第6話:初めての入国と、、、

 この洞窟内での一件以来、俺は焦っていた。

『ここに人が来るってことは、殺したあの二人の知り合いとか家族がここに誰かを送り込んでくるかもしれない!《人化》をゲットしたあともそりゃ最初は嬉しかったけど、その後謎にビビって結局4日たった今でも使ってないし……いや、さすがに悩みすぎだ!やらねば、やられるだけだ!』

 ということで、俺は人化を試すことにした。

『スキル、《人化》』

 俺がそう唱えると、俺を中心に岩が人型に生成されていく。

 右手を見て、左手を見る。右足を見て、左足も見る。

『……人か?いや、ゴーレムだな』

 そう、人化した俺の体は人間というよりも人の形をした岩のモンスターだった。

『これじゃ、人前に出ても狩られるか逃げられるな……ん?』

 俺の視線の先、不意に見えたのは殺した人間の残った服だった。

 俺は、その服を継ぎ接ぎフード付きのマントを作った。人化した俺の体は、あの二人よりも大きかった。そのため、全身を覆い隠すには二人分の服のほとんどを使った。

『鎖帷子とこの鶴橋……置いていくのはもったいない精神が働くなぁ。持ってくか、ちょっとした鞄も作ろっ』


 翌日。

『もう日が昇ってきたな』

 俺は昨日マントと鞄を作った後、青髪に追われずいぶん遠くへ逃げていたためいつも居たギリギリ日の当たる位置にまで戻ってきていた。

『我が家……とは言いづらいが、この世界に着てからずっと世話になっていたしな。ありがとうございました』

 そう言って俺は、廃鉱の入り口へ一礼し、その場を後にした。

 目の前には、草原と遠くの山々そしてどこかへと続くであろう人工的な道路があった。俺は、その道路に沿って歩き始めた。道中、ウサギや鹿のような動物や分かりやすく禍々しい森へと続くであろう分かれ道などがあったり、馬のような動物が引く馬車とすれ違ってひやひやしたりしていると俺がいた廃鉱から一番近い国ドードについたのだった。

 しかしここで、ドードに入る前の一番の問題が俺を襲った。それは、入出国関門である。

『ん、俺って喋れなくね?トークセンスは、あくまで念話。モグリンの話によれば、念話はトークセンスを持っている者同士でしかできないらしいから……入国できなくね?』

 そう、そう言うことなのだった。俺はここで少し考えた。

『やったことはなかったが、この体で声やそれに近い音は出せるのだろうか?正直疑問なのだが、人化を行ってから半日以上はたっているのにスキルが切れることもMPの減少もない……まあそのかわり発動には60MP持ってかれるから、そうなのだと思えばそうか……。いや待て待て、今考えるべきはどうやってコミュニケーションをとるかだろ。うーん……』

 などと考えながら、改めて自分の所持スキルを確認するために意識を集中させる。


 習得済みスキル一覧

《クークル》−0MP※常時発動スキルです。

《トークセンス》−0MP※常時発動スキルです。

《膨張》−6MP

《ボディーチェンジ》−7MP

《サブスタンスチェンジ》−7MP

《土操作》−2MP

《墓堀》−2MP

《身体強化》−5MP

《効果倍加》−8MP

《エクセレントトークセンス》−0MP※常時発動スキルです。

《アンチデス》−50%MP

《アンチアンデッド》−0MP※常時発動スキルです。

《エフェクティブアンデッド》−0MP※常時発動スキルです。

《聖光使者》マイナnss@¥MP※現在、使用不可。

《人化》−60MP

 現在の所持SP(スキルポイント)60

 習得可能スキル一覧

《スキルインテグレート》−5SP・同効果または、類似効果のスキルを統一する。

《暗視》−3SP・夜や洞窟内などの暗闇を見えるようになる。

《不可視化》−7SP・自分自身を相手から見えずづらくする。


『今すぐに実行できて効果的そうなのは……《不可視化》か。よし』

 ということで、俺はスキル、《不可視化》を習得した。ついでに面白そうな《スキルインテグレート》も。

『んじゃ、行くか。スキル、《不可視化》』

 俺は、《不可視化》を完全に信じることにし入国へと進む。

 この国ドードは、ドーランド家を王家とする小国で、このときで建国から丁度100年ということで連日続いている、建国100年祭の最終日であった。

 門には、ドードの国章である太陽の城がデザインされた制服を着た兵士が二人。俺は、仁王像の間を通る気分で恐る恐る門をくぐるその時。


 パァーンッ。

 

 薄いガラスが割れるような音とともに俺は察した、不可視化の効果を消された。 

「「なッ?!」」

 俺を挟む二人の兵士が、驚きつつ瞬時に俺に槍を構える。

『まっずい、っずい!』

「貴様、何者だ!」

 不可視化が解けた理由、それは門入り口にあるスキルブロックという結界スキルがあったからだ。そんなことを知らずに行った俺が、しゃべることもできずにあわあわしていると一人の鎧を着た女が現れた。

「何事だ」

「おお、カトリア様いいところに。今し方、この者が何かしらの視認阻害スキルを使用した状態で国に入ろうとしたところを、捕らえようとしていたのです」

「なるほど。貴殿、何者か?」

『鬼頭和馬、17歳。鉱石です!って聞こえないよなぁ』

「鉱石?」

『……え?聞こえてるのか?念話が通じてる!』

「それと、き、きとお?」

「カトリア様、どうされたんですか?」

 俺の念話と会話しているカトリアは、念話が聞こえない兵士たちからしては独り言を言っているようにしか見えないようで、兵士はカトリアを不安げな表情で見ている。

「いえ、とりあえずこの者の身柄は私、ドード王国女騎士団団長が預かりましょう」

「は、はい。わかりました」

「では、キトとやら一時拘束します」

『鬼頭なんですが……しかし、あのモグラ以来だなこうしてトークセンスが機能するのは』

「貴殿、いつもそんなに念話で話しているのか?それでは、念話の通じる相手に内心ダダ漏れだぞ?」

 そう、俺はこうして指摘してもらうまでめちゃくちゃ独り言を聞こえる奴には聞こえる声でしゃべり続けていた。正直、めっちゃ恥ずかしかった。

 そうこうしていると、カトリアに連れられドード王国女騎士団の拠点についた。

 教会に似たここは、ドード王国女騎士団・通称ヴァルキリーソラの拠点である。俺はそこの、地下の檻の中に入れられ今、事情聴取されていた。

「……つまり貴殿は、意志の疎通のとれる鉱石で不可視化で入ろうとしたのは念話でしか話せないため、やむを得ず強攻手段に出たと」

『はい……すみませんでした』

「事情はわかった」

『じゃあ』

「事情はな。私はこのヴァルキリーソラに入団してから、多くの魔物たちと戦った。知能あるものからないものまで色々とな。だが貴殿のようなものは、初めてだ。貴殿の言ったこと、そのすべてが嘘であると、その裏に何か悪意があるとは言い切れない。しかし、私はこの国を守らねばならない。悪いが、貴殿のすべてを信じることはできない。もし貴殿に戦う意志も悪意もないのなら、即刻この国を去ってほしい。貴殿を嫌う理由はないが、正体不明の魔物を国に置いておけるほど私は肝が据わってない」

『……』

 カトリアの言うことは、当然のことだった。俺はカトリアの言い分は理解していた。でも、どこか悔しかった。

『わかっt』

 バンッ!

 カトリアの話を了承しようとしたその時、俺の言葉を遮るように激しくドアが開く音がした。

「団長!」

 息を切らした騎士団員が、地下へやってきた。

「どうした」

「聖光使団が」

「聖光使団?」

 聖光使団という名を聞き、カトリアが上へ様子を見に行く。するとそこには、一人の白髪の細目の男が立っていた。

「お初にお目にかかります、ヴァルキリーソラ団長カトリア様。私、聖光使団特別調査隊隊長・キツネともうします」

 そう言いながらキツネは、胸に手を当て一礼する。

「調査隊?貴殿らが知りたいようなものこのあたりには無いと思うがな」

「いえいえ、それがあるんですよ。勇者の石がね」

「ブレーヴジェネラルライト鉱石か」

「ええ、その鉱石は意志を持ち勇者専用の装備となり勇者に知恵を与え、時には自立して戦うという世にも不可思議な存在……」

「それがこの国にあると?」

「それは秘密です」

 カトリアの質問に、キツネが人差し指を口に当て答える。

「ん?カトリア様、その向こうの妙な気配……」

 キツネは、地下の俺の気配を感じてかムッと顔をしかめてカトリアに問う。

「ああ、門前で少し問題を起こしてな。私が保護した。貴殿らには関係のないことだ」

「こんなにめでたい祭りの日にまであなたに仕事をさせるとは、どれほど空気の読めない奴でしょう。一目みたいものですね」

「言ったはずだ、貴殿らには関係ない」

 さっきまでよりも険悪な雰囲気が拠点内に流れる。


 一方その頃、俺は上から感じられる嫌な雰囲気を感じながら檻に入れられているこの状況をどうしようかと考えていた。

 ――石壁か……ここは地下だし、土操作で何とかできるか?いや、その前にこの檻だな……。ん、そう言えば全く使ったことはなかったが使えそうだからと取っていたスキルがあったな。

『スキル、《サブスタンスチェンジ》』

 このスキルについて以前の簡略的な説明ではなく、ちょっと詳しく話すとしよう。

 スキル、《サブスタンスチェンジ》これは、対象のものの質をほかのものに変えると言うものである。対象にできるのは、岩や石、土それに鉄なども対象である。

 俺は、後ろの檻の柵に向けてスキルを使用した。

『何も変わらない?』

『そりゃあね』

 スキルの不発に俺が驚いていると、謎の中性的な声がした。

『誰だ?』

『ちょっと君に用があってね、やっと見つけたよ。おとなしくしててね』

『な、おい!』

 そう謎の声に困惑していると、カトリアとキツネが言い合っているはずの扉の向こうから水の固まりが俺めがけて飛んでくる。その水は、俺にぶつかると同時に、俺を包み込み、飲み込み、俺と混ざり合い地面へと染み込んで行く。それとともに徐々に意識が遠ざかっていく。

「おい、キツネ何を!」

「なぜ急に水に?!」

「なッ、キト殿!」

 あわてるカトリアたちの声を最後に、俺の意識は完全に途切れた。 

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