第19話:VS白騎士

 前回までの話。

 魔王同盟としての最初の作戦を見事成功させたキトは、その後は一旦レヴィアタンらと別れ、一人“人間キト”としての名声をあげるべく転生人生で最初に訪れた国ドードへと向かい、“無所属騎士”になることになった。そして、キトは無所属騎士としての最初の仕事「アンデッド討伐」でフードを深々と被った不思議な雰囲気の女、ヴィーツに出会う。しかし、そこでキトはヴィーツの仕事分まで討伐してしまい詫びとして、一つヴィーツの依頼を手伝うことに。その依頼とは、なんと嘗てドード一と謳われた騎士団“イモータル騎士団”の拠点跡の調査だった。そんなとき、依頼をこなしていたキトは拠点の地下へと通じる扉を見つける。慎重にその地下へ行ってみると、そこには玉座に座る銀の鎧に、それ跪く白い鎧という驚くべき光景が広がっていた。一体、キトの運命は如何に――!


 現在の状況。

 現在、俺はヴィーツと共に玉座に座る銀の鎧と、それに跪く白い鎧を目の前に警戒をしつつ調査のために動いていた。

「ここは何なんだ?」

「多分、ここは墳墓」

「墓?」

「騎士団の、取り分け団長は戦死をした場合、騎士団と共に眠るという文化があるんだ」

「なるほど」

 この鎧たちは、名誉か無念か戦いの中でその命を落としたということか。

「ん、この白い鎧、自分で自分を刺してる?」

「本当だ。この騎士は、ここで自害したのだな……」

 ヴィーツは、白い鎧を見つめ少し切なげな表情をしている。


 ――ボワッ!


「うわぁ!」

 ヴィーツの杖についているランタンの火が、急に勢いよく燃え上がる。

「何だ?」

「気をつけろ、何か起こる!」

 ヴィーツがそう言った瞬間、目の前の白い鎧が動き出す。

「距離をとるぞ!」

 俺のかけ声で、ヴィーツも少し後ろに引く。

 動き出した白い鎧は、立ち上がり自身の胸に突き刺さる剣を引き抜く。

「アンデッドか?」

「それも、上位個体のアッパーアンデッドだろう」

「何にしろ、あっちはやる気十分みたいだな」

 俺は、拠点跡に入る前に作っていた土の槍を構える。

「ちょっと突っ込むぞ!」

 俺は助走をつけ、勢いよく白い鎧を槍で突く。

 ――バキィーン!

 白い鎧にぶつかった槍は、その鎧に傷一つ付けることなく砕ける。

「……まじか」

 倒せるとは思ってはいなかったが、並大抵の武器よりは少し自身はあったんだがな。

 俺は、距離をとりヴィーツと合流する。

「そもそも、アッパーアンデッドは普通のアンデッドより核の魔力が濃く、強度も比べものにならないほどの存在。そんな存在が鎧を着たとなれば」

「傷をつけたきゃ、一級品の刃でも持ってこいってことか」

 土の槍は使えない。なら。

 俺は、石の床と魔力を合わせる。そして、操り手頃な槍を作る。

「――っ」

「ん、どうかしたか?」

「いや、なんでもない。それより、次は私がやる」

 ヴィーツは、杖のランタンを白い鎧に向ける。

「……開け」

 ヴィーツがそう言うと、ランタンの錠が独りでに外れランタンの扉が開く。

「《スナッチファイア》」

 ヴィーツがそう唱えると同時に、ランタンの火が激しく燃え上がり白い鎧を襲う。

「私の炎は、魔力を吸う。その魔力が濃ければ濃いほど、深く青く燃え上がる」

 ヴィーツのランタンから出た青い炎は、白い鎧を包み轟々と燃える。

「微動だにもしてないが、効いてるのか?」

「う、うむ。あの炎が燃え上がり続ける限り、あの鎧の魔力は減り続ける。あとは、時間の問題」

 しかし、どうやらそう簡単に行くはずもなく、白い鎧は青い炎に包まれながらも平然と動き出しヴィーツに向かって切りかかる。

 俺は、その攻撃をヴィーツの足下の床を操り壁を作り防ぐ。

 攻撃を防がれた白い鎧は、今度は俺に向かってくる。

「くっ!」

 俺は、振り下ろされる剣を槍で受け止める。その剣は、とても重くまるで本物の腕利きの騎士と対峙しているようだ。

「ん?」  

 白い鎧の剣の重さに耐えつつ、俺はその体を観察した。

 すると、その鎧の剣が刺さっていた胸部の穴の中に強く光る物を見つけた。

「《インパクトファイア》」

 俺と白い鎧がしばらくにらみ合っていると、ヴィーツがランタンから赤い炎の球を放つ。

 その火の球は、白い鎧にぶつかると凄まじい衝撃を起こし吹っ飛ばす。

「助かった!」

「……しかし、私の炎では倒すのに相当の時間が掛かりそうだ」

「大丈夫。次でしとめるぞ」

「お主の槍では、倒せんぞ?」

「考えれば簡単なことなんだ。あいつは、上位といえどアンデッド。倒し方は変わらないはずだ」

「そうか、核。見つけたのか?」

「ああ。あとは、俺の腕次第!少しで良い、動きを止めてほしい」

「それは了解した。だが、お主の力ならば拘束も容易いのでは?」

 ヴィーツに頼む理由、それは俺が出来ないからだ。

 土の槍の代わりに石で作ったとき、俺は少し違和感があった。土で作るよりも、生成する速度が遅いのだ。

 ヴィーツへの攻撃を防いだときも、少しヒヤッとしたしな。

 ともかく、操る物によってそうなる間での時間が変わるという勉強ができたのは幸いだ。

「いけるか?」

「うむ。大丈夫だ」

「じゃ、頼む!」

 俺は、起き上がり向かってくる青い炎を纏った白い鎧を観察する。

 ただ真っ直ぐ走ってくる。だが、その一歩一歩はアンデッドとは思えないほどにしっかりとしていて速い。

「ヴィーツ!」

「分かっておる《シャックルファイア》!」

 ヴィーツがそう唱えると、ランタンからうねる蛇のような赤い炎が放たれ、白い鎧にまとわりつき拘束する。その炎もまた、魔力を吸うようで青く燃え上がる。

「ナイス!そう言えば、アンデッド系って火が弱点だった気がするな……」

 俺はそう言うと、「燃えろ」と念じ、石の槍を熱気の魔力結晶に変える。

「《クリメーションスピア》!」

 俺は、熱気を放ちだした槍を白い鎧の核に突き刺す。

 すると、魔力結晶とヴィーツの炎が干渉したのか突き刺した槍が強く青く光り出し白い鎧の魔力を全て一気に燃やし尽くす。

「予想外の現象だが、やれたか……」

「ああ……」

 その後、俺たちは半ば放心状態のまま墳墓内の探索を済ませ、無事依頼を完了したのだった。

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