第8話:聖光使団代理団長オルカ


 翌日。

 目が覚めると、俺はベッドの上で人化したレヴィアタンに抱かれていた。

『レヴィアタン……何でここにいるんだ?』 

 レヴィアタンは寝起きが悪いようで、「゛ん……」と濁点混じりのうなり声をあげながら体を起こす。

「やあ、おはよう」

『ああ……俺、寝てたのか』    

「僕のアビリティでね」

『アビリティ?』

「そう。でも、その辺のことは明日ね」

 明日から行う特訓の内容は、アビリティの習得。そして、必殺技の開発というものである。

「今日は、昨日できなかったちゃんとしたここの案内だよ。会わせておきたい人もいるからね」

 そう言うとレヴィアタンは立ち上がり、俺を抱き上げる。

『服は着ないのか?』

「着た方がいいかな?」

『着ないよりはな』

「じゃあ、次からはそうしようかな」


『ここは?』

 俺は、レヴィアタンに抱えられたまま色とりどりの植物がある部屋に来ていた。

「ここは、薬の研究をしているところだね」

『そんなことまでしてるのか?』

「とっても少数ではあるけど、ここには人間や亜人種がいるからね。それに、何でも治せる秘薬なんていう話もあるから、それの研究の一環でもある」 

『誰もいないのか?』

「前に薬学に詳しい人間がいたんだが、どうもあの植物の中に肉食植物がいたみたいでね……」

『食われた……のか?』

「……そう。あ、でも今は別のところに隔離してるから大丈夫だよ!」

 そう言う問題じゃない気がするが……。

「気を取り直して、次にいこうか。次は、さっき言った会わせたい人のところだよ」

『人間なのか?』

「本当はね」


 次に俺たちが来たのは、今まで見た部屋より明らかに良い作りの扉の前だった。

「オルカ入るよ」

 コンコンッとノックをし、レヴィアタンはその扉を開ける。

 扉の奥は、真っ正面に机とイス。装飾は目立つものはないが、この部屋の使用者は明らかに地位の高いものであるとわかる。しかし、そこには誰もいなかった。

「あれ、オルカ?」

「レヴィアタン様、今日は私は用事があると言っていたはずですが?そして、なぜ全裸……」

 部屋に入り目的の人物を捜していると、扉の方から凛とした女の声がした。声の方を向くとそこには、白い長髪の白い軍服とマントの女がいた。その白い軍服は、聖光使団の制服であり正装でもある。兼用していると言うよりも、制服の上からマントを羽織れば正装になるということらしい。

「それで、何のご用ですか?」

「そうそう、えーっと……そう言えば君、名前なんだっけ?」

『きとう……いや、キトだ』

 俺は、名前を聞かれたとき少し悩んだ。カトリアの時、俺の名前がこの世界では珍しいものなのだろうとわかった。だから俺は、カトリアが間違えた名前を名乗ることにした。

「鉱石……ですか?」

「そう、それも生きた鉱石。キトくんだよ」

『よろしく』

「……」

「あ、そうだ。オルカちゃんは、念話できないんだよね」

「……ええ」

「よろしく、かわいこちゃん。だって」

 レヴィアタンは、オルカに俺の声が聞こえないことを良いことに悪意のある通訳をする。

『余計なもん、付け足すな!』

「はあ?」

 レヴィアタンの通訳を聞き、オルカが俺に冷たい軽蔑の視線を送る。

『おい、レヴィアタン!』

「はははっ、ごめんよ。オルカ冗談だよ」

「それは、もういいです。それで、ご用件は?」

「もう!大した理由もなく僕は、オルカちゃんにあったらダメなのかい?」

「そんなことはありませんが、今日は大事な用事があるとお伝えしていたはずです」

「僕よりも大事なことなんてあるの?!」

「使団全体に関わることです!そして、服を着なさい!」

 親子喧嘩かよ。

 レヴィアタンは、オルカとの口喧嘩の後オルカに無理矢理青いワンピースを着せられ「フンス、フンスッ」と頬を膨らませて大股でオルカの部屋を後にした。

 よく丁度良い服を持ってるな。

『てか、オルカについて何の説明ももらってないんだが?』  

「ん、ああ。あの子には、僕の代わりに聖光使団の代表をしてもらってるんだ。それらしく言うなら、聖光使団代理団長ってところかな」

『あとさ、オルカに会う前に行ってた「本当はね」って何だったんだ?』

「思いこみってやつでさ、自分のこと僕の作った人形だと思ってるんだよ」

『なんでまた?』

「あの子が物心つく前に、僕が保護したからね。あの子にとっては、僕と一緒にいた記憶、体験したことがすべてなのさ」

 そう言うことってあるもんなんだな……。

「よし、次はウツボのところに行こう!」

 そう言うと、レヴィアタンはオルカのことを語っている時の沈んだ表情からパッと笑顔になった。

 レヴィアタンは、これまで人としての人生を歩んでいないオルカへ申し訳ない気持ちを持っているようだった。

 

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