにさっきよりも早い。
物理攻撃で俺に挑むとは、愚かだ。
俺は、腹部を魔力結晶へと変化させる。
――ガギィーンッ!
さっきよりも遙かに強い衝撃が、腹部から全身へと響きそのまま押され大通りへと出る。
俺にぶつかったそれは、ぶつかっても尚、さらに力を込め始める。
「ウァアアアアアアアアアアアー!」
それに負けじと、俺もさらに足と腹に力を込める。
――ピキッ。
「何ッ?!」
俺の結晶の腹に少し罅が入る。それと同時に、イグリが俺の腹にぶつかっている謎の声の主を蹴り飛ばす。
「た、助かった。何なんだ?」
「あいつ、奴隷商がどうとか言ってた」
「謎の同業者か」
「多分」
体を元に戻しながら、イグリが蹴飛ばした方を見る。
大通りは、月明かりで照らされ、謎の声の主の姿が見える。
それは、牛のような角と耳に尻尾の生えた小柄な女のアニマリアだった。
「もしかして、奴隷商の味方をするんですか?アニマリアなのに……」
牛のアニマリアは、ゆらりと立ち上がると、その目には確かに殺気を宿している。
「やるしかないか」
イグリは、低いうなり声を上げながら殺気を放ち出す。
「イグリ、殺すのは無しだぞ」
「分かってる。でも、殺す気でやらなきゃやられる」
出来立てとは言え、魔力の塊である魔力結晶を割るくらいの力がある奴とどう戦うか。
まあ、今回はイグリとの共闘だ。
これまでの奴を観察するに、単体に対する強力な一撃を物凄い早さでぶつけることが武器であり、俺たち二人を一気に相手することは難しいだろう。となれば、俺が奴の注意を引き続けてイグリが横から攻撃。これが、最良か。
「イグリ、やっぱりお前は手を出すな。あいつの攻撃は、単純だからな。俺一人で十分だ」
「言うじゃないか外道、さっき異様に固かったのが何なのか知らないけど、次は粉々に砕いてやる!」
そう言うと、牛のアニマリアはクラウチングスタートの姿勢をとる。
俺もそれと同じタイミングで、腹部と両腕を電気の魔力結晶へと変化させる。
俺の体の魔力結晶が電気を帯び始め、バチッと白く弾けるとその瞬間、牛のアニマリアが猛スピードで俺に飛び込んでくる。
「――猛突進ッ!!」
上半身を屈め、胸部と腹部を両手を交差させてガードし次の瞬間の衝撃を覚悟する。
――ズドーン!
次の瞬間聞こえたのは、俺が砕かれた音でも、まして俺と牛のアニマリアがぶつかった音でも無かった。
地面を揺らすようなその音の正体は、周りを見渡す必要もなく俺の眼前に背中を向け立っている。
それは、2mは優にあるだろう巨漢のアニマリアだった。
「ユイ、言うことはあるか?」
今現在、俺とイグリは奇襲してきた牛のアニマリアと、巨漢のアニマリアに連れられて大通りから大分離れた一見何の変哲もない小さな家に来ていた。
奇襲してきた牛のアニマリア。俺とそれの戦いに割り込んできた、巨漢のアニマリアへの疑問は、あのあとすぐに解決した。
簡単に言うと、まず牛のアニマリアの方はユイと言う名前の女で、東の大陸より来た帝国の奴隷解放を目的とした集団の一員だった。そして、巨漢の方もオオバと言う名のユイと同じ集団の一員らしい。ちなみに、オオバはカバのアニマリアだそうだ。
「……」
「ユイ」
「別に、謝ってもらおうなんて俺たちは思ってないぞ」
「それよりも、同じ目的で動いてくれている人たちが自分たちの他にいることが心強い限りだな」
「そう言ってもらえて、儂にとっては嬉しいことですがね。単独での勝手な行動は、我々の目的をより困難にする可能性がある。キトさんらが、出来る人やったから大事無かったですが」
「まあ、ただの一般人なら死んでるな」
「て、手加減はした!」
「そう言うこと言いよっちゃ無い!」
「イダッ!」
ユイは、オオバから頭に思い切り拳骨をもらい頭を押さえる。
「というか、なんで東大陸からこの帝国に来たんだ?」
帝国に来る前に聞いた話では、この帝国は外への情報漏洩に厳しいと聞いていた。実際、隣国であるドードでさえも殆ど噂程度の物ばかりだったし、大陸を跨いで帝国の情報が知られているのは不思議だ。
「それは、さっきも言ったとおり奴隷解放のため」
「そうじゃなくて、どうやってリンゼル帝国の内部事情を掴んだのかを聞いているんだ」
「キトさん、儂がキトさんらに儂らのことを教えたのはユイの失礼を詫び、誠意を見てもらうため。でも、いくらこちらに非があるとはいえ、言えないことがある。第一、儂らはあなたたちを信用はしていない」
さっきまでの優しい顔はどこへやら、大馬は真剣な面もちでこちらを見る。
俺は、ここで確信した。
「イグリ、俺はこの人たちを信用する。理由はどうであれ、目的は一緒だからな」
「私も、完全にとは言えないし、トレイターの皆にも話さないとだけど信用する」
「オオバ、ユイ、お前たちが俺たちを信用していないのは当然だ。だから今度、俺たちの代表とお前たちの代表で交流しないか」
「代表?」
「誰でも良い、お互いの一番信頼のある者同士で話し合いをする機会を設けようって話だ。もちろん、複数人でも良いし一人でも構わない」
承諾や拒否は無かった。
しかし、また後日俺とオオバの二人だけで会う約束をして別れた。
オオバらと別れた後、俺たちはすぐにトレイターアジトへと帰った。
「奴隷解放を目的とした東大陸からの方たちですか……」
「まあ、確かに話してみる価値はあるだろうな」
「そうですね、私も仲間が増えるのなら嬉しいです!」
シートは、冷静に自分の意見を淡々と語り、ルナは新たな同士の予感に歓喜している。
そしてシシは、何処かこのことを不安そうにしている。
「シシ、不安なのは分かるし、この中で一番の新参者の俺が言うのはどうかと思うけど、俺を信じてみてくれないか?」
本当に最初は、自分よりも強い奴と戦って強くなれれば万歳だと思っていた。でも、この数週間の間に考えた。ここも、このトレイターという場所も、俺の席なのではないかと。
もちろん、一番大事なのはレヴィアタンがくれた席だがな。
俺は、精一杯の誠意と覚悟を込めてシシを見つめる。
「……分かりました。ですが、最初から私はキトさんのことを信じていますよ」
俺の真剣な眼差しにシシは、顔の半分が隠れてていようとも分かるほどの笑顔で返した。
元奴隷だった彼女の心の傷は、未だ癒えてはいないだろう。
なのに何故、こんなにも人を信じることが出来るのだろう。
何故、ここまで偽りのない笑顔が出来るのだろう。
俺自身に情はない。しかし、それでも伝わるほどの優しさが彼女にはある。
だからこそ、一層彼女の期待は裏切れない。
「任せてくれ」
俺がそっとほかの3人の方を見ると、それぞれが俺をまっすぐ見て頷いた。
折角もらった第二の席だ。役目は、果たす。
まずは、約束の二日後の夜、オオバたちに連れられたあの小さな家で。
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