クロの謎、アスタルテの正体




「────クエン様によって、私達は一つになった」




クロの言葉を聞いたアスタルテは頭上にハテナを浮かべる。




「ええっと……?」




どういうことだろう……

いわゆるあれかな、事故で妹が亡くなってしまってその人格が現れた的なやつかな…?

確かそんな感じの漫画を読んだことある気がする。




アスタルテが唸っていると、クロが言葉を繋げる。




「私は元々護身術が、妹は暗殺術に長けていた。それをクエン様が見て、二人が合わされば最強になるんじゃないかと言ったんだ」

「あやつは……つくづくアホじゃな」




クロの言葉にノレスがため息をつく。




「そんなもん、最強の盾と矛を合わせれば良いみたいなガキの発想じゃ」




(まぁ、ノレスの言いたいことは分かるけど……)




クエンって一応魔王を名乗ってたんだよね……

私と戦ってたときも話全く通じなかったし、なんでトップに立てたんだろう……





「えっと……それで、一つになったっていうのは…?」




重要なのは一つになるとはどういうことなのかだ。

アスタルテはクロに問う。




「詳しい事は分からない。ただ、一つのカプセルに私達二人を入れて溶かす」

「と、溶かす…?」




今さらっとすごいこと言わなかった?




「そう。そして溶けた二人の細胞を抽出し、組み合わせてクエン様が作った身体に注ぎ、新しい私達が生まれた」

「身体って作れるものなの…?というかそれって実現できるものなの…?」

「まぁ、クエンは元々人体錬成やらなにやらやっとったからのう……我も良くは知らんが、こやつらがそうと言ってるのならそうなんじゃろう」




なるほど……確かにそうだったら二重人格ではないのか……

というか人造人間ってどこまで人間なんだろう…?




「人造人間って普通の人と何が違うの?」




ふとアスタルテは疑問に思い、クロに質問する。

人造人間っていうと、ツギハギだらけのいわゆるフランケンシュタイン的な物を思い浮かべるんだが、見たところツギハギもないし見た目も普通の人とかわらない気がする。





「大きな違いは無い、機能は人間とほぼ一緒。ただ、2つの人格の細胞があるから切り替えると声や瞳の色が変わる」




あぁ……、確かに変わってたね……知らないと急に変わるからびっくりするんだよね……




アスタルテは戦闘の時を思い出す。





「後は回復力かな、腕とかも数時間あればくっつく」




そういってクロは肩をくるくると回す。




「なるほど……とりあえずそっちの謎は解けたんだけど……」




もう一つ気になることがある。

ズバリ、同居についてだ。




「行く宛が無いっていうのは…?」




カヨが魔王城に帰るというのであれば、そこで一緒に住めたりしないのだろうか?




「私達はクエン様によって作られた、よってクエン様の住む場所が私の住む場所。でもクエン様はもういない、それに……」

「それに?」

「クエン様の下僕である私達は、そのクエン様を倒した者に付いていくべきだと思う」

「…………」




やばい、この子なんとなくだけど、話があまり通じない気がする……

なんというか、この世界には自分の道を行くというか……その生き方しか知らないという人が多いのだ。

我が強いというかなんというか。




この世界は当然、アスタルテが詩憐だったときのように子供の頃は学校へ行き義務教育を学ぶということはない。

つまり、アスタルテの思う常識的な考えというものはこの世界では常識的ではなく、人がそれぞれ歩んできた過程がその人それぞれの基盤となる考え方なのだ。





とまぁ、私はそう思っているわけだが聞いてみて損なはないだろうから一応聞いてみよう。




「えっと……まず、クエンを倒したのはノレスだから付いていくのはノレスじゃないかな……?」

「いや、我はこれ以上配下を必要としておらん」




そうでした、貴方も我が道を行くタイプでしたね……




「えっと、じゃあ人造人間になる前のご両親とかは…?」

「私達は生まれた時から孤児だった。両親は知らない」

「そ、そう……でも、今は自由になったわけだし好きに生きて良いんだよ?」

「好きに生きる、ということが分からない。お金も家も無いし、自由というのは私達の手に余る」





うん、やっぱりね、こうなるとは思ったよ……





「分かった、じゃあレーネさん達が帰ってきたら聞いてみるよ……」




アスタルテは小さくため息をつくと、クロの方を見る。




「でも、もしもここの住人や町の人達に危害を加えるようなことをしたら……許さないからね?」

「分かった」

「………」





本当に大丈夫なのかな……

でもまぁ敵意は一切感じないし……

ただあまりにも淡白というか、声に感情がなさすぎるんだよなぁ……




「それよりもじゃ」




話が一段落ついたのを見てノレスが話し始める。




「なぜカヨ、貴様生きておる?」

「溝に落ちていくのが見えたから私が拾った」




ノレスの質問にクロが反応する。




「なるほど、ではあの実の副作用はどうなったんじゃ?」

「解毒剤を飲ませた」




再びクロが答える。




「ほう、なるほどな。 で、死に際にあんな台詞残しといて平然と現れたわけか」

「ウ、うるセぇ!私ダって死ヌつもリだったンダよ!!」

「姉さんん!!もう二度とぉ、死んじゃ駄目だからねぇ!?」

「だアァおいカヤお前イい加減離レろ!あと私ハ死んデねぇ!!」




そのやり取りを見つめていたアスタルテは、この後のことを考えていた。




まずレーネさんは困るだろうし、ゼルさんは斬りかかるだろうし、コトハさんは静かに本を構えそうだし……

どうしよう、胃がキリキリしてきた……





「ところでアスタルテよ」

「ん?」




ノレスがアスタルテの方、もとい少し後ろを見る。




「その姿はいつまで続くんじゃ?それとも、それがもう基本なのか?」

「え?…………あっ」




そうだった……今の私、覚醒中なんだった……。




覚醒してから数時間経ったはずなのに、アスタルテの姿は覚醒したときのままだ。

というか、スキルを見ても未だ覚醒中なのだ。




時限強化スキルのはずだからそんなに長くは続かないと思っていたんだけど……

そっか、このこともレーネさんに説明しなきゃいけないんだった……




もう、ベッドで何も考えずぐっすり寝たい……




先が思いやられるアスタルテであった─────
















▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲















「で、これはどういうことなんだ?」




明らかに不機嫌なゼルさんがカヤとクロを睨みつけながら椅子に座る。




まぁ、説明するまでもなくゼルさんはカヨに殴りかかった。

大剣が折れて使えなくなったため、全力の右ストレートがカヨに襲いかかるのをなんとか止めたのだが、当然納得していない。





ひとまず事の成り行きを三人に説明したのだが、レーネさんは沈黙しているしコトハさんは頬を膨らませている。




(この雰囲気で私の覚醒の事とか実は魔人じゃなくて魔神だったとか話さなくちゃいけないってマジ…?)




なんでほぼ毎回のようにこんな話し合いになってしまうのか……

チリアを拾った時もそうだし、カヤが来たときもそうだし……




あれ……?もしかして大半が私のせいだったりする…?





「アスタルテ君」

「は、はい!」




アスタルテがうんうん唸っていると、レーネさんが口を開く。




「クロ、だったかな?その事は分かった。君が大丈夫だと言うなら納得しよう」

「おいレーネ!こいつはついさっきまで敵だったやつなんだぞ!?そんなやつを───」

「ゼル、黙って」

「は? ………お、おう」





あっ、やばい、レーネさん、目が据わってる。

レーネさんの迫力に押されて沈黙するゼルさん初めてみた……





「まず、アスタルテ君。君の覚醒というスキルについて説明してもらってもいいかな?」

「は、はい……」

「勿論、言いにくいことがあったら無理にとは言わないよ?でも、君が実際に危険な目に合った以上私達も知っておきたいんだ」




レーネがニコリと笑ってアスタルテに問いかける。




レーネさん、目が笑って無いっす……

とてもじゃないけど、言えませんなんて言える雰囲気じゃないっす……




でも私自身、覚醒については言ってなかっただけで隠そうと思ってたわけではないし、素直に説明しよう……





アスタルテは皆に覚醒というスキルを最初から持っていたこと、そしてその発動条件並びに、覚醒自体は初めて使ったので今も持続している理由がわからない等を詳しく説明した。





「なるほど、強力な時限強化スキルだけど代わりに発動条件が厳しいものということか……」

「まぁ、確かにアスタルテが死にかけるなんて事今まで無かったからなぁ……」

「……その姿も…とても良い…」




ふむ、と納得する3人を見てアスタルテはホッとした。




(良かった、普通に場が収まりそうだ……)





しかし次のレーネの発言に、アスタルテの背筋が凍ることになる。




「さて、それじゃあ次はその翼についてなんだけど……」

「あ゛」




そうだった何ホッとしてんだ私!!これについても説明するって言ったんだった!!




アスタルテは背中から一気に汗が出るのを感じた。




(どどどどうしよう……これに関してはガッツリ嘘付いてたんだった……)





「これが終わったら全部話す、そう言ってくれたよね?」




レーネの言葉に、アスタルテの心臓がズキンと跳ねる。




「え、えっと……」




駄目だ、レーネさんの顔が見れない……

意識しても目は勝手に泳ぐし、なんだか座ってるのに宙に浮いてるかのように身体の感覚はおかしいし、口の中は乾いてきたし、自然と手が震える……




時間が巻き戻せたら出会ったときに素直に言うのに!!

いやでもそんな事できないし、どうしようなにか言わないと……!




アスタルテを真っ直ぐに見つめるレーネの瞳が余計焦りを加速させる。




「えっと……」

「うん」

「あのぉ……」

「うん」




言え!言うんだ私!

白状するんだ、実は種族を隠してましたって!

後になればなるほど言い出しにくいって分かってるのに、なんで言葉が出てこないの!?




そうだ、開き直ろう!

開き直れば言い出しやすくなるはず!

魔神だなんて大事になるだろうし会ったばかりの人に言えるわけないじゃん!

そう!だから言わなかっただけ!




よし、ズバッと言うんだ私!!





「じ、実はですね……」

「うん」





レーネさん私の発言に毎回ちゃんと相槌打つのやめて!?

めちゃくちゃ言い出しにくいから!!




ああもうまた言葉が途切れちゃったよええと、ええっと……





「実は私!人じゃなくて神の方の魔神でした!悪魔と神のハーフなんですっ!!」

「ふむ」

「言ったら大事になっちゃうかなと思って隠してました!段々言いにくくなっちゃってそのまま言えず今日まで来た感じであります!」




言った、言ったぞ……

最後なんか語尾が変な感じになったけど、言ってやったぞ……





「なるほど、納得したよ」

「それであんなにメキメキ強くなってたんだな」

「…………」





あれ……?

案外すんなりしてるというか……





「私達と出会ったときはCランクだったのに、気付けば越されていたからね。只者ではないと思っていたよ」

「だな、普通の魔人じゃありえねぇと思ったぜ」

「…………」





コトハさんだけ何故か黙っているのが気になるけど、納得してもらえたなら良かった……

てっきり隠してたことを責められると思っていたから……




はぁ、とアスタルテは息を吐くと、椅子の背もたれに寄り掛かる。

良かった…皆が物分りのいい人達で……




「……もしかして…」

「?」




その時、ようやくコトハが口を開いた。

その目は半信半疑といったような複雑な感情が含まれているように思える。





「……デートの時…強い力…授かって…転生したって言ってたの……そういう事…なの?」




本日二度目の心臓ぴょんぴょん来ました、私ショック死するんじゃないの?





「転生…?それは本当なのかい?」

「か、神との間に生まれたので……えっと、普通の生誕じゃない的な…えっと、そんな感じというか…」




アスタルテはしどろもどろに言葉を繕う。




「なるほど、確かに神は幾度もの転生を繰り返すと言うし、神との間に生まれたことを転生という表現はあながち間違ってはいないかもね」

「う~ん、ウチはそういうの良く分からねぇけど、アスタルテがそういうんならそういうことか」

「……なるほど…」





嗚呼……せっかく嘘が解かれたのにまた嘘をついてしまった……






「さぁ、話はこれで終わり。これから先のことは後日また話すとして、戦いも終わったことだし今日は豪勢に行こうか」

「っしゃ、今日は飲むぜぇ!!」

「……勝利の祝杯…」

「私ハどっチカと言うト敗北なんダケどナ」





そうだ、戦いは終わったわけだし今日はいっぱい食べていっぱい寝よう!





「では私っ、食材とか一杯買ってきますっ!」

「チリアも行くにゃ!」

「住まわせてもらう以上、やれる事はする。私は護衛と荷物運搬する」




クロの発言にアスタルテは驚く。

この感じだと結構すぐ馴染めそうだ。




「じゃあ私も一緒に買い出しに行こうかな!」











▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲












「やはり転生者じゃったか……ククク、そうかそうか」


人知れず外に出たノレスは闇夜で静かに笑うと、そのまま闇に溶けていくのだった────






第3章 =魔族戦争勃発= ~完~



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