今後の方針決めから突如起こる魔王 VS 二人のSSランク冒険者




「こりゃひどいな……」




ロワーレ国での出来事を録画した水晶を見終わったライゼンが呟く。

マギルカに至っては絶句して言葉を失っていた。





「それで? これからどうするんだ?」

「今度の異種族会議でこれを提出してロワーレを潰すつもりじゃ」

「その会議っていつに開かれますの?」

「次開かれるのは一か月後じゃな」

「そうか……」





ライゼンは腕を組み、なにか考え込むように唸る。





「会議が開かれるまでの間はどうするか考えてあるのか?」

「といいますと……?」

「ここがお前達の家だってことは奴は知ってるはずだ。 いつロワーレの王宮騎士が来てもおかしくないし、指名手配書が出回れば冒険者まがいのゴロツキ共が首を取りに来るだろう?」

「あっ……」





確かにそうだ。

使者が来たならここは知られていて当然だし、指名手配が掛かった以上はここにはいられないだろう。





「しばらくどこかに身を隠す必要があると思うが……当てはあるのか?」

「えっと……」




アスタルテは考えるが、その時間はすぐに終わってしまう。

思ってみればアスタルテはほとんどカンの町とここグレイスしか行ったことがないのだ。





「ここを守って戦う……とか?」

「それは駄目じゃろうな。 王宮騎士に仇をなすとこちらの罪になるじゃろうし、グレイスの人々を巻き込む可能性が大いにある」

「確かに……」

「我らは被害者じゃからのう。 ロワーレを悪でいさせ続けるためにも慎重にならねばいかん」





アスタルテ達が考えていると、突如カヤが口を開く。




「ならぁ、魔界にいればいいんじゃないですかぁ?」




その言葉にノレスはハッとした表情を浮かべる。





「そうじゃ、魔界で良いではないか! あそこならそう簡単には手が出せんからのう」

「そういえば魔界ってどこにあるの?」





以前の戦争での魔族達いい今回のカヤといい、魔界から来る者は皆裂け目から現れていた。

それもあってアスタルテは魔界のイメージがいまひとつ掴めていなかったのだ。





「魔界はこの世界の果ての果てじゃ。 普通に行こうと思ったら数か月はかかるじゃろうな」

「そんなに遠いの!?」

「うむ。 じゃから魔族が使える転送魔法で空間を繋げてこっちに来てるんじゃ」

「あの裂け目って転送魔法だったんだ……」




不気味な裂け目の正体を知ってアスタルテは納得する。




「それは魔族にしか使えないの?」

「あの魔法に関しては魔族のみにしか使えぬ……が、同じように空間を繋げる魔法は存在する」

「なるほど……」

「じゃが、それを扱えるのは魔法を極めた一部の者のみじゃ」

「じゃあ、ロワーレ国が魔界に追いかけてくる可能性が低いって感じ?」




アスタルテの質問にノレスは腕を組んで唸る。




「そうじゃな……まずその魔法を使用できる者を見つけるのが困難じゃろうし、いたとしても軍を送る程の規模になるととんでもない負担がかかる。 それだと送れても数名じゃろうな」

「ふむ、それなら戦争は回避できそうだね……」




話を聞いていたレーネの言葉にアスタルテは一つ疑問を浮かべる。




「そもそも戦争ってそんな簡単に起こっちゃうものなの……?」

「ロワーレが軍を動かして魔界に攻めてくるのであれば我も当然応戦せねばならぬ。 それぞれが国の王じゃからな、そうなってしまえば魔界とロワーレ国の戦い……つまり戦争じゃ」

「そんな……」

「上に立つものの重さが分かるじゃろう? 国の全てを背負って行動しておるのじゃからな。 それにも関わらず、奴はあの言動そしてこの行動じゃ。 自分の行動で国の行く末が左右されることをまるで自覚しておらぬ」





ため息を吐くノレスを見て、アスタルテは改めてこの人が国の王なのだと再認識する。




「ともかくじゃ。 今は魔界に行くのが最善じゃろうし、そうと決まればすぐにでも準備をせねばなるまい」

「あの、ちなみにライゼンさん達はこの後どうするんですか?」

「私はそうだな……とりあえずここに着いた頃にはもうもぬけの殻だったってギルドに帰って報告する予定だが……」

「もしかしてなんですが……」

「?」





アスタルテの雰囲気に一同は疑問を浮かべながら次の言葉を待つ。





「マギルカさんってSSランク冒険者で魔法に特化してますけど……さっきノレスが言ってた魔法って使えます……?」

「ええ、使えますわよ……?」

「王命で私達を捕まえてこいって言われたと聞きましたが、今度は魔界に軍を送れって王命が出されたりしないですかね……?」

「えぇ!? 先程言っていました通り、軍を送るレベルですと負担が尋常じゃないんですの! 一週間は動けなくなりますわよ!? そんな無茶な……」

「相手はロワーレじゃぞ、可能性は十分にある……マギルカ、お主王命に逆らえるか?」

「…………」





ノレスの言葉を聞いたマギルカは青ざめた表情を浮かべ首を左右に振る。





「無理です、出来ませんわ!! 戦争の火種になるようなものじゃないですの……」

「ふむ……ならばお主も魔界へ来い。 いや、お主を魔界へ拉致する」





ノレスの言葉にマギルカの目が点になる。




「ら、拉致と仰いましたの……? 一体それはどういう……」

「このままじゃギルドに戻れんじゃろうし、素直に付いてくれば裏切りだと思われるじゃろう。 そうなったらお主まで指名手配になりかねん」

「おいおい、そんなんじゃ……」

「勿論ライゼン、お主もじゃ」

「は……?」





マギルカに続きライゼンも驚きで目を丸くする。





「ロワーレ王の愚行を知ったとはいえ、このままギルドに戻ったらお主はマギルカが連れ去られたと報告するしかないじゃろう? だからお主も連れて行って少しでもあちらに状況の把握を遅らせるんじゃ」

「そ、そう言われても寝返ったのか連れ去られたのかなんてあっちは……」

「じゃから今から証拠を作るんじゃ」






そう言い放つとノレスは立ち上がり、玄関へと歩みを進める。





「お主らはすぐに発てるよう荷物をまとめるんじゃ。 マギルカとゼルは表へ出よ」

「分かった、皆すぐに準備に取り掛かろう。 アスタルテ君も、ほら」

「あ、はい!」





玄関へと向かう3人の背中を見守っていたアスタルテだったが、レーネに促され自分の部屋へと駆け込むのだった。















▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲













「そんで? 今から何をするんだ?」





家の前まで出てきたライゼンが向かい合うノレスに問いかける。





「やる事はシンプルじゃ、を残せば良い」





静かに語ったノレスから黒いオーラが溢れ始める。

それを感じた2人は咄嗟に武器を構えた。





「お、おい! 茶番なんだよな!?」

「さあどうかのう? お主らが跡形もなく消えれば連れて行く手間が省けるのは事実じゃがなあ?」





言葉を続ける毎に増幅するノレスのオーラを見て2人は思わず後ずさる。





「ちょ、あれって本気で言ってますの!?」

「あいつの腹の中は私じゃ分からん……が、気を抜いたら本気で殺られるぞ!!」






ライゼンはノレスを睨みつけると、巨大なハンマーを構え一気に距離を詰める。





「正直いきなりの事でなんのこっちゃ分からんけど……一撃で沈むような奴じゃあないよなぁ!!」





咆哮と共に、ライゼンはハンマーを力の限りノレスへと振り下ろす。





「良いスピードじゃ」




小さく呟いたノレスは左足を上げ、ハンマーを踵で受け止める。





「なんつー馬鹿力と体幹してんだよッ!! だがこのまま爆発で……」

「ライゼン! 後ろですわ!!」

「なっ!?」





ハンマーが光り始めた瞬間、マギルカの声で殺気に気付いたライゼンは咄嗟に横へと身体を動かす。




後ろから迫ってきていたのはなんとノレスの槍だった。




身体を動かしたと同時に槍はライゼンの頬を掠めると、ノレスの手に戻っていく。





「あの槍……一体どこから飛んできたんですの……」





気付いたらライゼンの真後ろに出現していた槍に、マギルカは理解が追いつかず眉をひそめる。




一方体勢を立て直したライゼンは頬から流れる血を拭い、その手を見つめる。





「カッカッカッ、あー……こりゃあ面白いなぁ……面白いっ!!!!」





目をギラつかせたライゼンは血のついた手を握りしめ、ハンマーを片手で振り回す。




鞭のように腕をしならせて軽々とハンマーを振り続けるその姿は、獅子族の闘争本能と冒険者ランク最高クラスであるSSランクの技術力が合わさることで美しさすら感じられた。





「がむしゃらのようで一切隙がない、流石の動きじゃな」




ライゼンのラッシュを脚と槍で受けながらノレスが呟く。





「いつまで余裕ぶってるつもりだ!」

「そう言うお主はどうなんじゃ? まだ身体強化スキルも何も使ってないのは分かっておるぞ?」

「……チッ」





小さな舌打ちと共にライゼンは一度マギルカの元へ退く。





「私に合わせられるか?」

「まぁやれないことはないですわ……」

「なら頼む! 神獣奮迅ビースト・モード!!」




詠唱と共にライゼンの身体が光に包まれたかと思えば、再びノレスに向かって突進していってしまった。




「ああもう!! 一体どうしてこんなことになってるんですの!!」




叫んだマギルカはスペルブックを前に浮遊させる。




「ホーリーソード!」




マギルカは空中に光の剣を出現させ、それをノレスへ向けて飛ばす。





「マギルカも参戦したか」




ライゼンの猛攻を捌いていたノレスは左手に剣を出現させると、マギルカの光の剣を斬りつける。





「まだ終わりませんわよ!」




一度斬られた光の剣だったが、空中で再度形成され再びノレスの元へと飛んでいく。

さらにマギルカは両手を前に突き出し、手の動きに剣を連動させて遠距離から操っていた。





「中々に忙しいのう……そら」





ノレスは右手の槍を捨てて黒いエネルギーを形成すると、マギルカに向かってそれを投げ飛ばす。




「くっ! ホーリーウォール!」




光の剣に意識を集中させたままマギルカは光の壁を作り出し、なんとかノレスのエネルギー弾を打ち消す。





「なんなんですのあの方は!?」




身体強化されたライゼンの猛攻を脚で捌きながら左手の剣で光の剣を受け止め、そして右手で魔法を放つという異次元の技にマギルカは唖然とする。




その瞬間、ノレスの蹴りを腹に受けたライゼンが吹き飛びマギルカの横に転がってくる。





「ハァ……ハァ……くっそ……」




身体に大きな負荷のかかる神獣奮迅で決めきれなかったライゼンは限界に近く、ハンマーを支えにしてやっと立っている状態だった。





「あれをやるしかないですわね……」





その様子を見たマギルカは目を閉じて深呼吸をすると、両手を前に突き出す。





「マジックブースト…マジックブースト…マジックブースト……」





マギルカが詠唱する度にその身体に光が集まり、オーラが巨大になっていく。





「「ディバインレーザー!!」」





カッと目を開いたマギルカが詠唱すると、両手から渦巻く光のレーザーが二本発射される。

その詠唱は何故か声がに聞こえ、まるでマギルカが二人いて同時に叫んだのかと錯覚するようなものだった。

極限まで濃縮された魔力から生み出されたレーザーは轟音と共にノレスに襲い掛かる。






「最上級の光魔法を同時に二回詠唱するとは……器用な奴じゃの」




ノレスは小さくため息をつくと、迫ってくるレーザーを見る。





「ふぅ…これは流石に覚醒せねば耐えられぬか……」





ノレスに闇が纏うのと同時に、その身はレーザーに飲み込まれていくのだった──────


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