第9話:特訓!
「さあ、今日はいよいよ特訓だよ。キトくん!」
白い街滞在日数3日目、今日はレヴィアタンの言う特訓の日。俺は、白い軍服を着たレヴィアタンと、レヴィアタンが準備したという土の地面と岩の壁で囲まれた場所へ来ている。
『んで、まず何をするんだ?』
「まずは、アビリティの習得だ。そためには、スキルインテグレートっていうスキルが必要なんだけど」
『ん、あ?そのスキル、俺持ってるぞ』
「おぉ、なら話が早い!じゃあ、それを使ってみよう」
スキルインテグレート。それは、似た効果を持つスキルを複数混ぜることでより自由度の高い性能にすると言うものである。つまり、俺が今できるのは《トークセンス》×《エクセレントトークセンス》=《パーフェクトランゲージ》。
《ボディーチェンジ》×《サブスタンスチェンジ》×《土操作》×《膨張》×《墓堀》=《グラウンドルーラー》の二つである。
『スキル、スキルインテグレート』
俺がそう唱えると、意識のその奥に知らない文字の数式のようなものが写る。そこで、俺はさっきの二つの組み合わせを実行した。消費MPは、一回40だった。
「できたかな?」
『……多分?』
「ははっ、まあ実際に使わないと難しいよね。あ、ここで大事なことをちょっと話そうか」
『大事なこと?』
「そう。君は、これまでスキル発動時にMPという自分の中の魔力というエネルギーを消費していたはずだ。だが、アビリティを使用するのに必要な代価は、空気中の魔力+干渉する物の魔力だ」
『……つまりどういうこと?』
「つまり、この世界という魔力の塊に干渉するということさ」
『えっと、じゃあ自分自身のMPは消費しないってことか』
「そう。世界の魔力は、強大だからね。それなりの核がないと死んじゃうんだ」
『俺、大丈夫かな……』
「何を言っているんだい?君は、魔力の核そのものみたいなものなんだから大丈夫に決まっているさ」
そうか、確かにただの鉱石ならともかく俺は勇者の装備になるほどの素材だもんな。それくらいの性能はあるのか。
実際、この世界の勇者と呼ばれる存在のほとんどはウィザード。つまり、剣士のような近接ではなく「炎を操った」や「自在に竜巻を起こした」などという魔法使いのような伝承しか無い(一般的にはスキルマスターと呼ぶことが多い)。
「さあ、アビリティの習得は完了だね。正直、ここは運だったんだけどよく持ってたね」
『先見の明ってやつだな』
「さすがだね」
冗談で言ったつもりの俺にレヴィアタンは、優しい声で笑みを浮かべる。
「さあ、せっかく唯一の難関を越えれたんだ。次のステップに行こうか」
『おう!』
「次の目標は、応用技の開発だ」
『おお、なんかわくわくする響きだな』
「応用技というのは、その名の通りなんだが、じゃあ実際にやって見せようか」
そう言うとレヴィアタンは、人差し指を立てて手を挙げる。すると、俺たちが入ってきた部屋の入り口の方からレヴィアタンの指先へと水が集まりだし、だんだんと大きな水の塊になる。
「僕のアビリティ《オーシャンルーラー》は、水を自在に操るというものなんだけど、その本質は水の中にある魔力を一度僕の核と馴染ませることで魔力ごと水を動かしているんだ。この水のようにね。そして、水を操るというのは動きだけじゃなく温度も操れる」
レヴィアタンは、立てた人差し指で小さく円を描くようにする。
「それを利用して僕は、水の魔力そのものを温めることができてそれを君にゆっくり流し込むことで、強制的に体の力が抜けるよな感覚に陥らせる。一度君は体験しているね《メルトラヴ》」
レヴィアタンが、俺に触れそう唱えると俺は、だんだんと体の奥から温かくなるのを感じる。あのとき、俺が初めて眠ったときの感覚だった。
「おっと、これ以上は寝ちゃうね。さあ、理解できたかな?要は、自分の干渉する物の魔力と自分の魔力を感じ分けてイメージをしっかり持つことが大切だ」
俺のアビティでできることそれは、《グラウンドルーラー》は本質は《オーシャンルーラー》の土、岩バージョンと考えるのが一番早い。俺は、そのことを頭で思いながらそれの応用法を考える。
『まずは、スキル《人化》』
俺がそう唱えると、俺の体を中心に岩が生成されていきだんだんと人型になる。
うん、やっぱりアビリティと言えど人間にはなれないか。
俺は、《人化》を使い人型になったあと《グラウンドルーラー》で自分の体に生成されている岩を人間と同じ物質に出来ないかと試みたが失敗した。
「そんなに手を見つめてどうしたんだい?」
『ジーー……』
レヴィアタンに声をかけられ、俺はレヴィアタンをみる。やはり疑問に思った、「なんでこいつは、完全に人間の体なのだろう」。
「そんなに見つめられると、なんだか恥ずかしいな」
俺は、赤面し目を逸らすレヴィアタンをジッと見つめる。
「こら、見つめるのはそのくらいで、僕に君が何を考えているのか教えてくれるかな?」
レヴィアタンは、ジッと見つめる俺の額を人差し指で突いて説明を求める。
『俺も完全な人化出来ないかなと思ってさ、レヴィアタンの人化はアビリティで補完してるんじゃないのか?』
「ああ……そういうことか。前にも言ったが、君は世界的に見てもイレギュラーだ。だから、発動可能なスキルや発動出来ても効果が不完全な場合があるんだと思う。《人化》も僕はこの通り完全な人間と言える形になるが、君は不完全。希望は持てないだろうと、僕は考えるよ」
『マジでか?』
「希望を持つとすれば、君のアビリティの応用がそれを可能にする可能性を秘めていれば。と言う感じかな。そのためにも、君は頑張れ!言ってなかったが、期限は4日。4日後には、僕たち魔王の初陣だ」
3時間後、応用技の特訓ではこれといった成果は無かったが、初日と言うこともあり今日の特訓は終了となった。
『MPの消費とは違って、魔力を感じるってだけで結構疲れるな……』
「今日は、初日だから仕方ないさ。それに関しては、慣れでしかないからね」
『まあ、まだ4日あるんだ。気張ってこー!』
「おぉー!」
特訓2日目、昨日と同じく土の床と岩の壁で囲まれた特訓場でレヴィアタンに見守られながら応用技の特訓中。
『水の温度が変わるのはわかるが、土だとどうなるんだ?』
「別にどうなるなんて決まってないさ。まずは、勝手にイメージしてみたらいいんじゃないかな?」
『勝手に?うーん……』
昨日は、俺自身の物質を変化しようとしたからな……。ん?レヴィアタンは水の魔力と馴染む。じゃあ俺は、この土と……。
俺は意識を集中し、土と同化することをイメージする。
色?周りは赤い。でも俺は青い……、これに俺が合わせる?
実際に同化したわけではないが、確実に土の魔力を感じる。俺は、レヴィアタンの言っていた「魔力を馴染ませる」という言葉をキーにイメージを膨らませていく。
『凍れ!』
すると、一気に地面がピキピキと音を立てる。
「凍ってはないが、固まったね」
ピキピキと音を立てた地面は、レヴィアタンの言うとおり凍ってはいなかった。しかし、確実に変化していた。
『鉄?』
「――いや、違う!」
レヴィアタンは、地面の正体に気づきその瞬間に人化を解きイカのようなタコのような姿で浮遊する。
『どうした?』
『これは、魔力結晶っていうやつだね』
魔力結晶それは、この世界でも特に魔力の濃く出来るだけ閉鎖された場所でのみ発見されている、熱などの属性を蓄える結晶のことである。
今回、俺が土から変えたそれは冷気を蓄えた魔力結晶で微かに白い冷気を放っている。
『これで、君の出来ることが一つわかったね』
『ああ』
俺はこのとき、余計に頭を抱えていた。
『レヴィアタン、魔力結晶についての研究ってここでやってるのか?』
『ここではないが、聖光使団自体ではやっているよ。研究書を見たいのかい?』
『そうだ。生憎俺は、この魔力結晶とやらのことは初見でな』
『構わないよ。でも、今日中に用意することは難しいだろうから明日の朝には、君の元へ届くように手配しよう』
『頼む。てか、お前のその姿久しぶりに見たな』
『そうかな?三日に一回はこの姿になっているから、僕的にはあまりひさしぶりな気はしないんだけど。そんなことより、この魔力結晶ちゃんと戻しておいてね?』
『ああ、やっておくよ』
『じゃあ、僕は研究書の手配をしておくから今日は解散!』
特訓3日目、今は昨日レヴィアタンに頼んでおいた研究書を読んでいる。
研究調査報告書:魔力結晶について
第一回調査
・魔力結晶、この世界で複数発見されている空気中の魔力が特段濃い場所で、且つ狭く閉鎖されたような場所で結晶化した魔力。
・魔力結晶の特徴、魔力結晶は自生した環境によってその中に属性をため込む(属性、熱気・冷気・電気)。ため込まれた属性は、時間が経つほどに魔力と混ざり合い、その属性の強さは強大になり続ける。
・魔力結晶による被害、鬼が住むという伝承のある溶岩地帯で発見された魔力結晶は、5cmほどの欠片でありながらその熱気は触れようとした調査隊の一人の手を蒸発させた。
これらのことから分かるとおり、レヴィアタン様の魔力の膜をいとも簡単に破ったそれは下手に手を出せない。採取を断念。
第二回調査
・魔力結晶、前回の報告と同じ。
・魔力結晶の特徴、同文。
・魔力結晶による被害、前回では断念した魔力結晶の採取を試みた結果、蒸発での3名の行動不能と、何者かによる調査隊襲撃によって全滅(代筆者・ペンギン)。
関連の案件
・魔王の発生の予兆を発見、しかし事前に防ぐことは不可能と判断。
・魔王の憑代候補の絞り出しに成功、密かに観察隊を編成。
・勇者の石の捜索を開始、見つけ次第イルカが向かう。
・勇者の石の採集失敗、イルカ及び案内役の冒険者の死亡確認。
研究書には、これら文章と研究対象のスケッチが描かれていた。
「どうだい、何か実になる情報はあったかな?」
『……少し、やってみても良いか?』
「ああ、ここは君のための特訓場だ。好きにやってみるといいよ」
レヴィアタンは、そう言いながら《人化》を解き浮遊する。
俺は、《人化》し地面に手を付く。地面の魔力と、自分の魔力を馴染ませることに意識を集中させる。
『ん、もうすでに魔力が馴染んでる?いや、この地面が、俺と同じ魔力になっているのか?』
「一度魔力を馴染ませた物は、それ以降もそのままさ」
『なるほど』
俺は、再び意識を魔力に集中する。
昨日は、冷気の魔力結晶に変化させれた。俺自身に冷気の一つも関係ないのにだ。つまり俺のこの力は、その場の環境や自分の属性の有無関係なしに属性を使えるということだと思う。その考えを確かめるために、昨日やった冷気以外のすべての属性をやってみる。
俺が、魔力結晶の研究書を見て得られたことの一つは、属性は三つあると言うことだ。
『まず、熱気』
そう言って俺は、轟々と燃える炎をイメージする。すると、地面がピキピキと音を立て結晶化し、だんだんと熱気を放ち出す。
『短い時間でだんだんと、魔力の濃度、属性の強さが上がっていっているみたいだね』
レヴィアタンは、120cm前後のその体を丸い水の膜で覆って、なるべく地面と距離を取っている。
『そろそろ戻して貰わないと、ここも僕も溶けちゃうよ〜』
『ああ、すまん』
地面を土に戻した後、続いては電気を試す。
俺は、空に走る稲妻をイメージする。すると、地面がバチバチと白い電気が弾ける紫色の結晶になる。
『……電気もいけるな。でも、これは流石に疲れるな』
『魔力に触れてからたったの二日でこれが出来るなら上々さ。しかし、キトくん君自体が魔力の核ともいえるとはいえ、魔力自体はほぼ底なしに扱えると思って良さそうだね』
『そのさ、魔力とMPって俺の中で曖昧な差別化しかできてないんだが、実際何なんだ?』
俺は、地面を土に戻しつつレヴィアタンに質問する。
『そうだね、今日の実技は終わりにしてちょっと座学の時間にしようか』
そう言うとレヴィアタンは《人化》し、《人化》を解いた俺を抱き上げ特訓場を出て近くの空き部屋に入る。
「生徒諸君、君たちが静かになるまで5分かかりました!」
『先生、俺以外に生徒なんていないしまだ5分も経ってません』
レヴィアタンは裸に白衣という不思議な格好で、黒板の前に立ち教師のまねをする。
『よくこんな丁度良い部屋あったな』
「ここは、必要なときいつでも使える実験室なんだ。ここの中には至る所にあるよ。さて、早速授業を始めようか」
レヴィアタンはそう言うと、黒板に絵を描き出す。
「これが君だ。スキル使用時に消費するMPというのは、君の中に蓄えられている魔力のこと」
『スキルは、俺自身の魔力でしか発動できないのか?』
「そうだよ。だから、《スキルインテグレート》でそれをより自由に強力にするのさ」
『やっぱり取っといて正解のスキルだったんだな、面白そうってだけで取っていたが……』
「アビリティがあるとないとじゃ、君がこれから戦うことになる者たちとは釣り合えないからね」
『そう言えば、その戦いって何なんだ?ほかの二人の魔王にもあったことないし』
「そう言えば教えてなかったね、忘れてたよ」
『お前なぁ……』
レヴィアタンのポンにあきれる俺に、レヴィアタンはごめんごめんと笑う。
「じゃ、今から会いに行こうか」
『え?』
そう言うとレヴィアタンは、俺を抱き上げ俺ごと水で自身を包みだんだんと床に溶けるように沈んでいく。それと同時に、俺の意識が遠くなりやがて完全に意識が途切れた。
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