第4章 =魔界編=

首都からの使者




「首都ですか!?」





アスタルテは驚きの声を上げる。




まったりと紅茶を飲んでいた昼下がりに訪れて来たのは、以前魔族との戦争時に派遣を知らせに来た者だった。




そして告げられた言葉は……首都への訪問願いである。





「理由は何でしょうか……」




アスタルテは恐る恐る尋ねる。




私達は冒険者であり、傭兵や何でも屋じゃない。

もしまた派遣だったら……





「今回の戦争で活躍された皆様に褒美を授与するとの事です」

「褒美……?」

「はい」

「グレイス国王からめちゃくちゃ頂きましたけども……」

「そちらとは別で皇帝陛下自ら与えたいとの事です」

「えっと……皆様ってレーネさん達もですよね?」

「そうですね」

「で、ではとりあえずあがって下さい……」

「お邪魔致します」











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「ふむ……なるほどね」

「はい。 こちらをご覧下さい」





使者をリビングに通したアスタルテは皆を呼び、話を続けてもらう。

とりあえず今は1番話し合いに強いレーネさんが対応中だ。





「ねぇノレス」

「なんじゃ」

「私達ってもうグレイス国王から報酬もらったよね?」

「多すぎるくらい貰ったな」

「だよね……」





隣に座っているノレスにアスタルテは話しかける。




以前戦争後、同じように家に使者が来てグレイス国王を尋ねたのだが、その時にとんでもない量のお金やら宝石やらを貰ったのだ。




グレイス国王を見たのはその時が初ではあったが、気さくで親しみやすいとても良い人だった。




それでてっきり戦争の事については片付いたと思っていたのだけれど……





「そういえばさっき皇帝陛下って言ってたけど、この世界で1番偉い人なの?」

「いや、勝手に名乗ってるだけじゃぞ」

「えぇ!?」

「アスタルテ君? どうかしたのかい?」

「あ、なんでもないです……」




アスタルテは驚きのあまりつい大声になってしまった。

恥ずかしさで顔を赤らめながら、ぺこりと頭を下げる。





「……勝手に名乗ってるってどういうことなの?」

「そのままの意味じゃ。 奴は他と変わらぬ国王なんじゃが、人族の首都が自分の国になるや否や自らの事を皇帝と名乗り始めおった」

「それって大丈夫なの……?」

「他種族の王や同じ人族の王も寛大じゃからな。 政治的な結論は変わらず総意で決める以上、特に影響無しとして放置しておる」

「つまりノレスも?」

「うむ。 勿論最初聞いた時は何様のつもりじゃと腹を立てたがの」

「まあそうだよね……」

「しかし最近は随分と調子に乗っておるからのう。 我含め、皆からの印象は良くないじゃろうな」





ノレスは拳を強く握りしめるが、紅茶を飲むとすぐ冷静に戻った。





「何にせよ、奴と会うなら気を付けるに越したことはない」

「そうなんだ……」

「よいか、奴は王族じゃからな? 決して殴ってはならぬぞ?」

「え、そんな殴られるような人なの!?」

「アスタルテ君??」





ハッとして口を塞いだアスタルテが振り向くと、そこにはニッコリと笑顔を浮かべたレーネが立っていた。




「レ、レーネさん……えっと、お話の方は……」

「もう終わって帰られたよ?」




アスタルテが横に視線を移すと、使者が座っていた席には誰もおらず空のカップだけが残されていた。





「アッ、ソウナンデスネ」

「私が真剣に話している間、アスタルテ君はノレスと何を話していたんだい?」

「あ、いや、えっと……」

「今後の予定や当日の段取りについて話していたけど、それはちゃんと聞いていたかい?」

「すみません、聞いてませんでした……」





レーネは小さくため息をつくと、アスタルテを後ろから抱き締めて耳元に口を寄せる。




「ノレスとばかりイチャイチャしたら駄目だからね?」

「ひゃ、ひゃい!」




耳に掛かるレーネの吐息がこそばゆく、アスタルテは素っ頓狂な声を出す。





「どのみちちゃんと聞いてたのは私だけだしね、後で説明するから大丈夫だよ」

「え?」




レーネの言葉にアスタルテはふと周りを見渡すと、そこには鼻ちょうちんと共にいびきをかくゼルと、目を細めて船を漕ぐコトハの姿があった。





「…………使者の人、呆れてませんでした?」

「びっくりするくらい動じてなかったよ」





使者さん、すみませんでした……





先程の行いを反省するアスタルテだった。












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「さて……」





ゼルとコトハを起こしたレーネは改めて説明をする。





「多分ここまでは皆聞いてたと思うけど、今回は首都への招待で訪問は5日後、理由は魔族戦争での褒美授与らしい」

「首都まで行くの結構面倒くせぇな……」

「……私も…参加なの……?」

「うん。 参加は私、ゼル、コトハ、ノレスにアスタルテ君の計5名だね」

「は? あいつ我も招待したのか!?」





参加者を聞いたノレスは声を荒らげ机を叩く。





「ノレスも最前線で戦ってたんだし当然なんじゃないの?」

「あいつ……我を下に見おって……」

「え、どういうこと?」

「我も魔界の王じゃ。 つまり奴は我と同じ……いや、1つの国の王なのに対して我は魔界全域を治めておるから我の方が偉い立場になるじゃろう?」

「うん、確かに?」





アスタルテは若干引っかかるものを感じながら頷く。




(ノレスってずっとここにいる気がするんだけど……内政的な仕事ってやってるのかな……)





「褒美を授与するというものは、上の者が下の者の努力を認めて対価を送る事じゃぞ? つまりあやつは我のことを下に見てナメとるってことじゃ!」

「うーん、そういうものなのかな…」




敬意を表してっていうパターンもあるような気がするんだけど……





「ふむ……まあノレスの立場なら気持ちは分からなくもないかな? それで、ノレスは参加するのかい?」

「勿論じゃ。 誰に喧嘩を打ったか分からせてやろうではないか」

「いや、事を荒立てないでおくれよ……?」

「ふん、全く……我は外の空気でも吸ってくる」





ノレスはイライラした様子で立ち上がると、キッチンへと向かう。




「チリア! 今日の買い出しは終わっておるか?」

「買い出しですにゃ? それならまだですにゃ」

「行くぞ、荷物持ちしてやる」

「にゃ!? い、急いで準備してきますにゃ!」

「外で待っておるからな」





チリアがバタバタと自室へ走っていくと、ノレスも玄関の方へと進んでいった。





「大丈夫なのかな……」

「ノレスも子供じゃないし、きっと大丈夫だよ」

「そうですよね……」

「さて、それじゃあ何か質問はあるかい?」

「あ、首都までってどれくらいかかるんですか?」





レーネの問いに早速アスタルテは疑問をぶつける。




「ここからだと馬車で約半日くらいかな」

「半日……結構遠いんですね」

「大丈夫、皆で話していたら一瞬だよ」

「確かに……そう考えたらプチ旅行みたいで楽しそうかも……!」




アスタルテは馬車内での様子を思い浮かべ、段々とワクワクしてくる。




「他に質問はあるかい?」

「うーん……あっ、そういえば……」




アスタルテは1つ、聞いておかなければならない事を思いつく。




当日粗相をしないように、今のうちに頭に入れておかなければ……





「首都の名前と、その国王様の名前ってなんていうんですか?」

「……え?」





アスタルテはその場の空気が凍るのを感じた……が、本当に知らないのである。




(これまで関わることもなかったし……)





「あ、えぇっと、こほん! ごめんね、名前はロワーレ王国で国王様はロワーレ国王だよ」

「ロワーレ……なるほど、ありがとうございます!」

「なぁ、レーネ」





アスタルテが頭に名前を刻み込んでいると、横で聞いていたゼルがレーネに問いかける。




「なんだい?」

「もし受け答えすることがあったらさ、ウチらなんて呼べばいいんだ? 国王様? それとも陛下って呼べばいいのか?」

「ふむ、そうだね……無難なのは陛下なのかな?」

「はぁ……陛下ねぇ……」

「どうかしたんですか?」





陛下という言葉に対して不満そうなゼルにアスタルテは理由を尋ねる。





「勝手に自分のことを皇帝だとか、本当に何様なんだって思ってな」

「ゼル、それは流石に不敬だよ?」

「いやだってよ、人間国に住んでるとはいえウチは魔人だしな……。 魔人国の王を知ってる分、横暴さが目立つんだよ」

「……気持ちは…分かる……エルフ国の女王様も…良い人……」

「各種族の格差を失くして、平等にそして平和にを誓ったのにそれはおかしいと思わねぇか?」

「ふむ……そう言われればそうだけど……穏便に済ませるに越したことはないからね……」

「まあそうだな」





ゼルはため息を吐くと椅子の背もたれに寄りかかる。




「なんか嫌な予感がするんだよな……」


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