閑話 覚醒状態を解除せよ!
どうしてこうなってしまうのか
「はぁ……」
魔族との戦いも終わり平和が訪れた中、アスタルテは自室のベッドに座ってため息をついていた。
アスタルテは背中に手を伸ばすと、ある物の存在を確認しまた項垂れる。
そう、
覚醒をしてからもう2日は経過しているというのに、未だに効果が持続している。
「こんな翼が生えてたら気軽に外に出れないし、ベッドは羽根だらけになるし……」
これ一生治らなかったらどうしよう……。
「何を沈んでおるんじゃ?」
「あ、ノレス……」
ノックもせず入ってきたノレスがアスタルテの横に座る。
「この覚醒っていつ切れるんだろうなって……もしかして一生このままだったりするのかな……」
「ふむ」
ノレスは顎に手を添えると、何やら考えている仕草をする。
「まぁ、解決法はあるっちゃあるのう」
「えっ、ノレスそれ本当!?」
下を向いていたアスタルテは勢いよく顔を上げ、ノレスを見る。
「うむ。持続系の強化スキルというものは基本、体力の低下や魔力の発散によって切れるからのう」
「う~ん……といっても今の魔法は威力が強すぎて使えないし、体力の低下っていっても……」
野山を全速力で走り続けるとか……?
「そこでじゃ、我に提案がある」
ノレスは妖艶に微笑むと、アスタルテを見つめる。
(なんだか、非常に嫌な予感がするんですが……)
「我とまぐわれば良いのじゃ!」
「なんかそんな事だろうなって思ったよ!?」
「我に任せるが良い、体力も魔力も空になるほど激しくしてやろう」
「いやそれ力尽きてんじゃん!」
もはやアスタルテの言葉が聞こえていないのか、ノレスはジリジリとアスタルテに迫ってくる。
「おっと、そこまでだよ」
「ててて、てめー!不純だぞオラァ!」
「……勝手な事…だめ…」
その時、レーネ、ゼル、コトハの3人が扉を開けて部屋に入ってくる。
「皆さん……!!」
あぁ、助かった……!
あのままだったらノレスを殴り飛ばすところだった……。
「話はこっそり聞かせてもらったよ、ノレス。抜け駆けするなんてひどいじゃないか」
ん……?抜け駆けとは?
「そうだてめーこの野郎!! う、ウチだって……アスタルテと……」
あれ、ゼルさん……?
あ、あれだよね、手合わせしたいってことだよね、そうだよね!?
「……アスタルテは…貴方だけの物……じゃない…独り占め……許さない…」
いや、私は私の物なんですけど!?
一体いつから皆の物になったんですか……?
っていうか物って!酷くない!?
「チッ、邪魔しおってからに……良いだろう、ならばアスタルテに選んでもらうというのはどうじゃ? 無論、我に決まっておるがのう」
「……はぁ!?」
いやいや、なんでする事前提で話を進めてるの!?
私するだなんて一言も言ってないよね!?
ていうかそもそも私の意思は!?
「アスタルテよ、当然我じゃろう? 我はそっちの魔法も複数所持しておる。この世の全ての快楽をお主に味あわせてやろう。もう我しか見えなくなるまでな……」
ノレスが熱のこもった眼差しでアスタルテを見つめる。
いやいや、廃人にさせる気か!?
「ふっ、そんなのそこらの獣と変わらないじゃないか。 アスタルテ君、私だよね? 大丈夫、私も初めてだけど知識はあるさ。後悔なんかさせないよ、君を絶対幸せにすると誓おう」
レーネさんがキリッとした眼でアスタルテを見つめる。
うわぁレーネさんめちゃイケメン……じゃないよ!?
そもそもするとなんて言ってないし!?
「ま、待てアスタルテ! ううう、ウチを選べ!! が、頑張るから!!」
ゼルさんが顔を真っ赤にして叫ぶ。
ゼルさんは是非そのピュアな心のままでいてほしいです……はい。
「……アスタルテ……私が一番…知識豊富……がっつくの…良くない……丸一日かけて…ゆっくり…じっくり……スローペースで…高みへ…一緒に行こ……」
コトハさんが唇に人差し指を当て、僅かに口角を上げて囁く。
もしかしたらコトハさんが一番危険なのかもしれない……。
丸一日って……それこそ廃人になっちゃうよ!?
それぞれとのにゃんにゃんを頭の中で想像してしまい、アスタルテの頭から煙が吹き上がる。
(そもそも誰か一人を選ぶなんてできないし! というかしないし!? あああもう!)
「じゃ……」
「うん? なんだいアスタルテ君、もう一回───」
「じゃんけんで決めてくださいー!!」
アスタルテは叫ぶと、とてつもない速度で部屋を飛び出した。
「うワっ! アブねぇナ、廊下は走ルンじゃねぇ!!」
……途中でカヨにすれ違った気がしたが、アスタルテはそれどころではなかった。
「ふむ、なるほどじゃんけんね……」
「あやつ、中々大胆よのう……」
「ううう……アスタルテのやつ不埒だぜ!」
「……じゃんけんなら…一番平和的…」
その頃アスタルテの部屋では、4人が顔を見合わせていた。
アスタルテが言ったじゃんけんの意図が間違って伝わっていた事に気付くはずもなく…………
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