第16話:いざ、英雄へ
シーゼルへと帰り俺は、その日のうちにアルマにこの世界での冒険者的な存在について聞いた。
そこで分かったこと、それはこの世界には冒険者というものはなく、その代わり“無所属騎士”と言うものがあるということだ。
無所属騎士とは、その名の通りどこの団にも所属していない騎士のことである。それらは基本、騎士団が動くには小さい問題を解決して腕を上げ、年に一度の入団試験に挑み合格することを目的とする。
騎士団に入る予定はないが、俺の想像していた冒険者とやることにあまり変わりはないらしい。俺は、異世界生活その第一歩として、無所属騎士になることにした。
そして翌日、シーゼルから出発する。
「お世話になりました」
俺は、シーゼルに向けて一礼する。顔を上げると、奥の方でアルマら防衛団の全員が俺を見送っている。
俺は、シーゼルを見ながら馬車に乗り込み目的地を目指す。
目的地は、俺が今一番気になっている国、ドードである。
ドード王国。
高い壁に囲まれたその国は、ドーランド家を王家とする国であり、俺が初めて入った国である。色々あって迷惑しかかけていないが……。
ただ、これもアルマから聞いたのだが、ドードは小さい国でありながらそこの騎士団“ヴァルキリーソラ”は世界でも有名なとても強い騎士団らしい。
確かに、その騎士団の団長カトリアは人間では珍しい念話が通じていた。
「なあ、ドードまではどれくらいかかる?」
俺は、馬車の客車から御者の男に話しかける。
「一日は掛かりますね」
「結構掛かるな」
「これでも早い方なんですよ。質の悪い馬なら三日は掛かりますから」
今回俺が乗っている馬車の馬は、中々に上等な馬らしい。
俺は、客車の長椅子に寝そべって少し眠ろうと目を瞑る。
完璧な《人化》になってから、俺は睡眠や呼吸を手に入れていた。
通り抜ける涼しい風と心地よい揺れを感じながら、ゆっくりと眠りに落ちる。
目が覚めると、もう日が暮れていた。
「もう暗いな」
「ええ、よく眠っていましたよ」
「こんなに暗くて馬は大丈夫なのか?」
「はい、夜目がきくので大丈夫ですよ。それにこの馬は、軽く三日は走っていられるほどに体力があるんで」
「三日も?すごいな」
馬車は、一度も止まることなく走り続けていたようで、日が真上にまで昇る頃には目的地に着くそうだ。
俺は、客車の窓から凄い早さで流れる景色を見つめていた。緑一色、今馬車は大きな森の隣を走っていた。
「今、どの辺だ?」
「ええっと、今はクリフ森林の東の外周ですね」
「クリフ森林?」
デカいとは聞いていたが、実際に外から見ると本当にデカいな。
完全に日が落ち、深い闇を月と幾つもの星の光が照らしている。流れていく、不気味な夜雰囲気の森を見ていると、不意に大きな何かの遠吠えが響いた。
俺はその声に、驚くことはなかった。
「この声は、いつ聞いてもなれませんね。お客さん、大丈夫ですか?」
「ああ」
「いや〜、このクリフ森林近くのところでは毎夜この声を聞くんですがね、はじめて体験する人は、ひどく怯えられることもあるんですよ」
「そうなのか。三つ首のだっけ?」
「そうです。死の森の夜の管理人、三つ首の狼」
そんな二つ名だったんだ。
「名前はないのか?」
「ケルベロス?でしたか、まあ、あまりちゃんと名前で語られていることは少ないんじゃないですかね」
その後も、御者と軽い雑談をしながら馬車は進んでいく。
また眠っていたようで、俺は目を覚ます。
もう大分、日が昇っている。
「あ、おはようございます」
「ああ。あんたは、休んだのか?」
「私が休んだら誰がこの馬を制御するんですか?この馬と仕事をすると言うことは、御者自身も強くなくてはいけないんです」
ちょっとかっこいいと思った。
そして、目的地に到着した。
「世話になった」
「これからのあなたの活躍を祈っています」
「ああ、ありがとう」
ドードの入国門の前で、代金を払い馬車と別れた。
さあ、入国だ。
俺は、完全な《人化》の状態だから大丈夫だと思いつつ、あのときの仁王像の間を通るような気持ちを思いだしながら門を潜る。
「ふぅ、通れた」
最初に来たときは、色々あって街並みをしっかり見れていなかったが、The異世界な雰囲気漂うわくわくする暖色の景色だ。
「さて、無所属騎士志望はどこに行けばいいんだ?」
今いるところからじゃ、それっぽい建物は見えない。
「ん、何だ?」
しばらく街を見渡していると、大通りの方から声が聞こえてくる。
「ヴァルキリーソラのご帰還だ!」
「カトリア様〜!」
どうやら、ここドードの騎士団ヴァルキリーソラが数日ぶりに帰ってきたらしい。
騎士団が動く事案となると、それほどまでに凶暴な怪物か何かだろうか。
「おお、異世界っぽい」
大通りの方を見ると、カトリアを先頭に豪華な装飾の馬車や、鎧を着た騎士たちが大勢の歓声の中、国の中心の城へと向かっている。
「と、こんなことしてる場合じゃないんだ。無所属騎士にならねば」
しばらく街を散策していると、大通りで見たヴァルキリーソラとは違う鎧を着たやつらが集まっている建物を見つけた。
入ってみると、「酒場と併用されているようで」ということはなく、そこは厳正な雰囲気の場所だった。
俺は、少し見渡して受付に向かう。
「聞きたいんだが、ここが無所属騎士の集会場であってるか?」
「ええ、そうですよ。もしかして、騎士志望の方ですか?」
「ああ」
「それでは、早速手続きをしましょう!」
受付の女は、俺が無所属騎士になろうとしていることを知ると受付のカウンターから身を乗り出す。
目が怖い。
と言うのも、最近になってドードでは騎士志望者が激減しているらしい。
「最近の依頼は、何故か危険度が高いものばかりなんです」
「騎士団に入るなんて言う前に、死んでしまう可能性が増えた。と言うことか」
「そうなんです。今いる無所属騎士のみなさんもあまり依頼を受けなくなってしまったし……」
俺は、受付のノルの話を聞きながら手続きに必要な書類を書く。
名前:キト
性別:男
年齢:17
種族:人間
職業:スキルマスター
志望動機:自分の腕を上げるため。
「はい、確かに。これで、キトさんも無所属騎士です。騎士団に入団できるよう頑張ってください!」
「ありがとう。早速、依頼を受けたいんだが?」
「今からですか、わかりました。では、こちらの夜間依頼からお選びください」
無所属騎士の受ける依頼は、通常依頼と夜間依頼の二種と、稀に来る超高難度依頼がある。通常依頼は、朝から日が落ちるまで。夜間依頼は、日が落ちてから日が昇るまでで終わらせなければならない依頼だ。
俺がこれから受ける依頼は、「夜間依頼:アンデッドを討伐せよ」だ。
「アンデッドは、この国の共同墓地にいますよ」
「わかった。さあ、日が落ちるまではまだ時間があるな。宿でも探すか」
「あ、宿ならここを出て左に進んだところに“銀狼の宿”っていう宿屋があるので、よかったら行ってみてください。それと、この騎士証明書を」
と言うことで、俺はノルの言う宿屋に行くことにした。
外に出ると、もう少しで日が落ち出す頃だった。
ノルの言うとおりに左を見ると、宿屋の看板が見えた。
「お、お兄さん泊まってくかい?」
宿屋に入ると、掃除をしていたエプロンを着た女が手を止めて話しかけてきた。
「ああ、無所属騎士の集会場でノルって人に聞いてな」
「ノルちゃんの紹介かい、なら半額で泊まっていっておくれ」
「いいのか?」
「ノルちゃんの紹介ならみんな半額さ」
宿屋、銀狼の宿。
銀色の狼の装飾の看板を掲げるこの宿屋は、店を構えてから長いらしいが、とても綺麗で、一階に食堂があり、二階には泊まる部屋が5室ある。ここは、店主のシエルが一人で切り盛りしているらしい。
俺は、シエルから部屋の鍵をもらい部屋へいく。
部屋には、質のいいベッドが一つと小さなイスと丸いテーブルがある。これが半額で泊まれるのは、とてもうれしい。
「ノルさんには、明日改めてお礼を言う必要があるな」
俺は、部屋を確認し終わるとすぐに依頼をこなすため宿を出た。
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