コトハさんとのお風呂
「う、う〜ん……」
なんとも言えぬ寝苦しさを感じアスタルテは目を覚ます。
「……おはよう…」
「お、おはよう……ございます…?」
まだ眠りから完全に覚めていないアスタルテは状況が飲み込めず頭にハテナマークを浮かべる。
「えっと、コトハさん…?」
「……なに…?」
「何故私の上にいるんですか…?」
「……本能的に…」
「本能的に!?」
なんなんだろうと思いつつ、アスタルテはコトハが退くまで待っていたのだが……
何故かコトハはアスタルテの顔を見続けており、動く気配がまるでない。
「あの…どうしたんですか?」
「……今日は…私の日…」
「あ、なるほど」
そういえば今日はコトハさんの日だった、完全に忘れてた…
コトハさんは今日1日どういう予定を立ててるんだろう…
「……アスタルテ…もしかして…」
我に返ったアスタルテがコトハの方を見ると、彼女はまるでリスの様に頬をぷくーっと膨らませていた。
「……忘れてた…?」
「い、いえ! 覚えてました!!」
「……むー…」
「と、ところで今日1日の予定はどんな感じなんですか?」
コトハが不機嫌になりそうな気配を察知したアスタルテは話を進める。
「……前言った通り…1日ずっと…ゆっくり…じっくり…交わる…」
「えっと、それってつまり……」
「……勿論…今から……」
コトハはそう言うと、アスタルテのパジャマのボタンを外し始める。
「ちょ、ちょっと待って下さい! お風呂に…いや、顔を洗うだけでもいいので行ってきて良いですか!?」
「……えー……私はこのままで…構わない……」
「私が構います!!」
お風呂はまぁ最悪いいけど、せめて顔を洗って歯を磨きたい……
「……分かった…お風呂……一緒に行く…」
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「あの……コトハさん…?」
「……何?」
「どうして私の前に座ってるんですか…?」
「……洗いっこ…」
「なるほど…?」
目の前にちょこんと座っているコトハを見てアスタルテは頭を悩ませる。
その原因はズバリ、腰辺りまで伸びた髪だ。
アスタルテの髪の長さは肩くらいまで。
そして前世で男だった時も当然今より髪は短かった。
つまり……長い髪の洗い方が分からないのだ。
(髪なんていつもガーッて洗ってただけなんだけど……かといって同じ事は出来ないし……)
どうしようか色々考えるアスタルテだったが、いつまでも待たせる訳にはいかない。
とりあえずシャンプーを手に取り、泡が顔に流れていかないように慎重に洗う。
「……アスタルテ…中々の…テクニシャン……」
鏡を通してコトハの方を見ると、彼女は目を細めて気持ちよさそうにしていた。
とりあえず第1段階はクリアといった所だろうか……
(さて…問題はここだ…)
コトハの髪を見てアスタルテは考える。
そもそも、人は何故髪を洗うのだろうか。
世の中には様々な種類のシャンプーがあり、製造している所によって細かいこだわりがあるとは思うが、その本質はどれも髪の汚れを落とす事にある。
そして髪の汚れを落とす方法は、ホコリや花粉などの汚れの元を泡に吸収させて共に洗い流す事。
つまり、髪に泡を付ければいいのだ……!
理論的?に答えに辿り着いたアスタルテは左手で髪を掬い、右手で泡を染み込ませる。
髪を引っ張らないように注意しつつ、表面だけでなく髪の毛全体に泡が付くように意識する。
「……アスタルテ」
「あ、はい! なんでしょう?」
髪に全神経を注いでいたアスタルテだったが、コトハから声をかけられて鏡の方を見ると、コトハは何処か不機嫌そうに頬を膨らませていた。
「も、もしかして痛かったですか…!?」
「……どうして…」
「へ?」
「……どうして…長い髪を…洗い慣れてるの…?」
「え、いや、普通に今が初チャレンジですよ!?」
「……普段から…レーネとかと…洗いっこしてる…」
「いやしてませんが!?」
「……むー…」
いや、確かにゼルさんとレーネさんの背中は流したけど、髪は洗ってませんよ!?
逆に考えたらそれだけ洗うのが上手いということなのだろうか……
仮にそうだとしても疑いをかけられるなら洗うのが下手な方が良いかも……
「本当にコトハさんが初めてなんですよ……?」
「……初めて?」
「初めてです」
「……本当に?」
「え? はい、本当です」
「……そう…初めて…」
小さく呟いたコトハの表情は先程と異なり明るくなっていた。
「ところでコトハさん」
「……なに?」
「本当に今日1日家から出ないんですか…?」
アスタルテは不安に思っていた事を聞いてみた。
正直、今から丸一日は魔力どころか体力まで尽きてしまう気がする……
「……家から出ない…というより……ベッドから……出ない…」
「え、あの……お手洗いや水分補給などは…?」
「……ベッドに…入る前に…済ませればいい……水分は…魔法で出せるし……飲んだ分だけ…汗で流せばいい……」
「マジですか」
「……マジ」
────これからの出来事を想像したアスタルテの背筋が凍った瞬間なのであった。
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