第24話:疑わしきモノ
「何しに来た?」
帝国中央都地下街。
そこは、闇市とも呼ばれる場所であり人間の奴隷としての商売が一番盛んに行われている。
「パトロール?」
「シシに言われてきたんだろ?」
地下街の黒という店の中で、空の檻の上に座っているイグリと話す。
「疑われてるのは、知ってるよ」
「俺目線だと、完全に黒なんだが?」
「お前の目線で私がどうだったとて、お前も疑われてるんじゃ関係ないだろ」
そう言うイグリの表情は、少し笑っているようだ。
「で、お前はここで何をしているんだ?」
「前に言ったとおり、名前以上のことを教えるつもりはない」
「……そうか。なら、力ずくで行くぞ」
俺は、足下の床を槍に変化させる。
「力ずく?いいぜ、人間にアニマリアの強さ怖さを教えてやりたいと前々から思ってたんだ」
イグリはそう言うと、鋭い目をより尖らせて爪を立てる。
それは、ケモ耳美少女だとかというよりも、ただのケモノと言っても良いほどの殺気と威圧感を放っている。
「お前、この国でなんでこうもアニマリアがやりたい放題されてるか知ってるか?」
イグリは、強い殺気を放ちながら話し始める。
「まあ、知らないだろうな。それはな、この国の法のせいだ。この帝国内にてアニマリア全ての特徴的能力の使用を禁ずる。ってよ」
イグリは、言いながらひどく体を震わせる。
「私のこの爪も、シートみたいなアニマリアは存在自体を否定されているのと同じだ!人間に襲われたアニマリアが、少し抵抗しただけで善悪が入れ替わる。そのくせ、この国以外の世界はアニマリアを拒絶する……。なあ、どうやって生きればいい?」
そう言う彼女は、怒りではなく悲哀を感じられる表情をしていた。
「俺に、情はないぞ」
「そんなもの、端から求めちゃいない」
イグリは、再び獣のような殺意の籠もった表情になる。
「――ッ?!」
真正面から突風に吹かれたような感覚がしてすぐ、右腕に違和感を覚え肩に触れる。
すると、右腕が落ち元の土に戻り崩れる。
「傷を負ったのは、初めてだな……」
後ろを向くと、イグリがおそらく俺の腕を切ったのであろう手を見つめている。
「……血じゃない、土?」
「そ、そういう体質だ!」
「なわけあるか!」
我ながら、言い訳が下手すぎる。
「まあ、いい。どうせお前に俺は殺せない」
「人間じゃないお前を殺すのは、少し気が引けるが、そうまで言われたらやってやる」
一瞬だけ揺らいだイグリの殺気が、再び鋭く尖る。
「はぁはぁ……。ふぅ……チッ」
イグリが、酷く息を切らし倒れる。
それを見つつ俺は、ゆっくりとイグリによって壊された体を治す。
「俺の勝ちか?」
1時間もの攻防戦ののち、俺が勝った。勝因は、イグリが俺を殺すことが出来ないまま体力が尽きてしまったことだ。
「……そうだな。私は、お前を殺せない」
さすがアニマリアというべきなのか、イグリはさっきまで倒れ込んでいたとは思えにほどに息を整え回復していた。
体力が回復したにも関わらず、襲って来ないってことは、本当に負けを認めてくれたか。
「回復早いな。それはアニマリアだからか?」
「聞きたかったのは、そんなことか?」
仲良く雑談とは行かないか。
「じゃあまあ聞くが、お前はここで何をしているんだ?」
「……手伝いだよ」
「手伝い?」
俺が聞き返すと、イグリはとても苦しそうに体を震わせながらその手伝いについて話し始めた。
一方その頃、レヴィアタンは。
「レヴィアタン様」
「うん、まだ大丈夫だけどあんまり時間は無さそうだね」
この世界のどこか、そこには近いうちに世界を滅ぼすほどの力のの塊が存在する。その塊は、どす黒い靄の塊でおよそ数百年前から存在していると思われる。
レヴィアタンは今、そんな塊の観察をオルカとともにしに来てる。
「キトくんは順調かなぁ?」
「またあの鉱石の話ですか……?」
「キトくんは、僕たち魔王同盟の要だからね」
「英雄が必要っていうやつですか?」
「そう。キトくんはきっと、それになれるだけの素質も力も持っている。今キトくんには、それを磨いてもらっているんだ」
「レヴィアタン様たちで鍛える方が、いいんじゃないですか?」
「だめだよ、それは。あくまでも僕は、キトくんにこの世界での席をあげるだけ。鎧も剣も盾もあげちゃうのは、絶対にだめだ。彼には、彼にしか見つけられない武器がある。彼にしか磨けない鎧があるんだ」
「そこまで信じて、間に合わなかったら、期待はずれだったらどうするんですか?」
「さぁね。僕は、絶対にキトくんのことを疑わないし見損なったりしないよ。例え、皆が皆キトくんを信じないって言っても、僕はキトくんを信じ続けるよ」
オルカは、少し怪訝な顔をしてレヴィアタンから視線をはずす。
「さて、調査は終わったし帰ろうか、オルカ」
「……はい」
「あれ、オルカ機嫌悪い?」
「別に、そんなことありません!」
「うそだぁ〜」
「本当です!それより帰るんでしょ、早く行きましょうよ!」
そう言って背を向けるオルカの手に、レヴィアタンが抱きつく。
「そうだね、帰ろう」
レヴィアタンは、オルカの腕に抱きついたままオルカごと水で全身を包んでいく。そして、地面に染み込むようにして消えた。
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