ゼルさんと……



「う〜ん……」




先にお風呂から上がったアスタルテは自室で頭を抱えていた。




(さっきは勢いで結構恥ずかしいこと言っちゃった……いや、それより問題は……)




ゼルさんって……これからする事を理解しているのだろうか……?





これからする事、つまりいちゃいちゃして私の魔力を発散するという事なのだけども……




「ゼルさんってめちゃくちゃ初心なんだよね……」




手を繋ぐだけでも凄い動揺だったし、キスした時も飛び跳ねてたし…




正直、子供がどうやって産まれるのかを知らないまであるのでは無いだろうか……?




雰囲気だとゼルさんは攻めっぽいけど、多分受けだろうから私が押し倒すような感じになるのかな?




「あんまり強気に行き過ぎると恥ずかしさから拒否されそうだし、嫌がるようならすぐ辞めよ……」





時間はこの先いっぱいある訳だし、焦る必要なんて無いだろう。





アスタルテはうんうんと頷くと、部屋の扉を見る。





あの……ゼルさん、遅くない?





予想ではもっと早くに来ると思ってたのだが、未だに来ていない。




(もしかしてゼルさんも自分の部屋で待ってるなんて事ないよね……)




いや、考えてみれば私の部屋に集合って言ってない。




「もしゼルさんが自分の部屋で待ってるなら、早く行かないと!!」




アスタルテはベッドから降りると、部屋の扉を開けて廊下に飛び出る。





「うわあぁ!?」

「よ、よぉ……」





廊下に出てすぐ目の前の壁にゼルが寄りかかっており、アスタルテはびっくり飛び跳ねる。





「ゼルさん、いつからここに……?」

「うーんと……10分前くらいじゃねぇかな……」

「10分もバスローブ姿でそこに居たんですか!?」

「おう……なんつーか、変に緊張しちまったっつーか……入るタイミングが分からなくてな……」

「えぇぇ……入ってください、そのままだと風邪引いちゃいますよ!」





アスタルテはゼルを部屋に招き入れ、安堵のため息を吐く。




「えっと、とりあえずお酒でも飲みますか?」

「いや、いい」

「えっ」




恥ずかしがり屋のゼルさんのことだから絶対お酒の力を借りると思ったんだけど……




「その、ウチらが今からすんのって、つまり……交尾だろ……?」

「えっ!? えー、まぁ……そう、ですね……?」




ゼルの言葉にアスタルテは驚きつつも、たどたどしく答える。




(交尾……!? いや、でも獣人だとそう言うのかな……?)




まあ、言い方はともあれ、ゼルさんはどうやらこれからしようとしている事を理解しているらしい。





「今日はアスタルテとの大事な日なんだ。 だから、ちゃんと記憶に残しておきてぇんだ……ウチ、酒が入ると記憶無くなる事多いしな」

「ゼルさん……」

「最初はウチも酒を飲もうと思ってたぜ? ただ、風呂場でのアスタルテの言葉を聞いて覚悟が決まったんだ」





ベッドに座るゼルの真剣な眼差しを受けて、アスタルテは動悸が高まるのを感じた。




「だからアスタルテ、そのままの……ありのままのウチを見てくれ……」





アスタルテはごくりと生唾を飲み込むと、ゼルの元へと近づく。

1歩近づく度に、ゼルの顔が赤くなっていくのが分かる。

ああ言ったものの、相当恥ずかしいのだろう。




アスタルテはベッドに横たわるゼルの上にまたがると、バスローブへと手を伸ばす。





「あの、嫌だったら遠慮なく言ってくださいね」

「おう……全然大丈夫だぜ……?」





そう言うゼルだったが、両手は跡が残るくらい強くベッドシーツを握りしめていた。




その様子に若干の心配をしつつも、アスタルテはゼルのバスローブを解いて素肌が見えるよう開く。




月明かりに照らされてるのもあってか、ゼルの身体はより1層美しく見えた。





「アスタルテ、あまり見ないでくれ……恥ずかしい……」




顔を真っ赤にしたゼルは左腕で両目を覆いながら、絞り出すように声を出す。





(こ、これは……ヤバいかもしれない……)





はだけたバスローブ、そこから覗く月明かりに照らされた身体、そして普段のゼルからは想像もつかない恥じらいに満ちた仕草。




それらを目の当たりにしたアスタルテの理性は崩壊寸前だった。





「ゼルさん」

「なんだ? アスタんむっ!?」




アスタルテはゼルの両手首を抑えると同時に舌を口にねじ込んだ。





「んんん! ん、んむむ……!!」




ゼルは腰を浮かせてアスタルテをどかそうとするが、抵抗虚しく口内の蹂躙が止むことは無かった。




小柄ではあるものの、数百倍の力を持つ者が上に乗っているのだ。

まるで磔にされているかのようにゼルの身体はビクともしなかった。




「ぷはっ、はぁ…はぁ……ウチを…窒息させるつもりか…!」





やがて長い拘束が終わり解放される頃には、ゼルは息も絶え絶えで大人しくなっていた。





「ゼルさんリラックスして、鼻で息をしてください」

「そ、それが出来たら苦労しない…あぁ分かった、分かったから!」




アスタルテが再び両手首を握ろうとすると、ゼルは渋々承諾した。




(ちょっと強引だけど……逆に毎回、今からこういう事しますよーとか言う方が恥ずかしいだろうし……)





アスタルテはゼルに顔を近づけると、今度は頬に手を添える。





「うぅぅ〜……」

「あの、ゼルさん……私の舌、噛みちぎらないでくださいよ……?」






恥ずかしいからなのか、歯を食いしばるゼルを見てアスタルテは少々不安になる。





(さっきは突然したから大丈夫だったけど……ちょっと怖いな……)





「て、ていうかそもそもだアスタルテ! ウチは半裸なのにそっちは服を着てるのはズルいだろ!」

「えっ。 う、うーん……まぁ、そうですね」





一応ゼルさんに配慮して着ていた訳なのだが、そう言うならば仕方ない。




アスタルテは寝間着を脱ぎ捨て、ゼルに素肌を晒す。





「わ、ちょ、わああぁ!!」




アスタルテを見たゼルは慌てふためき、腕で目を覆った。





(こうなるから着ていたのだけども……)





「えっと……ゼルさん、大丈夫そうですか?」

「いや、ちょっと……ヤべェかもしれない」

「今日はもう辞めときますか?」

「そ、それは!!」





アスタルテの言葉を聞いたゼルは上半身を起こしてアスタルテを見つめる。





「今日は1歩踏み出す日なんだ。 今日を逃したら……絶対ウチは恥ずかしさに止められて前へ出れないだろうぜ……」

「ゼルさん……」

「だからアスタルテ! 今日はお前の思うままで構わねぇ、ウチは……最大限ついていくから」





ゼルの言葉を受け、アスタルテは自分の顔が熱くなり、そして鼓動が速くなるのを感じた。





「ゼルさん……このままだと私、ゼルさんをめちゃくちゃにしてしまうかもしれません……」

「ウチの自慢は身体の丈夫さだからな、全部受け止めてやるよ」

「それじゃ、遠慮なく……」





アスタルテはお腹の下に手を当てると、とあるスキルを使用する。




「お、おい……ななななんだそれはお前!?」

「見ての通りですよ」

「ちょ、おい、それは聞いてねえぞ!? アスタルテ、ちょっとまっ、おいいい!?」





────後日ゼルに聞いた話では、この時のアスタルテは過去一の怖さだったらしい。


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