第7話:イレギュラーの居場所

『さてと、ウツボ急に水にして悪かったね』

「いえ、レヴィ様。私はあなたがお作りになった存在、何なりと」

『それじゃあ、急に君だけを連れてきてしまったからね、君の連れていた隊も帰ってきてもらおうか』

「ええ、今すぐに」

 カトリアと言い合っていた男の声と檻の中で聞いた中性的な声が聞こえ、俺は目を覚ました。

『……ここは?』

 目を覚ますと俺は、真っ白な部屋の中で奇妙なタコのようなイカのような生物に見つめられていた。

『起きたな、大地の魔王』

『大…地の……何だって?』

『大地の魔王さ、君には僕たちと魔王をやってもらいたいんだ。いや、やるんだ』

『……えっと、色々情報が多すぎて理解が追いつかないんだけどまず、君誰?』

『そうだね。僕は、レヴィアタン。海の魔王だよ』

『???』

 このときの俺は、本当に頭上に疑問符が浮んでいるんじゃないかと思えるほど、何も頭に入ってこなかった。

『ああっと、つまり君はれびあたん?って名前で海の魔王って奴で俺もそれになれっと……?』

『そんなにハテナを浮かべながら、よく理解できてるじゃないか。だけど僕の名前は、レ“ヴィ”アタンだよ』

『わ、悪い。それでレヴィアタン、何でそんなこと……』

『君は、イレギュラーだ。それは、この世界からしてもであり君が本来あるべき姿たちの中でもだ』

『俺が本来あるべき姿?』

『そう、君は知っているかな“ブレーヴジェネラルライト鉱石”つまり勇者の石のことをさ?』

『ああ、人間が話してるのを聞いたことがあるな』 

 ブレーヴジェネラルライト鉱石。いかにもそれらしい名前のそれは、勇者の石や神の意志の宿る石などと呼ばれることのあるもので、武器に加工すれば勇者に戦いの知恵をさずけたり自立し戦闘をし、防具にすればあらゆる攻撃から勇者を守り、もし死ぬようなことがあっても何度でも蘇生するという簡単に言えば、勇者専用のチート装備の材料である。

『で、それが何なんだ?』

『え、だから君がそれでしょ?』

『はぁ……、やっぱりそんな感じか』

『なんだ、知ってるんじゃん』

『まぁな、大体察してた』

『まあ、とりあえず君は今日から魔王だ。いいね?』

『いいね?と言われましても、俺世界征服だとか興味ないぞ』

『僕もそんなものに興味はないさ。世界は平等で自由で無いとダメだ』

『うん?俺的には、魔王って「俺が一番だ!世界を闇で満たしてやる!」的なのをイメージしてたんだが』

『それはどちらかと言えば、リンゼル帝国の方がお似合いだね。僕の言う魔王は、「国や世界を支配しよう」なんて陰気なものじゃなく「僕たちで世界を救おうじゃないか」っていう同盟のことさ』

『世界を救う同盟?』

『そう、君の前には今僕という魔王しかいないけど、僕のほかに後二人魔王がいる。今すぐに会うって言うのは難しいけど。詳しい話は、みんな揃ってからだ』

『ちょっと待て、俺はやるなんて言ってないぞ!』

 俺の言葉に反応し、レヴィアタンは俺と顔面スレスレにまで顔を近づける。

『言ってない?僕は君の返事なんて求めちゃいない。言っただろ、やるんだよ君は』

『は?』

『第一に君、あんな小国で捕まって自分の力のことも知らずにどうするつもりだったの?捕らわれたままいるつもりだった?』

『いや、俺はあの国を出て行こうと』

『で、その後は?これも言ったはずだ、君はイレギュラーだ。この世界は、そんな得体の知れない君をなるようになるだなんてしてくれないよ?』

『それは……』

 正論だった。あの廃鉱で人化を使って、ゴーレムだなって思った時から覚悟はしているつもりだった。ドードの檻の中で、カトリアに言われたことに悔しさを覚えてから、俺のしたはずの覚悟がどれだけ上辺だけだったかを痛感していた。だから、今のレヴィアタンの言葉にも至極胸を締め付けられる。

『君には今、この世界のどこにも居場所はない。だから僕は、僕たちのこの魔王同盟に君の居場所を作る。だから君は、僕たちの目的のためにその力を奮ってほしい』

『居場所か……随分と上からな言い方だが、要は「俺の力を貸してほしい」そう言うことだろ?』

 レヴィアタンの言葉に俺は、少しひねくれた態度で返す。

『そうさ……』

 そういうと、レヴィアタンは小声で『《人化》』と唱える。すると、レヴィアタンを中心に水が湧き出し人型になる。ただそれは、俺の《人化》の姿とはちがく、完璧に人間と言える水色の髪と瞳の優しげな美しい女の姿だった。

「僕には、君が必要なんだ。僕と一緒に戦ってほしい」

 レヴィアタンは、床に座り込んでいる俺の頬を両手で包む。

『……』

「あ、ち、違うんだ!今のは、そ、そうだ!言葉の綾というやつで……」

 レヴィアタンの発言に疑問符をあげる俺をよそに、レヴィアタンは顔を真っ赤にしながらひどく焦った様子で弁解している。その様子を見て俺は、どこか安心したような、吹っ切れたような気がした。

『はぁ……いいぜ、やるよ魔王。おまえの言うとおりこの世界での俺の居場所は、無いに同じだ。おまえが用意してくれたその席に、座ってすがってみようかな』

「うん、よろしく頼むよ。大地の魔王」


 レヴィアタンとの話が一旦終わり、俺は一時的に聖光使団に世話になることとなった。

「一応、ここ白い街じゃない魔王の拠点はあるんだけど、君も疲れているだろうからね。しばらくは、ここで休息と強くなるための特訓をしよう」

『ああ』

 俺は今、《人化》した全裸のレヴィアタンに《人化》を解いた鉱石の状態で抱き抱えられて、聖光使団拠点を案内してもらっている。

『今更なんだが、何で全裸?』

「君も似たようなものだろ?」

 いやまあ、そうだけど……。

「何だい、鉱石のくせに人間に欲情しているのかい?」

『いや、そうじゃないけどさ……。というか、そう言えば、さっきから誰とも会わないな』

「まあ、僕が男と居ると激情に駆られる過激派なファンが居るからね。だからわざと人気のないところを通っているのさ」

『だからどうでもいいような場所の案内しかしてなかったのか』

「後日ちゃんとするさ。さあ、ついたよ。ここが君の部屋だ」

 レヴィアタンに連れられてきたのは、さっき居た部屋と同じような真っ白な部屋だ。

『お前さ、ここで精神的な人体実験でもやってんの?』

「いーや、してないよ?さっきも説明したとおりここは、この世界の伝説や禁忌の類を調査研究している場所。確かに、常人が長居できないような環境にしようと作ったのはそうだけど。それに、ここにいるのはほとんどが僕が作った人形たちだ」

『人形?』

「うん、君はまだ誰とも会ってはいないだろうけどね。まあ、機会があれば挨拶するよう言っておくよ。さあさあ、これから僕は明後日からの君の特訓の準備をしないといけないんだ」

『ああ、そうか。よろしく』

「がんばろうね」

 レヴィアタンはが、俺に微笑みそう言う。それは、とても純粋な笑顔だった。


 レヴィアタンと別れ、俺は案内された部屋のベッドで休んでいた。と言っても、鉱石の体には睡眠も食事も呼吸も必要ない。ただ、自分自身の過去を思い出そうとしていた。

 ――昔、俺がこの世界に来る前……「俺は、人間だった」という記憶がある。

『それは、本当に俺か?』

 ――じゃあ、誰なんだ。俺は何だ、この記憶はこの人格はこの現実は……本当か?

『この体は、何だ……』

 「昔に似たように悩む主人公の物語を見た気がする……これも本当に俺の記憶か?」などとこの世界に来てからと言うものの定期的にそんな考えるだけ無駄な意識が流れ出す。不安と恐怖とそんな感情は、度の過ぎたアルコールの様な気持ち悪さを引き連れ俺を襲っていく。

「はぁ、いつもそんなに無駄に苦しんでいるのかい?少し眠るといい」

 俺の定期的に訪れるこれは、落ち着くまで短くても2時間ほどはかかる。俺の特訓の準備をすると言っていたレヴィアタンは、とっくにそれを終わらせ俺の様子を見に来ていた。レヴィアタンは、ベッドに座ると俺を膝の上にのせゆっくりと温かい魔力を流し込む。

「《メルトラヴ》……」

 優しい声がした……。眠……。

 俺は、レヴィアタンの膝の上でこの世界で初めての眠りについた。


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