第26話:ちょっとした嬉々

 イグリ戦のすぐ後。

 イグリと戦って、勝って、トレイターの皆で話を聞いた。

 今までにイグリがしてきたこと、そしてイグリの過去。

 それらは、今の俺にはどう感じて良いものか分からなかったが、トレイターの皆は同情し、受け入れた。

「……仲間として」

 現在、トレイターアジト。

 まだ日は昇っていない。

 俺は、改めて二人きりで話そうと、イグリを探している最中だ。

 まあ、大体の見当はついているからアジト内の改めての散策も兼ねている。

 ちなみに、ルナとシートは街の見回り。シシは、自室に籠もって何かしているようだ。

「狭いな」

 アジトは、三階建ての縦に長い西洋風な雰囲気の家で、一階はキッチンがあったり、リビングがあったりで普通の民家のような内装。二階には、ルナとシートのそれぞれの自室があり、作戦会議をするスペースもある。そして三階は、シシの自室と俺の自室がある。

「イグリの部屋は、どこだ?」

「上だ」

 三階の自分の部屋を見ていると、外から窓に急にイグリが顔を出してきた。 イグリの部屋は、屋上らしい。

 そこは、低い木の柵で囲われただけの場所で、部屋と言うには開放感がすごい。

「そういえば、お前の感想を聞いてなかったな」

「感想?」

「私の過去を聞いて、お前はどう思った?」

 驚いた。

 イグリは、ルナやシシ、シートからの言葉を聞いたとき俯いてばかりであまり何か思っているようには見えなかった。

 だから、イグリが俺に感想を求めてくるなんて……。

「まあ、なんというか、大変だったな」

 一応、本心で話しているつもりだ。 

「お前も、許してくれるのか?」

「俺もって言うか、確かに俺は、奴隷を良いとは思えない。だが、お前を攻めるだとか、怒るとかするほどじゃない」

「じゃあ、何でお前はトレイターに入ったんだ?」

 トレイターに入った理由。それは、大本の目的を果たす上での寄り道にすぎない。

「俺は、英雄になりたいんだ。人間として」

「英雄?」

 イグリは、俺の答えを聞いて強ばっていた体を少し楽にする。

「俺は、ここの奴隷というものを壊す。そして、奴隷解放の英雄として名声を上げる!だから、トレイターに入った」

「は…ははっ、なんだそれっ!」

 イグリは、笑った。

 これまで他人を警戒し続け、鋭く刺すような目つきばかりをしてきた彼女の笑顔は、子供のような、純粋な笑顔だった。

「あ、ルナたちには、違う理由言ってるから皆には話さないでくれ」

「わかった、二人だけの秘密だな」

 イグリは、微笑みどこか嬉しそうに言う。

 あんなに警戒されていたイグリの笑みを、二回もそれに数分のうちに見た。少しは、仲良くなれただろう。

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