外伝:黒騎士と白騎士

 これは、今や童話として語られる話の本当の歴史である。


 イモータル騎士団。その始まりは、一人の女騎士であった。一目見るだけで吸い込まれるような黒髪の彼女の名は、レア。イモータル騎士団の創設者であり、団長を務めている者だ。

 誰の目から見ても強く凛々しい彼女だが、一つ欠点と言われる物があった。それは、彼女の髪であった。この世界において、黒は闇。つまり、悪魔などの悪しき者の色とされているのだ。

 だから彼女は、人前に出るときは必ず銀の鎧で全身を隠すようにしていた。そんな彼女が設立したイモータル騎士団は、着々と団員を増やしドード王国一とまで謳われるようになっていた。

 強く凛々しく、誰にでも真摯に向き合う彼女だから彼女に憧れる者も多くいた。その中でも、“白騎士、黒騎士”と呼ばれる目つきの悪い男ゼルと、ゼルとは正反対に優しい顔をしたテリウスは、彼女の大ファンであった。

 ゼルとテリウスは、レアを賭けて毎日のようにいがみ合っていた。彼らは、イモータル騎士団の団長に次ぐ実力を持っているとされており、彼らのほかにもレアのことを好いている者がいようと、その争いには一切立ち入れない。

「テリウス、そろそろ諦めたらどうだ?」

「ゼルこそ、今日で548勝547敗。僕の方が勝っているんだ」

「゛ああ?そりゃ、逆だろ」

「数も数えられないなんて、ますます団長には相応しくないな」

「今日という今日は、殺し合いで勝負してもいいんだぞ!」

「望むところ!」

「止めないか!!」

 白昼堂々大声でにらみ合う二人の背後から、レアが二人の頭を殴り仲裁する。これが彼らの日常である。


 そんな彼らが、黒騎士、白騎士と呼ばれるようになったのは、二人にとってそして騎士団にとってドードにとっての悲劇が起こってからだった。

「何だ、この闇は?」

 数日前から全世界の腕のある騎士団に向けて、ある存在の討伐依頼が来ていた。

「無闇に触れるな、慎重に行こう!」

 その依頼は、もちろんイモータル騎士団にも届いておりレアの指揮の下、ゼルやテリウスもその存在の討伐に参加していた。

「――ッ!」

 混沌とした闇が、不意に動き出す。それに、弓を引き構えていた一人の騎士が手を離してしまい、放たれた矢がその闇に命中する。しかし、その矢は闇に飲み込まれるだけで何のダメージも与えられていなかった。それどころか、矢を受けた闇は矢を放った騎士の方に取り込んだ矢を撃ち返す。

 一人殺された。その出来事一つで、ただでさえ謎の闇と戦うという緊張や恐怖が張りつめていた団員たちの精神状態が乱される。落ち着いているのは、レアやゼル、テリウスと言った取り分け腕の立つものだけ。

「皆、落ち着くんだ!冷静に距離を取れ!」

 団員数十名がパニックに陥る中、レアは必死に団員たちを纏めようと声を出す。そんな中、闇は一人の団員を取り込もうと動いていた。

「うわぁあああ!」

 闇が、剣を持った団員に飛びかかる。

「――ッ。テリウス様!」

 闇に襲われかけた団員がゆっくりと目を開けると、そこには自分の代わりに闇にまとわりつかれた純白の鎧を着たテリウスの姿があった。

「何をしている、早く下がれ!」

 テリウスは、闇に取り込まれていく中、必死に意識だけは留め団員たちに剣を振るおうとする闇に抵抗し続ける。

 しかし、闇の力は凄まじく一人また一人と、テリウスを取り込んだ闇は団員を斬り伏せていく。

「ぐぁああああ!」

「テリウス!」

「ゼル、僕を……僕を斬れ!」

「……ッ!」

 テリウスを取り込んだ闇は、ついにゼルの前に立つ。自分を殺せと言うテリウスを前に、ゼルはすぐに殺す判断が出来ないでいた。

「ゼル、殺せ!」

「――っ!」

 ゼルは、最後まで殺す決心が出来なかった。テリウスの剣が振り下ろされる。

 目を開ける。

 ゼルは生きていた。しかし、眼前には絶望があった。

 ゼルは、その震える両手で自分を庇い斬られ倒れるレアを受け止める。

「あ……、゛あぁああああああああああああああああ!」

 悲痛な叫びが、戦場に響く。

「ゼル……!」 

「――ッ!」

 テリウスは、闇に抵抗できる最後の力を振り絞りその手の剣で己の体を貫く。

「何を!」

「ゼル、団長を連れて逃げろ……!」

「テリウス……!」

「お前の、勝ちだ。ゼル」

 ゼルは、倒れ込むテリウスを背にレアを抱え走った。そして、馬に乗り一度も振り返ることなくドードへと帰った。


 国に帰ったゼルは、その純白の鎧を着た姿と混沌の闇を討ったという功績から“英雄・白騎士”と呼ばれた。

 そして、戦場に残ったテリウスは命と代償に闇を討ったとして、その闇により漆黒に染まった鎧から“英雄・黒騎士”と呼ばれるようになった。

 その後、団長レアの死によってイモータル騎士団は活動を終了した。一部では、ゼルが引き継ぐのではとの声もあったが彼にはもう、一つの決心がついていた。  

 ゼルは、イモータル騎士団の拠点に帰っていた。

 彼はレアを抱えたまま、少し急な階段を下り、狭い廊下を抜けてその奥の扉を開く。ここは、団長であるレアのための地下墳墓。

 ゼルは、レアを玉座に座らせると、少し離れその前に跪く。

「我が親愛なるレアよ、この身あなたと共に……」

 そう言い、ゼルは自らの手で自身の体に剣を突き刺す。

 ゼルは、少し血を吐くと跪いたまま静かに目を瞑った。

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