考えても考えても……
「どうしてこうなった……」
アスタルテはパッカリと半分に割れた山の頂上で頭を抱えていた。
「いや、でも結果的にこの方が良かったのかな……う〜ん、でも……いやもう考えるのは辞めよう! なるようになる、うん!」
アスタルテは頭を振って勢い良く立ち上がる。
「いや駄目だ……ちゃんと考えなきゃ駄目だよね……」
そう言ってアスタルテは腰を下ろした。
────もう、何回同じことを繰り返しただろうか。
迷いを振り切ったと思えばすぐに我に返ってしまう。
(だって……心の準備的なやつがさぁ……)
アスタルテの奇怪な行動はまだまだ終わりそうに無いのであった。
1日前───────
ノレス、レーネ、ゼル、コトハの4人に告白したアスタルテは自室の特大ベッドで丸まっていた。
(ついに言ってしまった……!)
アスタルテは頬が熱くなるのを感じながら未だ高鳴り続ける胸に手を当てる。
あれからというものの、レーネさんは意識を全然取り戻さないしゼルさんは全く返って来ないし、コトハさんは石像のように固まって動かないしノレスは正気を失ってるしで大変だった。
「まったくもう……皆オーバーリアクションなんだから……」
アスタルテは幸せに笑顔を浮かべつつそう言うが、ふとある事を思い出す。
ズバリ、私が家を飛び出す前に言った事だ。
“覚醒”が未だ続く私にノレスが性欲を発散させれば良いと言い、それに対して私はじゃんけんで決めてくれと言ってしまったのだ。
私は皆を平等に愛すると心に決めた訳なのだが、このままでは誰か1人だけを余分に愛してしまい、平等とは言い難いのでは無いだろうか?
かといって皆とするのは勘弁だ。
何故かって?
私はヘタレだからだ。
ああヘタレだとも、そんなの心が持つ訳無いでしょうが!!
っていうか、そもそも恋人から肉体関係を持つようになるまでの速度おかしくない!?
いやまぁ確かにそういう話になってから恋人になったんだけどさ!
もっとこう……お出かけしてランチ食べて、手とか繋いじゃったりしてさ?
それでちょっといい所でディナーからのロマンティックな風景の見える所でキキ……キス的な……
「〜〜〜〜〜!!」
その場面を思い浮かべたアスタルテは顔を両手で覆ってベッドの上で悶える。
「というか発想が完全に乙女のソレじゃん!! あ、いや乙女なのか……」
前世の男だった時の記憶をそのまま受け継いでいるはずなのに、いつの間にか心まで乙女化してきている気がする……
いやまぁ実際性別が女性だからそれでいいんだけども。
────コンコン
その時、扉がノックされレーネが姿を現す。
「あれ、レーネさんどうしたんですか?」
アスタルテを見たレーネはニッコリと笑顔を浮かべると、ベッドに腰を下ろす。
「さっきは話すタイミングが無くてね、アスタルテ君が朝言ってたじゃんけんの結果を伝えに来たんだ」
「あっ、えっとそれについてなんですけど────」
「順番は私からになったから、よろしくね」
「…………へ?」
順番、とは……?
「順番というと……?」
「ああ、順番はね……最初は私、次にゼル、そしてコトハ、最後にノレスだよ」
ええっと?
ちょっと待って、話が噛み合ってない気がするぞ……?
「あの、つまり皆とその……するって事ですか……?」
「いやまさかアスタルテ君がそんな欲張りさんだったとはね……でも、そんな君が私は好きだよ」
「〜〜〜〜!!」
突然の言葉に顔から火が出そうになるアスタルテだったが、なんだか話が思っていたのと180度違っている事になっている事に疑問を抱く。
「あの、レーネさん達ってなんのじゃんけんをしたんですか……?」
アスタルテの言葉に、レーネは首を傾げる。
「ん? 君が言った通り、順番を決めるじゃんけんだよ?」
「えっと……私、順番を決めてなんて一言も────」
話してる途中でアスタルテはハッとなる。
そうだ……私、じゃんけんで決めて下さいって言ったけど、じゃんけんで
つまりレーネさん達は、じゃんけんで
いや待って。
私とかならそういう勘違いをするのは分かるんだけど、レーネさん達がそんな勘違いするって事あるの……?
アスタルテがチラリとレーネの方を見ると、レーネはそれにニッコリと笑顔で答える。
(なんだか、純粋な笑みじゃない気がする……)
レーネはパッと見はいつもの笑顔なのだが、よくよく見てみるとどことなく普段とは違う。
それはまるでいたずらっ子のような……小悪魔的なような……
「あの、もしかしてレーネさん全部分かっててわざとやったんじゃ────」
「決行は明日から、毎晩1人ずつだからね。 でも、その前に……」
レーネはアスタルテの言葉を遮ると、四つん這いになってアスタルテへと接近する。
「れ、レーネ……さん……?」
アスタルテは嫌な予感を感じて後ずさるも、すぐにヘッドボードに背中が当たってしまった。
レーネはアスタルテの頭の横に片手をつき、壁ドンのような体勢になる。
アスタルテの視界いっぱいに映るレーネの顔は、まさに小悪魔のような笑みだった。
「少しだけ……味見してもいいよね……?」
レーネがアスタルテの耳に向かって囁くと、舌でぺろりと舐める。
「ひゃぁっ!?」
思わず声を出してしまったアスタルテは慌てて自分の口を両手で塞ぐ。
(ななな、なんて声出してんの私!?)
反射的とはいえ、自分から発せられた女らしさにアスタルテの顔が真っ赤になる。
そんなアスタルテを見たレーネは一瞬驚いた表情を浮かべた後、アスタルテの腰に手を回して持ち上げ、自分の下に来るよう寝かせた。
「アスタルテ君……君はなんて愛らしいのだろうか……君のその表情その声、もっと私に見せてほしいな」
レーネから垂れた髪がアスタルテの頬を撫でる。
(やばい……これはやばい……!!)
アスタルテはゴクリと生唾を飲む。
僅かに理性が残っているものの、正直限界だ。
身体がピクリとも動かない。
本能がレーネさんの事を受け入れたいと、このまま先へ進みたいと訴えている。
鼓動の高鳴りは収まらず、まるで酔っ払っているかのように頭がふわふわし、体温が上昇する。
そして何よりも……へそ下辺りがまるで締め付けられているかのように────むず痒いのだ。
「れ……レーネさん……」
「っ!!」
アスタルテの言葉にレーネは再び驚きの表情を浮かべると、アスタルテに覆いかぶさる形で抱きしめる。
胸と胸が重なり、レーネの高鳴る鼓動がアスタルテの身体に響く。
アスタルテにかかるレーネの体重がなんとも心地良かった。
「あはは、参ったな……ほんのいたずらのつもりだったんだけど、このままじゃ私の理性が持ちそうにないよ」
レーネはシーツに顔を埋めているらしく、くぐもった声がアスタルテの耳に入る。
「レーネさん……私は…いいですよ……?」
「っ!?」
アスタルテの言葉にレーネがガバっと顔を上げると、慌ててベッドから降りた。
「えっ、レーネさん?」
「だだだ駄目だ! それ以上は本当に止まらなくなってしまう! 約束は約束だから、続きは明日…ね? おやすみ!!」
レーネはしどろもどろになりながら早口でそう言うと、そそくさと部屋から出ていってしまった。
「……へっ? いや、えっ?」
あそこまでその気にさせておいて……?
私も覚悟決めたのに……?
まさかのお預け……?
そ、そんなのって……
「あんまりですよおおおお!!!!」
アスタルテの咆哮が響き渡ったのであった────
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「……一睡もできなかった」
あれから寝ようと思ったアスタルテだったが、頭は次から次へと色々な妄想を生み出すし身体は火照ったままだしで当然寝れなかった。
アスタルテ自身数週間程度なら寝なくても全くなんともないのだが、寝ようと思って寝れないのは想像以上に疲れる事を知った。
「朝ごはんどうしようかな……」
アスタルテは腕を組んで悩む。
正直、皆の顔が見れない気がするのだ……。
だって今日からあんな事やこんな事をするんだよ!?
それで平然とできるわけないよ!!
(よし、何も考えずに身体を動かそう……)
外で走り回るなり素振りをしまくるなりをすれば落ち着くはず……きっと……
(ええと……少し出掛けます、夕方には戻りますっと……)
アスタルテは書置きを残すと、窓を開けて外へ飛び立つ。
「それにしてもこの翼便利だな〜」
どういう仕組みなのかは不明だが、覚醒して翼が生えてから空を飛べるようになった。
しかもパタパタと羽ばたくことなく、まるで宙を滑っているのかのようにスイーっと飛べるのだ。
不思議なのは、飛び方を知らないはずなのに無意識に進みたい方向へと行ける事。
それは例えば、自分が走る時に右足上げてその後すぐに左足で! のように意識して身体を動かす必要が無いのと同じだ。
まるで生まれ持っていたかのように。
借り物では無く完全に自分の身体の1部と化している。
「う〜ん……覚醒が解除されたら飛べなくなっちゃうよね……」
解除されたら翼は消えてしまうだろうし、羽も小さいのに戻るだろうし。
そもそも大人バージョンで羽が大きくなった時も飛べた訳じゃないので、飛べるのは翼の効果なのだろう。
(えっ……? じゃあもしかしてこの羽ってただの飾りみたいなもんなの……?)
い、いやいや……身体に不要なパーツなんて存在しないはずだ。
え、存在……しないよね……?
不安がよぎるアスタルテであったが、そうこう考えているうちに目的地へと到着した。
アスタルテが目指していたのはグレイスから20キロ程離れた山岳地帯だ。
ここなら多少暴れても大丈夫だろうし、やはり山頂の澄んだ空気は気持ちを整理するのにもってこいなのである。
「よし、ますは全力ダッシュだ! うおおおおお!!」
アスタルテは叫びと共に全力で地面を蹴り、轟音を背負って走り出す。
(ん……? 轟音……?)
アスタルテがチラリと後ろを振り返る。
「え、抉れてるううう!?」
アスタルテの脚力に地面が耐えられず、1歩地面を蹴る度にまるで大砲が直撃したかのように土が爆裂していた。
慌てて走るのを辞めるものの、走ってきた道は既に爆心地と化している。
「これ……環境破壊ってやつなのでは……?」
アスタルテは頭を抱えると、復興作業に移行するのであった────
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「やっと終わった……」
アスタルテは安堵のため息を吐くと、山を背中に腰を下ろす。
(まぁ、直したといってもとりあえず土をかき集めて穴を埋めただけなんだけど……)
でも、直してる間は作業に夢中で忘れられたな……
「ってそうじゃん! 帰ったらレーネさんと……あばばばば!!」
途端に現実に引き戻されたアスタルテは、頭の中に次から次へと浮かび上がるピンク色のアレコレを振り払おうと腕を振り回す。
───────ズドンッッッ。
「うわあぁぁ心頭滅却雑念よ消えろおぉぉ!! えっ、何今の音」
アスタルテが右後ろを向くと、そこには山に突き刺さった自分の右腕があった。
恐らく腕を振り回した時に当たったのだろう。
(うわ……ガッツリ埋まっちゃってるんだけど……)
アスタルテは右腕を力任せに引き抜く。
すると、引き抜いた穴から亀裂が徐々に広がっていき……
──────山が半分に裂けた。
「いや、そうはならないでしょうが!?」
…………この後必死に山を押してくっつけようとしたが、元に戻らなかったのは言うまでもない。
「はぁ……とりあえず現実を見よう。 誰か1人じゃなく、皆とするというのは……公平だし、結果的に良かったのかな…? いやでも…う〜ん……」
アスタルテは1人ブツブツと呟きながら、割れた山の山頂へと歩みを進めるのだった────────
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