第6話 神々の黄昏(後)
「ああああああああああああ!」
奇声で気勢を上げながら、下り坂を自転車で進む。
俺は風!
無性に熱い、いや、あっつい温泉の後に自転車に乗って、下り坂で風になる。島の中で最高に気持ちいい瞬間ではないだろうか。外輪山の途中まで登り、そこから一気に下っていた。この辺りは確か、
その時である。前方から何か小さなものが飛んできた。自転車でかなりのスピードを出していた俺は咄嗟のことでよけられない。それは俺の開けっ放しの口の中に飛び込んできた。思わず「それ」をぺっと吐きだしたが、その動きでバランスが崩れ、自転車ごと道のわきの草むらへと突っ込んだ。
「いててて……あっぐ……!」
借りていたママチャリのカゴがひしゃげ、右腕に無数の擦り傷が入っている。ジーパンの下で見えないが、脚にも傷がありそうだ。膝がじんじんと痛む。
「大丈夫ですか?」
巫女装束の足元が見えた。
「ああ、多分大丈夫です……! 見られちゃいましたか?」
「道で滑ったんですか?」
「いや、何かが口に入ってきて驚いてしまい……」
ちらりと滑ったあたりを見る。俺の唾液に絡まれて金属光沢が暴れていた。カナブンかコガネムシだろう。それを認識した途端、発狂しそうになった。
「うわぁっ! 虫がぁっ!」
「え!? うわっ! きったなっ!……だ、大丈夫ですか?」
「ああっ、お、お見苦しいところを! ごめんなさい!」
なんとか事情を話し、理解していただく。そのためにも話題を切り替えた。
「そう言えば、
「え? あ、すぐそこですよ」
「ここにいかに大きくてきれいな石を持ってくるか、それが神様への崇敬になっていたんですよ」
「
ふと聞いてみる。神社に祀られているご祭神の由来は様々だ。有名な記紀神話の神々以外にも、ローカルな神様もいれば、武将や義民が祀られているところもある。
「私……ですか?」
悲しそうな顔をしていた。やってしまった。これは聞いてはいけない質問だったのだ。
「私は火山への
てっきり村に功のある人物や貴人が亡くなって祀られたのだと思っていた。あまりのことに言葉が出ない。
「私は火口に……」
「あ、あの、ごめんなさい! 変なことを聞いてしまって!」
俺は必死に謝った。この話題を中断しかった。他人の心に土足で入り込む。例え、わざとでなくてもこれほど罪深いコミュニケーションはなかなかないだろう。
「いいえ、貴方の立場からすれば知りたかったでしょう。私が死んだあと、村のみんなが魂を鎮めて、石場に祭神として祀ってくれたんです」
「神社もですね、最初は御幣が一本あるだけだったんですが、ほら、今は社をいただいているんですよ!」
「まあ、今は噴火して村もなくなってしまって……ちょっと寂しいですけどね」
かわいそうだ……
そう思う。神様になっても子供たちと遊ぶのが楽しいと言っていた。だが、その村はその後の火山で消えてしまったのだ。きっと寂しいだろう。火山の生贄になったのに、結局は噴火して村がなくなったのだから。
でも……
ふと思う。村がなくなっても
◇
盛夏が来た。
その夏は忘れられない夏だった。天水への依存が今だ大きい
「おまえさん、なんでうちの手伝いには来ないんだー!」
どこかの家の手伝いをしたことが知れると、今度は他の住民も手伝わないと不公平だと言われてしまう……主に
台風の後は、散乱した植物やらゴミやらを掃除し、家の補修を手伝う。一度、一番最初に
「いやぁ、やっぱこいつは見どころあっと、俺ぁ思ってたんだよ!」
乾いた笑いがあふれそうになったが、その一方で
そして、
◇
「おお! 光ったぞ!」
俺がはしゃぐ姿を
暗くなると、波が港の桟橋や海岸に打ち寄せるたびに青く光る。夜にフェリーが停泊することはないから、視界も良好だ。桟橋にシートを広げて座り、たまに寄ってくるフナムシを追い払いながら杯を重ねた。
真っ黒な海面をよーく見ていると、あちこちでウミホタルが発光しながら泳いでおり、素朴なプラネタリウムが水面に広がっているみたいだった。見上げれば夜空に満天の星空があり、眼下にはウミホタルの偽星空があるというわけだ。小石を海に投げ込むと、驚いたウミホタルがぱっと発光し、真っ暗な海で超新星爆発が起きたみたいだ。美しかった。
こんな風景を見ていると、もっと多くの人を誘いたくなるが、この島に子供はほとんどいない。代わりに神様が二柱ついてきた。このあたりが行動範囲の
「よーし、
だが、不安もある。島の人口は減少し、数少ない子供は進学のために島の外へ出ていく。この先、
「走りましょー! かぜになるれすよ!」
「すいません
「ええっ! ちょっと!」
信じていた
「ちょっと、
「大丈夫ですか、
心配そうに俺をのぞき込む
「さ、もう帰りませんと夜も遅くなりました」
「あ、寝てしまいましたか、すいません……あれ、
「もう帰られましたよ」
あの二柱、騒ぐだけ騒いでさっさと帰るとは!
「あれ?」
ふと、月明かりに照らされた対岸に子供がいた。だがすぐにいなくなってしまった。何度目を凝らしても、ただ静かに岩礁が月の銀色の光を浴びているだけだ。
「どうしました、
「いえ、今あっちに子供がいたような気がしたんですが、あっちは何もないですよね……まだ酔っているのかな、俺」
「ああ……」
「それが
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