第20話:打ち上げと新たな出会い

「「かんぱ〜い!」」

 イモータル騎士団の拠点跡での依頼を完了した俺とヴィーツは、打ち上げとして酒場“緑”へ来ていた。

 店の佇まいや名前からして少し身構えていたが、入ってみると落ち着いた雰囲気の所謂バーのようなところだった。

 この世界は、冒険者ギルド的なものと言い酒場と言い、俺の想像していた盛りのある物とは随分違うよな。

「ぷはぁ〜美味い!」

 ヴィーツは、ドードビアという黄色い炭酸の酒を飲んでいる。

 俺の酒に対する知識はゼロ。

 まあ、17だし仕方ないのだが。  

「……俺も飲んで良いものか」

 俺は、テーブルの俺側に置いてある酒を見つめつぶやく。

「ん、お主も飲まぬか!せっかくの打ち上げだぞ?」

「う〜む……」

 まあ、異世界だしな。成人の年齢が、俺の常識と違っていても不思議ではない……よな?

「よ、よし……」

 俺は、意を決して酒の入ったグラスに手をかける。

 その瞬間。

 ――バンッ!

「ひぃっ!」

 酒場の扉が、勢いよく開かれる。

 変な声出た。

「お主、今ひぃって言った?可愛いなぁ」

「お前酔ってんだろ」

 顔の赤いヴィーツが、グラスを片手ににや〜っと笑みを浮かべている。

 昨日見たときは、フード被ってたりで顔をよく見ることがなかったが、改めてみると銀髪に、猫っぽい顔立ちで中々可愛い……。


 一方その頃、そんな俺たちをよそに、酒場の入り口の方が騒いでいる。

「おぉ、カトリア様だ……」

「こんな時間にどうしたのだろう……」

 などと、ほかの客の声が聞こえた。

 ん、カトリア?

 知った名前が聞こえ、驚いて顔を上げる。すると、そこには俺たちの方へ真っ直ぐに向かってくる金髪の女騎士がいた。

「……誰?」

「貴殿らが、キト殿そしてヴィーツ殿で合っているだろうか?」

 知ってる声だ。

 目の前の騎士からは、確かにいつかに聞いたカトリアの声がした。

「違ったか?」

「あ、いや。合ってる。俺がキトで、こっちの酔っぱらいがヴィーツだ」 

 って、ヴィーツ寝てらぁ。

「そうか、良かった」

 カトレアは、なんと俺たちに用があったらしく俺たちに会えたことに、ほっと胸をなで下ろす。

「それで、用件はなんだ?」

「ああ、そうだ。キト殿、私を覚えていないか?」

 そうだった……。

 カトリアには以前、俺の不完全な《人化》した姿を見られていたのだ。

 我ながら、なんで人間としていなければならないのにドードに来たのか些か謎なんだよな。何か、行かねばと思ったのだ。

「……とりあえず、座ってくれ」

「あ、ああ」

 俺は、カトリアをヴィーツの隣に座るよう言い、言い訳を考える。

 正直に正体を明かすのは、多分良くない。

 かといって、今のこの完全な人型と、昔のゴーレムな見た目との接点が思い浮かばない。

「それで、覚えているか?」

 覚えてないとは、言いたくないな。

「ああ、覚えてるよ。あのときは、迷惑をかけたな」

「そうか、覚えているか!あのとき、貴殿と別れてからとても不安だったんだ!」

 不安?

「……心配かけたようで、悪かったな」

 俺は少し、カトリアに違和感を覚えたが言葉の綾だろうと納得した。

「……話はそれだけか?」

「え?あ、ああ……」

 カトリアは、俺の言葉が意外だったのか驚いたような反応をする。

「じゃあ。おい、ヴィーツ起きろ〜」

「……ぇえ?なんだよ、もう帰ろうって訳じゃないだろうなぁ〜」 

「帰るよ、疲れてるんだ」

 ヴィーツは、少し頬を膨らませ俺を睨む。

「じゃあ、私も帰る〜」

「と言うわけでカトリア殿、失礼」

「ああ」

 俺は、杖を持ちよろよろと立ち上がるヴィーツを支えながら会計を済ませ店を出た。

 あのカトリアは、どこか変だった。まあ、そんなに関わってはいなかったから、ただの勘違いの線もあるが……。

 それでも、俺はあのカトリアを信じられなかった。

「おい、ヴィーツ。お前、家はどこだ?」

「zzz……」

 歩きながら寝てる?!

「はあ……。部屋もう一つ借りるか」

 

 俺は、宿・銀狼の宿へと帰るとシエルにヴィーツ分の部屋を貸してもらった。

「ふぅ……」

 ヴィーツを借りた部屋のベッドに寝かせ、俺は自分の部屋に戻る。

 ヴィーツは自分が書くと言っていたが、寝てるんじゃ仕方ない。

 実は、今回受けた依頼の完了には報告書を書かねばならないらしく、それを知ったの集会場に完了報告をしようとしたときだった。

 俺は、部屋のイスに座り丸い机に向かう。


・高難度依頼:イモータル騎士団拠点跡調査の完了報告。

 まず、外見はすでに草木に覆われた朽ちた教会の様だった。

 中に入ると、左右に複数部屋があり、そのほとんどは寝室。ほかは、普通の炊事場や厠。興味深かったのは、天井の大蛇の装飾と、書庫。

 そして、地下へとつながる扉を発見。

 地下は、急な階段を下り狭い廊下を抜けると、その先に扉があった。

 扉の奥には、墳墓と思わしい場所があり一つの銀の鎧とアンデッド化した白い鎧があった。なお、アンデッドは依頼を受けた騎士が討伐済み。

 以上。


「……よし」

 さて、ここからは調査報告には書かない俺個人の今回の依頼のこと。

 まず、昨日のアンデッド15体に加え今回のアッパーアンデッドの討伐によりいくつかスキルを習得可能になった。


 習得済みスキル一覧

《クークル》−0MP※常時発動スキルです。

《身体強化》−5MP

《効果倍増》−8MP

《アンチデス》−50%MP

《アンチアンデッド》−0MP※常時発動スキルです。

《エフェクティブアンデッド》−0MP※常時発動スキルです。

《聖光使者》−「¥@MP※現在、使用不可。

《人化》−60MP

《スキルインテグレート》−30MP

《不可視化》−6MP

 統合済みアビリティ一覧

《グラウンドルーラー》

《パーフェクトランゲージ》

 現在の所持SP103

 習得可能スキル一覧

《白騎士》−20SP・対象の装備を使用可能になる。


 まあ、いらないか。

 そう言えば、俺ってアンデッド特効だったんだな。

 そう思うと、タイマンじゃ勝てなかったかもな……。 

「……もっと。もっと、強くならないと」


 翌日。

 俺は、朝早くから高難度依頼を受けていた。

 高難度依頼:西の混昏山にて、キマイラを討伐せよ。

 混昏山とは、ドード含む中央大陸の丁度真ん中に位置する、キメラだけが住まう山である。

 キメラとは、二つ以上の種の違う動物の特徴を併せ持った魔物で、キマイラとは、それらの上位個体である。

「つまりは、ボスを倒してこいってことだな」

 俺は今、登山の真っ最中。周りを見渡せば、黒い木々やキメラたちの不気味な視線が光っている。

「てか、まだ朝なのに何でこんなに暗いんだ?」

 山は、登れば登るほどに暗くなっていき、今ではもう夕暮れ時と同じくらいには暗くなっている。

「人間の体だとさすがに寒いな。……しかし、俺はキメラたちにとっちゃ侵入者のはず。襲ってこないのは、少し不思議だな」 

 今朝、依頼を受けたときに聞いたのだがキメラには主に三つの種類があるらしく、大きな目の猿の顔に猫の体を持つもの。鳥の頭に獅子の体と蛇の尾を持ったもの。犬の顔に猿の体を持ったもの。

 しかし、キマイラのみその正確な姿を伝えられないらしい。

 理由は単純で、キマイラはその姿を故意に変えられるからだそうだ。

 ある時は、獅子の頭に山羊の体と蛇の尻尾を持つ姿。

 さらにある時は、山そのものであるなど。多分、ここは随分と誇張されているのだろうが、これまでにキマイラを倒した者はいない。

「実害が少ない上、三つの国の国境が交わっているらしいから、どこの騎士団も迂闊に入れないとか言ってたな」

 周りを警戒しつつ山を登っていると、夜かと思うほどに暗くなっていた。

「キマイラがいるのは、山の天辺にある洞と聞いているが……。まあ、こう暗いと日の高さも分からないな」

「――ガオォオオオオ!」

 そう思い空を見上げていると、頂上の方から凄まじい咆哮が響いてきた。

「なんだ?」

 俺は、警戒を強めつつ急いでその咆哮の方へと進んだ。


 キトが混昏山を登り始めた頃。

 混昏山頂上、キマイラの寝床。真っ白な空間の中に、キメラのデフォルメされた可愛いぬいぐるみなどが並ぶそこは、伝説の奇獣と呼ばれるものが住まうには、些か綺麗な場所。

「……ほぉ、侵入者とは久しい。せっかくだ、遊び尽くしてやろう」

 混昏山の主は、大きなぬいぐるみに抱きつき、恍惚とした笑みを浮かべるのだった。

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