レーネとの一日①
「さてと……そろそろ帰らなきゃ」
アスタルテは立ち上がると、家を目指して飛ぶ。
結局導き出した結論は、流れに身を任せて最善を尽くす、というなんとも曖昧なものだった。
(でも……いくら悩んでも答えなんて出てこなさそうだし、とりあえずは仕方ないかな……)
考え始めるとまた悩みの無限ループに陥ってしまいそうだったので、スピードを上げて家に向かう。
「ただいまー」
「やぁ、おかえり」
「レーネさん!?」
玄関を開けると、レーネさんが出迎えてくれた。
平常心を装うと思っても、この後の事を考えるととてもレーネさんの顔が見れない……!
「おや、服に土が結構付いてしまっているね……食事の前にお風呂に入ろうか」
「あっ、はい! そうします!」
とりあえず今は一人になって落ち着きたいアスタルテにとっては願ってもない提案だった。
(ゆっくりお風呂に入って落ち着こう……)
アスタルテは足早に脱衣所へ行って服を脱ぎ、浴場に入る。
「そういえば……女性同士ってどうやるんだろう……」
アスタルテは髪を洗いながらふと思う。
一応私にはそういう感じのスキルを持ってるっちゃ持ってるけど……
そう思いアスタルテはとあるスキルを表示する。
・状態変化 ~両性~
同性との交配を可能とさせる。再詠唱で解除。
「これってつまりどういう事なんだ……?」
種類は状態変化……つまり、大人になるスキルと同じ種類だ。
ということは相手が女性だったら男性になるということ……?
う〜ん……とりあえず試してみようかな……
ヤバそうだったらすぐ解除できるだろうし……うん、やってみよう。
アスタルテは目を閉じて深呼吸をすると、スキル名を口に出す。
「状態変化、両性!」
………あれ?
アスタルテが目を開けると、鏡には変わらずいつもの自分が写っていた。
(え、あれ? 失敗……することなんてあるの……?)
今までスキルの発動に失敗した事なんて無かったのに……?
もしかして相手が今いないからとか?
いやでも相手に向けて打つスキルってわけでも無いし……
「ま、まあ……よく分からないスキルだったって事で……とりあえず身体洗おう……」
どうなるんだろうというワクワク感が少しあったのだが仕方ない。
きっともう使わないスキルになるんだろうな……
はぁ、とアスタルテは肩を落として少しため息をつくと、視線の先に見慣れない物を見つける。
いや、正確には
「 え゛」
え、え、えっ?
これってアレだよね、男性に生えているアレですよね!?
「えええええぇ!?」
「アスタルテ君!! どうしたんだい!?」
アスタルテが叫んだのとほぼ同時くらいのタイミングでお風呂の扉が開き、何も着ていないレーネが現れる。
「れれれレーネさん!? あわわわわ」
アスタルテは慌てて再詠唱して解除しようとしたが、動揺のあまりお尻を滑らせ椅子から転がり落ちてしまう。
(いてて……や、やば! 状態変化両性!!)
勢い良くすってんころりんしたアスタルテだったが、なんとか頭の中でスキルを唱えて解除に成功する。
(み、見られた…!? いやでも手で隠したしすぐ解除したし、大丈夫だよね!?)
アスタルテは冷や汗を浮かべつつチラリとレーネの方を見ると、レーネは顎に手を当て目を細めて固まっていた。
────アスタルテが隠した手に視線を注いだままで。
「あ、あの、レーネさん、えっと、どうしてここに……?」
焦りで言葉に詰まりまくりながらもなんとか話を逸らそうとアスタルテはレーネに話しかける。
「ふぅーん? なるほどね」
「えっと……なんでしょうか……?」
やばい、冷や汗が止まらないんですけど。
身体が濡れてるのか汗なのかもう訳が分からない状態なんですけど!?
実際は数秒程度だと思うのだが、アスタルテにとって数十分かと思う程の沈黙が流れる。
するとレーネがニコリと笑うと、口を開いた。
「いやなに、背中を流してあげようと思ってね、服を脱いでいたら悲鳴が聞こえてきたから何事かと思ったよ」
まるで何事も無かったかのようにレーネが話す。
「ええとそれは……排水溝に虫がいたからそれでびっくりしちゃったというか……」
「ふむ、なるほど。 まあ、ひとまずはそういうことにしておこうかな」
レーネはフフっと笑うと、アスタルテの後ろに回る。
「れ、レーネさん!?」
「ほら、背中を流してあげるから大人しくしていて」
大人しくと言われましても……!!
冷静になって考えてみたらレーネさん裸だし!
なんなら私も裸だし!?
恥ずかしさで縮こまるアスタルテなどつゆ知らず、レーネはタオルを泡立ててアスタルテの背中にあてる。
(うぅ……それにしてもレーネさんの身体は綺麗だな……)
鏡ごしに映るレーネの身体は、まるでモデルのような体型だった。
余分な肉など一切感じられない引き締まった身体にも関わらずしっかりと女性らしさを持っており、まるで芸術作品のようだ。
それに対して私は……うん、この話はやめよう。
「アスタルテ君」
「は、はい!」
不意に話しかけられアスタルテは飛び上がる。
「あまり見られると……その、少し恥ずかしいな」
レーネはわずかに赤く染めた頬をポリポリと掻く。
「すすすすすみませんでしたぁ!!」
アスタルテは顔を真っ赤にして下を向く。
まさか見てる所を見られてたなんて……恥ずかしすぎるっ!!
「まぁでも君に見てもらえるのは嬉しいよ、少しだけ恥ずかしいけどね」
レーネはアスタルテに囁くと、持っていたタオルを前へと回す。
「あ、わっ、前は自分でやるので大丈夫です!!」
「そうかい? 遠慮しなくて大丈夫だよ?」
「いえ、本当に大丈夫なので!! というか私にも背中流させてください!」
アスタルテは慌てて立ち上がると、タオルを泡立てる。
「じゃあお願いしようかな?」
そう言うとレーネは椅子に座り、髪を肩から前へ移す。
(うわぁ……綺麗な背中……)
そこにはシミひとつない綺麗な背中があった。
というか……
うなじの破壊力がやばすぎるっ!!
洗いやすいように髪を前に垂らしてくれてるということはつまりうなじが見えているわけで……
うなじフェチというものが正直全く理解できなかったけど、実際見てわかりました。
これやばいですね、はい。
「力加減はいかがですか?」
「ん、丁度良いよ」
アスタルテは力加減を間違えないよう、慎重にタオルをあてる。
「お、終わりました……」
「ありがとう、じゃあ前も頼もうかな?」
「……はい?」
今なんて……?
前……?
え、前って……前の事……?
「ふふ、よろしくね」
そう言ったレーネはくるりとアスタルテの方を向き、アスタルテと対面する。
(さっきは鏡越しだったのが直に……! やややばいよこれ!?)
アスタルテは慌てて目を逸らすものの、今見た光景が目に焼き付いてしまって振り払えなかった。
「ほら、ちゃんと見ないと洗えないよ?」
レーネはアスタルテの身体を引き寄せると、そのまま抱きしめた。
「れれれレーネさん!?」
「あぁ、ごめんね、つい」
このままじゃ洗えないのもあるけどそれよりも直でくっつくのが色々とアウトですううう!
「うわああああぁぁ!!」
恥ずかしさに耐えきれなくなったアスタルテは湯船に向かって走るとそのまま飛び込んだのであった──────
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