ライゼンとの戦い
「では、私がこの決闘の見届人を務める」
アスタルテとライゼンを挟んだ真ん中にいるクロが右手を上げて宣言する。
いざ戦闘開始しようとしていた所、どこからともなく現れたクロが見届人をやると言い出したのだ。
正直わざわざ見届人なんているのかとも思ったが、本人がやりたいなら別にいいだろう。
「まぁ、やるならさっさとやっちゃおう……」
アスタルテは小さく溜息をつくと、ガントレットを呼び出す。
とはいえ相手はSSランクでありゼルの師匠でもある。
油断は禁物だ。
「それじゃあ、始め」
クロが開始の合図とともに右手を振り下ろした瞬間、ライゼンが雷の如く突っ込んでくる。
「うおおおおおお!!」
ライゼンは大きく振りかぶった巨大なハンマーをアスタルテに向かって振り下ろす。
「くっ! うわ、重い……!」
両手で受け止めたアスタルテだったが、思ってた以上の重さに驚いた。
(若干手のひらが痺れる……やっぱりSSランクは伊達じゃないな…)
「……かかったな」
「え? うわっ!?」
ライゼンがぼそっと呟いたと思った次の瞬間、ハンマーが大爆発を起こしライゼンもろとも爆風に包み込まれた。
「ふん、接近戦で私に勝てるわけがないのだ」
煙の中から
「めっちゃびっくりした……」
「な!?」
煙が晴れると、そこには同じく無傷のアスタルテが立っていた。
「ハンマーがなんでいきなり爆発したの……というかなんでライゼンさんは無傷なの…?」
いきなり起こった意味不明な現象に、アスタルテは頭にハテナを浮かべる。
「あ、あ、アスタルテ……くん」
「え?」
少し離れたところで見ていたレーネに声をかけられそちらを見ると、どうも様子がおかしい。
レーネは赤面してわなわなと震えており、ゼルは両手で顔を覆ってしゃがみ込んでいた。
「え、何……?」
「こほん、えっとね、うん、えーっと、ちょっと下を見てもらえるかい?」
「下? 下に一体なに……が……」
アスタルテが下を見ると、そこにはいつものぺったんこお胸があった。
────布を一切纏うことなく。
「え、ちょ、はぁあ!?」
アスタルテは慌てて両手で胸を隠す。
(え、なんで……なんで!?)
頭がパニックになりつつもハッと気づく。
そうだ、寝間着のままだった…!!
起きた瞬間にリビングに連れて行かれたからいつもの服に着替えてなかったんだ……
そりゃ防御力皆無の布切れであんな爆発受けたら吹き飛ぶよね……
幸いな事に、下は吹き飛ばされなかったけども……
「カッカッカ、そんな貧相な胸をさらけ出したところで誰も気にせんだろう? まぁ、爆発に耐えたのはちょっと驚いたがな」
「だれが……」
「ん?」
「だれが……つるぺた貧乳じゃあああああ!!!!」
アスタルテは咆哮と共に右手を振りかぶってガントレットに思いっきり魔力を流し込む。
……もちろん左手で胸は隠しながら。
今のアスタルテが全力で魔力を流し込んだ事により、ガントレットのブーストはかつてない勢いを帯びる。
光をぶっちぎる程の速さで飛んだアスタルテは一瞬でライゼンの前に到着すると、勢いのまま拳を叩きつけた……!!
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「で? 身体の半分が消し飛んだと」
リビングで事の顛末を聞いたノレスは呆れた表情でライゼンを見る。
「いやー、本気で死ぬかと思ったぞ……」
「ざまぁないのう」
戦いの結果は、アスタルテの勝利で幕を閉じた。
ライゼンはアスタルテの攻撃を事前に察知して避けようとしたおかげでアスタルテのパンチを喰らわなくてすんだ。
しかし、衝撃波によって身体の半分が消し飛び、コトハとノレスの治療によってなんとか一命をとりとめたのだ。
「アスタルテよ」
「はい……」
「お主は己の力を甘く見すぎじゃ。 仮に指先にでも攻撃が当たってたらこやつは跡形もなく消滅しておったぞ」
「反省してます……」
「幸い身体半分で済んだから元に戻せはしたが……」
「ありがとうございます……」
ノレスは軽くため息をつくと、アスタルテの頭を優しく撫でた。
「そもそもあやつが無謀な戦いを挑んだのが悪いしな、お主がそう落ち込むことはない」
アスタルテに声をかけたノレスは振り返ると、ライゼンの方を見る。
「で、その嫁の資格がどうのってのは済んだのか?」
「そりゃ勿論だ。 あんな強さを見せられちゃ認めざるを得んからな。 ところで…アスタルテ」
「え、なんでしょう?」
突然ライゼンに話を振られ、アスタルテは驚きつつも返事をする。
「その、なんだ。 お前は一夫多妻というか、嫁が複数いるんだろう? それって何人でも良いっていうか……まだ枠はあるのか…?」
「へ?」
「……ん?」
「はぁ?」
「あ?」
ライゼンの言葉に、アスタルテだけでなくレーネとゼル、ノレスも反応する。
「いや、そのあれだ。 私より圧倒的に強いやつって初めて会ったしな、なんというか枠が空いてるならどうだろうなってな」
ライゼンが照れ気味にそう言う。
「おい、おいおいおいおい! ライゼン! てめぇ何言いだしてんだコラ!」
「人の嫁を見定めに来てそれを奪っていく師匠がどこにいるんです? ライゼンさん?」
ゼルとレーネがライゼンに詰め寄る。
「いやだって! 私は私より強い者しか認めんのだ! それに奪うつもりなどない! 同席したいだけだ!」
「別に他のSSランクでもいいだろうが!」
「他の奴らは魔法に長けていたり魔法を使いながら剣を振ったりで中途半端じゃないか! 私は接近戦一本の相手がいいんだ!」
「……ライゼン。 貴様本気で死にたいようじゃのう?」
二人に加えてノレスがただならぬ殺気と共に詰め寄るが、ライゼンは慌ててアスタルテの方へと逃げる。
────そしてアスタルテの頬に優しく口付けをした。
「……私は本気だぜ? ちょっと考えておいてくれ、な? そんじゃ、お邪魔したぞー!」
ライゼンはアスタルテの耳元で囁くと、勢いよく家から飛び出ていく。
一部始終を見ていた他のみんなはフリーズしていたが、我に返ると勢いよく玄関に向かって走っていった。
「ライゼンてめええええ!!」
「ゼル、申し訳ないけど……君の師匠は無傷じゃ済まさないよ」
「あやつ……治療した恩を仇で返しおって!!」
あのぅ……
さっきまで賑やかだったリビングが一気に静かになったんですけど……
「……うるさい…私の三度寝を邪魔する者は…万死に値する……」
すると、コトハが不機嫌そうにリビングに入ってきた。
「あ、コトハさんおはようございます」
「……ん。 おはよう……ふわ……」
コトハはあくびをしながらアスタルテの横に立つ。
「……アスタルテ…」
「どうしました?」
「……大きくなって」
「はい?」
大きくなれって事は大人バージョンって事なのだろうか…?
いまいち言葉の真意が分からなかったアスタルテだったが、とりあえず状態変化をして大人の姿になる。
するとそれを見届けたコトハがアスタルテの膝の上に座ってきた。
(なるほど、いつもの姿だと同じくらいの背丈だからこの姿にさせたのか……)
最初は不機嫌そうにしていたコトハだったが、どうやらこれで機嫌が直ったらしい。
私の膝には癒し効果でもあるのだろうか…?
「ところでコトハさん」
「……ん」
「ライゼンさんの武器ってどういう仕組みなのか知ってたりしますか……?」
「……ライゼン…? アスタルテって……あいつと知り合ってたっけ……?」
「今朝訪れてきたんです……ただ、丁度いまさっき帰っちゃった所ですね」
「……そう…」
コトハはあまり興味が無さそうに返事をすると、身体を倒してアスタルテの胸に頭を預ける。
「……それで…仕組みというと…?」
「えーと…ハンマーが爆発したんですよね…」
「……なるほど…」
我ながら言っていることが突拍子すぎるが、事実そうである。
そしてどうやらそれで伝わったらしい。
「……まず、ライゼンの武器は……神器…」
「あ、そうだったんですね…」
「……アスタルテのも…そうだけど…神器にはそれぞれ固有のスキルがある…」
「えっと…私で言うと魔力を込めたらブーストするやつですか?」
「……そう、それ…」
なるほど、つまりライゼンさんの武器は魔力を込めると爆発するということなのか……
でも、なんでライゼンさんにはノーダメージだったんだろう…?
アスタルテが考えていると、思考を読み取ったかのようにコトハが答える。
「……魔法もそう…だけど、自分の魔力は……自分には無害…」
「え…」
「……アスタルテも…自分の出した炎……寒くない…でしょ…?」
言われてみればそうだ。
私は今まで何度も至近距離で炎を出してきたが、自分に燃え移ったり身体が凍りついたことは一度もない。
よくよく考えれば、自分の手から炎が出ているのに何も感じないのはおかしい。
自分の魔力で生成されているから自分には無害ということなのか……
「……ライゼンのハンマーは…魔力を込めると……何倍にも増幅させて大爆発を起こす……でも、ライゼンの魔力で起きたものだから…ライゼンには効かない…」
「なるほど、そういうことだったんですね…」
となれば避けようがガードしようが、彼女に接近された時点でほぼ詰みということか……
本人には効かない自爆特攻……かなり恐ろしい戦術だ。
「全く、相変わらずの素早さだね」
「あいつは昔っから速いからな…今度会ったら一発殴っとくわ」
「許さぬぞあやつめ…アスタルテにキスしおって……普段我がどれだけしたくても我慢していると思っておる…」
魔法の仕組みについてコトハと話していると、ライゼンを追っていった三人が帰ってきた。
どうやら逃したらしい。
「アスタルテ君!? その姿は…」
「お、おいコトハ! てめぇ何してやがる!?」
「膝に…膝に座っておるだと!? なんと羨ましい…ええい、どけコトハよ!」
アスタルテの姿に気づいた三人がそれぞれ反応する。
「……これは…一番小さい…私の特権…」
「コトハ、私だって大丈夫な身長だろう? だから代わってくれないか?」
「ぐぬぬ…我だって変化魔法で幼くなれる!」
「ま、待てお前ら!!」
なんだか一波乱ありそうな展開だったが、ゼルが声を張って注目を集める。
「今日はウチの日だろうが! レーネの日はもう過ぎたし、コトハとノレスはまだだ! だから今からアスタルテはウチが独占させてもらう!」
「……むぅ…」
「くっ、確かにそうだね…」
「ぐぬぬぬぅ……」
ゼルの言葉を聞いた三人は悔しそうにしながらも、それぞれの部屋へと歩みを進み始める。
「さあアスタルテ、行くぞ!」
「へ? どこにですか?」
「風呂だ! さっさとしろ!」
なにやら慌てた様子のゼルは、顔を真っ赤にしながらアスタルテの手を引いて風呂場へと向かうのだった──────
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