ノレスの生い立ちの違い


「はぁ……」

「どうしたのじゃ、ため息なぞ吐きおって」

「いやどうしたもなにも、身体はダルいし頭も疲れたし……」




アスタルテはベッドにうつ伏せになって枕に顔を埋める。




「なんじゃ、まだ夜は始まったばかりじゃろう?」

「いや、もう朝が始まろうとしてるんですが!?」




アスタルテが窓に目をやると、そこにはうっすらと青くなった空があった。




「それよりノレス、結構聞きたい事があるんだけど……」

「ふむ。 我もいくつか知りたい事があるのう」

「ん、どんな事?」

「そうじゃな、まずは子供の名前についてなんじゃが……」

「いや、それはまだで良くない!?」

「我としては一朝一夕で決めたくは無いゆえ、じっくりと考える必要があると思うのじゃが」

「まあそれはそうだけど、一旦それは置いといてさ……」




アスタルテは起き上がると、ノレスの方を向いてベッドの上に座る。

そんな様子をノレスは横になりながらまじまじと見ていたのだが……どうにも目線がおかしい。




「あの……」

「ふむ……朝焼けに照らされるそなたの身体もまた情欲をそそるのう」

「なぁっ!? ……はぁ、よくそんな恥ずかしい事スラスラと言えるね……」




ため息を吐いたアスタルテは椅子の上に脱ぎ捨てられていた下着を身につけ、Tシャツを被る。




「それでなんだけどさ……」

「服を身にまとったからといってお主の魅力が隠せる訳ではないぞ?」

「だぁあもううるさい! 真面目な話をするんだからちょっと真剣に聞いて!」

「分かった分かった、我はいつでも真剣じゃ」

「まったくもう……えっと、ノレスって」

「なるほど、Tシャツからの生足もまた……」

「ノレス? ねぇ怒るよ?」

「そう怒るでない、さぁ話してみよ」




ノレスはニヤリと笑い、アスタルテの言葉を待つ。




(う〜ん……)




何気なく流してたけど、ノレスが度々ふざけるのって緊張をほぐそうとしてわざとやってるのかな……




まさかとは思いつつも、どこか話が切り出しやすくなった雰囲気を感じたアスタルテは口を開く。





「まず、ノレスって転生者なの?」

「うむ。 そうじゃ」

「えっと……つまり他の世界からって事?」

「そうじゃな。 む、しばし待つと良い」




そう言ったノレスはベッドの中をまさぐると、1冊の手帳が現れる。




「えっとじゃな……ふむふむ、我は日本から転生したみたいじゃ」

「ちょっと待って、それ何処から取り出したの……?」




あれ、さっきまで私もベッドの中にいたよね……?

手帳なんて入って無かったような……





「このベッドはアイテムボックスにもなっておるからの」

「そうなの!?」

「嘘じゃ。 スキルで異空間にしまっていたのを取り出しただけじゃ」

「えぇ……あ、それより! なんでわざわざ手帳に? まるで覚えてないかのような……」




ノレスの言い方はまるで他人事のようで、どうにも違和感があった。

それに手帳を見ないと分からないなんて、一体どうして……?





「その通りじゃ」

「え?」

「覚えとらんのじゃよ」

「転生前の記憶をってこと?」

「うむ、我を何歳じゃと思うておる。 転生したのなんて遥か彼方昔じゃぞ?」

「そうなんだ……じゃあその手帳は?」

「これか? これは我が小さい頃に転生前の覚えてる事をひたすら書いたものなのじゃ」

「小さい頃……」




それを聞いてアスタルテは1つ疑問に思う。




「ノレスって、何年の日本から転生して来たの?」

「何年か……うーむ、字が汚くて分かりづらいのう……いつかまとめなくては……」




そう言ったノレスは、唸りながらページをめくって手帳と睨めっこをする。





「お、これじゃ。 えー、ふむふむ、どうやら2007年に前世の我は病気で亡くなり、こっちで生まれ変わったみたいじゃな」

「えっ……?」





アスタルテは違和感から思わず声を出す。




(2007年……? そこから数百年と生きてるんだよね……私がこの世界に来る時は2020年だったはず……地球で13年経ってる間にこの世界では数百年過ぎてるって事……?)




「どうしたのじゃ、何か引っかかったか?」

「うーん……それがさ……」





アスタルテは転生前の年に違和感がある事をノレスに伝える。

すると、ノレスは意外にもあっさりとした返事をするのだった。





「過去に転生、未来に転生する事もあるかもしれぬし、そこは分からぬとしか言えぬな。 それにこっちとあっちが繋がっている訳ではなかろう?」

「まぁ、確かに……」

「それよりも、我も1つ疑問があるのじゃが……良いか?」

「え? あ、うん」




ノレスは真剣な顔つきになると、アスタルテの顔を一点に見つめる。





「お主は我に会うまでどこに隠れておったのじゃ?」

「ん、どういう事……?」

「我はお主と出会う前までは強き者を求めて飛び回っておってな。 強いオーラを感じたらすぐに分かるのじゃが……」

「う、うん」

「お主の年齢は200を超えていて、我に匹敵する力を持っておった。 それの意味が分かるか?」

「えーっと……?」

「それほどの力を持ちながら、それまでどうやって我から気付かれずにいたのかが不思議で仕方がないのじゃ」




ノレスの言葉を聞き、アスタルテは首を傾げる。




「えっと……隠れるも何も、200歳でこの世界に来たんだけど……」

「ちょっと待て、意味が分からぬ」

「あ、えっと……つまり……」




アスタルテはこの世界に来た経緯をノレスに説明した。

前世で事故に会い、亡くなった事。

輪廻の女神キヤナに出会い、その説明をされた事。

自分の容姿を決める事ができ、おまかせを選択したら今の姿になった事。




転生前の性別が男性だった事についてはなんとなく言いづらい感じがしたので伏せておいた。





「なるほど……ふむ…」

「あれ……?」




考え込むノレスの姿を見て、アスタルテは違和感を覚える。

どうも思っていた反応と違うのだ。




「アスタルテよ、それは果たして転生なのじゃろうか……?転移、いやしかし肉体はまた別じゃし……」

「考えたこと無かったけど、言われてみれば確かにどうなんだろう……それよりも、ノレスも私と同じ方法でこの世界に来たんだよね…?」

「いや、我は全然違う」

「えっと……ノレスの場合はどうだったの?」





アスタルテは同じ転生者であるはずのノレスと生まれが違う事に動揺しつつも問いかける。





「我は他の子らと同様、母から生まれたんじゃ。 前世の記憶を保持したままな」

「え……じゃあどうして私は……?」

「うぅむ……それは神のみぞ知る事じゃろうな。 そのキヤナとやらに聞かんと分からんじゃろう」

「まあそうだよね……」

「しかし……同じ世界、それも近い時代から転生したのにそこが違うのはなんなんじゃろうな」




ノレスの言葉を聞いて、アスタルテは顎に手を当てる。



うーん……普通に考えたら私の生まれって異質だよね……

いきなりそれまで存在しない人が世界に現れたって事だし、転生する時に選択した顔とかを全部組み合わせてキヤナさんが創り出したということになる……




まぁでもそこは神様だしできるのかな?





「アスタルテよ」

「ん、何か分かった事でも……うわびっくりした!」




声をかけられて前を向くと、いつの間にかノレスはアスタルテの眼前にいた。




ノレスはアスタルテに抱きつくと、そのままベッドに倒れ込む。





「のうアスタルテよ、そんな事は今考えなくても良いではないか。あと数時間もしたらお主を独占出来なくなるじゃろう?」

「ちょ、ノレス!?」




ノレスは耳元で囁きながら後ろに回した手で頭を撫で、もう片方の手で腰をガッチリと掴んでアスタルテをホールドする。




「ノレス、苦しいよ……」

「こうすればお互いの鼓動を感じ合えるじゃろう?」




ノレスに言われ、アスタルテは流されるまま目を閉じて鼓動に意識する。





────が、しかし。





「胸が大きすぎて鼓動なんて全く分からないんだけど!?」

「何を言うか、そなたの鼓動を我は感じ取れるぞ?」

「そりゃあ私は鼓動を吸収させるモノを持ってないからね!? あーあー! どうせ私はぺったんこですよ!!」

「そう言うでない。 お主も大きくなった姿では良いモノを持っておるではないか」

「でもデフォルトの私はこの姿だし……」

「耳元で囁くとは……我を誘っておるのか?」

「離れられないからこうなってるんですが!?」





アスタルテはじたばたもがくものの、嘘のように拘束から抜け出せない。




「こんのぉ……まだ聞きたい事があるんだけどぉ……!!」

「お主が本気を出せばこんなのすぐ解けるじゃろう?」

「そんな事したら怪我するでしょうが……!!」




ぐぬぬ、なんでこんな……!




「ククッ……ほれほれ、早く解かぬとどんどん締まってゆくぞ?」

「あが……!? ノレス、いい加減に……! ちょ、んんっ……!」

「おや? お主もしかして……締め付けられて感じておるのか?」




ノレスは耳元で不気味に笑うと、膝を上げてアスタルテのおへそ下辺りにくっ付ける。




「こういうのはどうじゃ?」

「ちょっと……一体…何ぉお!?」

「ほれほれ」




ノレスは腰に回した手でアスタルテを不規則に膝に押し付け、おへそをグイグイと押し込む。




「あ…ぐっ、はっんん…お゛っ……」

「どうじゃ? こういうのもまた良いじゃろう?」

「ぃぎっ!? ノレ……これ、ダメ…ぇ、ほんとに……やめっ」

「ほら、そのまま達するのじゃ」





ノレスは言い終わると同時にアスタルテの首に噛み付き、強く身体を引き寄せた。





「いっ!? 〜〜〜〜〜〜っ!!」





その瞬間、アスタルテは身体を痙攣させ視界が真っ白に染まる。




ようやくノレスから解放されたアスタルテだったが、身体を自分の意思で1ミリも動かす事が出来なかった。




アスタルテが出来たのは、継続的に押し寄せる快楽の波にただ身体を跳ねさせる事、そしてそれに合わせて勝手に飛び出る下品な声を止めようと思うだけだった。





「あれだけキツく拘束された状態で達したんじゃ、まだ全身が締め付けられておる感覚がするじゃろう?」




腰を浮かせて虚空を見つめるアスタルテの頬を撫で、流れ落ちる涙を指で掬う。




「ククク、新しい扉を開いてしまったかもしれんのう……」

「ノ…レス……」

「む、どうしたのじゃ? そなたが望むなら今からでもまた同じ事を」

「後で…お説教…するから、覚悟……しといて」

「……」




アスタルテの言葉でふと我に返ったノレスは、本人が想像以上に怒っている事を察するのだった……。


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