レーネさんとの……
(ついに……この瞬間が訪れてしまった……)
アスタルテは自室のベッドの上でちょこんと正座していた。
何度も落ち着こうとしたが落ち着けるはずもなく、絶賛ドが付くほどの緊張中である。
「えっと、まずはリラックス出来るようにいい感じのムードに持っていって……あぁ、あとは暴走しないように意識……!」
無意識とはいえ、アスタルテは自分がすぐ暴走すると自覚していた。
暴走というよりは逃避癖と言った方が正しいだろうか。
先程のレーネとのお風呂や、今朝に山へ行った時の事などなど、恥ずかしさがキャパオーバーするとついその場から逃げてしまうのだ。
しかし、さすがに今回は逃げる訳にはいかない。
レーネさんに失礼だし、傷付けてしまう可能性だってある。
そして何より、そんなことをしてしまったら自分の決意は何だったんだって話だ。
「ふぅ……さて!!」
アスタルテは自分も頬をバシっと叩いて気合いを入れると、改めて決意を固める。
(私は彼女らを愛すると決めたんだ、どんな事だってしっかりと受け止める!! っしゃ、どんな無理難題だろうが一切動じないぞ!)
──────コンコン。
「ひゃい! どうぞ!!」
あっ、早速噛みましたね私。
(い、いやいや、今のはただびっくりしただけだから、うん)
アスタルテは心の中で自分に向かって言い訳をし、今度こそはとドアを真剣な眼差しで見つめる。
「ごめんね、待たせちゃったかな?」
「カヒュッ!?」
「アスタルテ君!?」
「いえ、なんでもないです、大丈夫です」
ドアを開けてそこから現れたのは、バスローブを1枚羽織っただけのレーネだった。
(あわわわわ……)
危ない……一瞬気を失いかけた……
ていうかなんなんですかその格好は!?
あまりにもセクシーすぎるよ!!
そんな格好されたらどこのどんな奴だって即落ち確定だよ!!
もっとも私は落ちるよりも昇りかけたけどね!? 天に!!
悶絶しているアスタルテをよそに、レーネは机の上に何かを置く。
見た感じだとお酒のボトルだろうか……?
「レーネさん、それはなんですか?」
「これかい? これは果実酒でね、店主にとても美味しいとオススメされたから少し奮発したんだ」
レーネは微笑むと、グラスにお酒を注ぐ。
(果実酒ってワイン的なやつだっけ…? ワインってちょっと苦手なんだよなぁ……)
この世界に来てからは麦酒……つまりビールしか飲んでないのだが、生前でもそうだった。
なんというか、微妙なフルーツ感とアルコールが混ざって気持ち悪いというか……飲みにくいというか……
まぁ飲み慣れてないのと、良い物を飲んだことが無いというのもあるとは思うのだが。
そうこう考えていたらいつの間にかお酒を注ぎ終えていたらしく、レーネは隣に座っていた。
「はい、どうぞ」
「あっ、ありがとうございます」
アスタルテは渡されたグラスをじっと見つめる。
色は赤黒い……香りは…うん、完全に赤ワインですね。
チラりと横を見ると、レーネはワインを飲んでいた。
月明かりに照らされたその姿は幻想的でとても絵になっている……
「ふぅ……とても美味しいよ、飲んでみて?」
「は、はい!」
思わず見惚れてしまっていたアスタルテはビクッと驚くと、その勢いのままにグラスを傾かせる。
(あれ……?)
すごく飲みやすいというか、むしろめちゃくちゃ美味しい……!!
それはアスタルテが想像していた安いワイン特有の味とは違い、芳醇な葡萄の風味がふんわりと鼻から抜け、僅かにアルコールを感じるような味だった。
正直、高級な葡萄ジュースと言われても疑わないレベルでアルコール感が感じられない。
(すごい……なんというか、鼻からふわぁっと抜ける風味がめちゃくちゃいい香りというか、めっちゃ葡萄だ)
ワインに関してほぼなんの知識もないので語彙力が無くなってしまったが、そんな私でも感動を覚えるほどの物だった。
「美味しいかい?」
「とても美味しいです!」
「気に入ってもらえて良かった、それじゃあ適度に酔いが回ってきた所だし……ね?」
レーネは2人のグラスを机の上に置くと、アスタルテをそっと押し倒す。
「ところでアスタルテ君」
「は、はい」
「君はサキュバス族のスキルを持っているのかい?」
「……はい?」
サキュバス族……?
突然どうしたのだろう……
まるで思い当たる節が無く、アスタルテの頭にハテナが浮かぶ。
「あぁ、ええっとね。 さっきお風呂場で見てしまってね?」
お風呂場……?
何かあったっけ?
お風呂……お風呂……
(あああー!! 完全にアレだ……)
状態変化のスキルを使った時の事だろう。
やっぱり見られてたのかぁぁ……
「えっと、まぁ、はい……」
サキュバス族に出会った事もないのだが、とりあえずそういう事にしておこう……
「やっぱりそうだったんだね。 ふむ、じゃあこれは必要ないか」
レーネはなにやら納得すると、カードのようなものを机の上に置いた。
「ええっと、それは一体……?」
「ん、これかい? これはスキルカードだよ」
「スキルカード……?」
何それ……完全に初耳なんですけど……
アスタルテが首をひねっていると、レーネから説明が入る。
「簡単に言うと、誰でも手軽にスキルが使えるための物って感じかな。 例えばファイアのスキルカードだったら、魔力を込めて詠唱するだけでファイアが出せるんだ」
「えぇ、そんな便利なものがあったんですね……」
「うーん、確かに便利ではあるんだけど、一回で使い切りなんだ。 しかも唱えた人の魔力によって威力が変わるし一枚一枚が中々高いからね……どうしても必要なスキルじゃない限りは私達はあまり必要ないかな……」
聞くと、どうやら主な用途はスキルを使えない一般市民が洗濯物を乾かしたり重いものを持ち上げたり、何かあったときの護身用だったりに使うものらしい。
「なるほど……えっ、それじゃあそのカードはなんなんですか?」
聞いた限りだと、今この状況で使えるようなものは無さそうな感じだったけど……
「これかい?」
レーネはカードの方をチラリと見ると、ニッコリと笑顔を浮かべる。
(なんだろう、すごく嫌な予感がする……)
「これはサキュバスが作った特別製でね、女性同士で愛し合うときや子供を作るときに使うカードなんだ」
「……ん?」
「種あり版と種無し版があってね、ちょっと種あり版は割高なんだけど思い切ってどっちも買ってみたんだ」
「な、なるほど……?」
「でもこのスキルカードはさっき言ったように一回限りなうえ結構高いからね……いやまさかアスタルテ君がそもそものスキルを持っていたなんて、とても助かるよ」
「えーっと……どういたしまして……?」
やばい、よくわからないままどんどん話が進んでいってる気がする……
アスタルテは徐々に迫ってくるレーネを見て、背中に汗が流れるのを感じた。
「それじゃあ、アスタルテ君」
いよいよレーネの顔が目の前までやってきて、アスタルテの逃げ場が無くなる。
「君は、どっちがいい?」
「ど、どっちと…いうと……?」
レーネはアスタルテの耳に顔を近づけ、妖艶に囁く。
「私の子を孕みたい? それとも、私を孕ませたい?」
「は、はら!?」
耳にかかる甘い吐息に軽く昇天させられそうになったが、慌てて顔を離す。
と、というか、なぜそこまで話が飛躍してるの!?
「え、えっと、私の覚醒状態を解除するのが目的だったような……?」
「あぁ、でもそうか……私がアスタルテ君を孕ませてしまったらゼルやコトハ達に申し訳ないな……仮に皆がアスタルテ君に注いでしまったら誰の子だか分からなくなるしね……」
「あの、レーネさん……?」
「ん? あぁごめんね、寂しくさせちゃったかな?」
「えっ、いや別にそういうことでは……むぅっ!?」
レーネの顔が再びアスタルテに迫ると、その口を塞ぐ。
最初は軽く触れるような優しいキスだったが、次第に激しさを増していきレーネの舌がアスタルテの口内へと侵入する。
緊張から固まっていたアスタルテだったが、レーネの舌使いでまるで固く結ばれた糸が解けるかのように全身から力が抜けていくのを感じた。
(うぅ……やばい……これ、すごく気持ちいいかも……)
一方的なものではなく、優しく包み込んでくれるかのようなレーネのキスはすごく心地よくて。
ずっとしたいと思えるような中毒性があった。
やがて長かったレーネによる蹂躙が終わった頃には、アスタルテは完全に出来上がってしまっていた。
酸欠気味だからか頭はふわふわするし、若干視界もぼやけている。
「れ、レーネ…さん……」
「驚いた……まさかキスだけでこれほどまで気持ち良いなんて……」
そう言うレーネもまるで逆上せているかのようにボーッとしていた。
「あぁ、まずいな……君のその表情は私の中で抑えているモノを呼び起こしてしまう……」
「え……それはつまり……?」
いまいち意味が分からなかったアスタルテが聞き返すものの、レーネから返答は無くそのままゆっくりと机の上に手を伸ばす。
やがて手に取ったソレは先程説明していたサキュバス製のスキルカードだった。
「え、レーネさん……!?」
「大丈夫だよ、これは種無し版だからね」
「いやあの! そういう問題では無くてなんというか心の準備が……ひぅ!?」
せめて一旦心の準備をさせて欲しいと言おうとしたアスタルテだったが、脇腹を人差し指でなぞられ思わず変な声が出てしまう。
(ええとこういう時は力を抜くんだっけ……ひっひっふーは…違う! これは産む時のやつだ!)
アスタルテがあたふたしている間にレーネはスキルカードをかざして準備完了していた。
「大丈夫、優しくするからね」
「せせせめて心の準備を…!」
「ほら、力を抜いて……」
レーネはアスタルテの頭を優しく撫でると、再び顔を寄せる。
「んむ……れ、レーネさん、ちょっ……ひぎぃ!?」
……我ながら、なんと色気の無い声なのだろうか。
暗い視界の中でアスタルテはそう思うと、観念して目を閉じるのだった────
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