戦いの終わり
「さて……これからどうなるのかな……」
アスタルテは辺りを見回す。
当然ここは戦場の跡地だが、それまでは町に繋がる道であった。
だが、整備された道は勿論、自然が広がっていた草原は跡形もなく消え、地面には大きな亀裂が入り、生えていた木々は倒れてしまっていた。
(きっと皆が戦った首都も被害が及んでいるはず…)
恐らくここが一番の激戦だったとはいえ、エルフ族の首都や魔人族の首都も戦いの跡が残っているはずだ。
「しばらくは復興の手伝いをして……ゆっくり過ごそうかな…?」
ここ最近は戦争の準備だったり変異種との戦いだったりでドタバタだったからなぁ……
貯蓄は十二分にあるし、まったりしても怒られないだろう。
「アスタルテくーん!!」
アスタルテが今後について考えていると、後ろの方からレーネ達が走ってくる。
「レーネさん!」
「良かった……本当に良かった…!」
レーネはアスタルテの安否を確認すると、ホッと胸を撫で下ろす。
「……レーネ…速い…疲れた……もう無理…」
「ま…まったく……SSランクである私を…走らせるなんて…」
レーネに遅れてコトハと、ゼルを背負ったマギルカが姿を現す。
「コトハさんにマギルカさん!」
アスタルテは二人の姿を見つけると、レーネ含む三人に向かって頭を下げる。
「回復の件、本当に助かりました!あと……無茶を言ってしまってすみません……」
3人が回復をしてくれなかったら……私はきっとあのまま死んでいただろう。
そして回復を中断させる事を拒否されてしまっていたら覚醒もできなかった……
(皆には感謝してもしきれないな……)
「……私は…アスタルテを…信じてた…から…」
「治療を止めた時はどうなるかと思ったけど、無事で本当に良かったよ」
「おかげで魔力も体力もカツカツですわ!……って、あら?なんだか活力が湧いてくるような…?」
マギルカの疑問に、他の二人も自分の身体を見る。
「確かに。なんだか回復魔法を浴びているかのようだ……しかも、魔力もみなぎってくる……」
「……すごい…心地良い…気分…」
(もしかして……神の光…?)
でも、これって触れてないと効果が無かったはずじゃ……
アスタルテはハッと気付くと、ノレスの方を振り返る。
「いや、別に我は触れてないと効果が出ないなんて言っとらんぞ?」
「そうだけども!気付いた時に指摘してくれない!?」
「そうしたらお主、我の事地面に降ろすじゃろう!?」
「そりゃあ降ろすよ!」
ん…?というか……
体力だけじゃなくて魔力も回復するって言ったよね……?
「ノレスばりばり魔力回復してたって事じゃん!」
「いや、別に我は魔力が無いなんて言って───」
「それは言ってましたけど!?」
「おっと、そうじゃったかのう」
ギリギリの状態の割に胸まさぐってきたりとやけに余裕あったなと思ったよ!
アスタルテが頭を抱えていると、2つの足音が聞こえてくる。
「まさかクエン様があんなモノを用意していたなんてね」
「っ!?」
その足音の正体は、何故か両腕が動いているクロと地面の亀裂に飛び込んだはずのカヨだった。
慌ててアスタルテはガントレットを構える。
「待ってくれ、私に敵意は無い」
クロは両手を上げてアピールする。
(確か周囲の敵対する者にはダメージが入る魔のオーラが発動しているはず……)
ということは、本当に敵意が無いということだ。
「ほう…?残念じゃが我らは既に回復しておる。弱った所を叩こうと思ってもそうはいかんぞ?」
やっぱノレス回復してんじゃん!!
ってそうじゃなくて!
「ノレス、多分大丈夫。本当に敵意は無いみたい……」
「だとしても、何故我々の前に現れた?」
ノレスが二人を睨むと、クロが口を開く。
「実は私達、行くアテが無くてね──」
「ねえええさあああああん!!!」
「グえェ!?」
クロが話し始めたその時、どこからともなく現れたカヤがカヨにタックル……もとい、抱きついた。
「……落ち着いたら話そうか」
「あっ、はい」
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「ええっと……」
ひとまずアスタルテ達は家に帰ってきた。
レーネさん、ゼルさん、コトハさんの3人とマギルカさんは報告があるらしく出掛けてしまったので、今家にいるのは私とノレス、チリアとレニー、そしてクロ、カヤ、カヨだ。
そして状況はというと……
私の隣にノレスが座っていてテーブルを挟んだ向こうにクロ、その隣にカヨと未だにくっついているカヤがいる。
チリアはただならぬ雰囲気にびっくりして引っ込んでしまったので、代わりにレニーがお茶を運んでいた……
「色々と聞きたいことはあるんだけど……まずそちらからどうぞ…?」
アスタルテがクロに話を促すと、クロは口を開く。
「私達、行くアテがないんだ。だから私達を引き取ってはもらえないだろうか」
「えっ?」
クロの言葉に困惑したアスタルテは一瞬思考が停止する。
「勿論ただでとは言わない。私達にできることだったら何でもする」
「黙って聞いていれば……一体貴様は何様のつもりじゃ?」
クロの言葉を聞いたノレスがドスの利いた声でクロに問いかける。
「ついさっきまで敵だった貴様が、行くアテがないから引き取れじゃと?なら我が冥土に送ってやるわ!!」
「ちょ、ノレスストップ!」
座ってた椅子を吹き飛ばして立ち上がったノレスをアスタルテが抑える。
「そもそも貴様は誰じゃ!我が魔王城にいた時はいなかったじゃろう!?」
「え、そうなの?」
てっきり配下の幹部だと思ってたんですけど……
「私は人造人間。クエン様によって作られた」
「ふん、知ったことか」
「えぇ……」
ノレス、自分で聞いといてそれは無いんじゃない……?
一瞬引いてしまったアスタルテだったが、本題に頭を切り替える。
「う~ん……そもそもこの家は私だけの物じゃないし、カヤさんのお姉さんが住むとなるとカヤさんも住むことになるのかな…?それだと部屋を3つ用意しないとだし……」
部屋自体はかなり余っているのだが、普段使ってない部屋をいつも掃除しているわけではないので片付ける必要がある。
一応来客用に綺麗にしてる部屋はあるものの、1人用の部屋が一つだけだ。
「いや、カヨは魔王城に帰る予定」
「え?」
「あタリめェだろ、こッチの世界は住みニくクて仕方ねェ、私は魔界ガ一番だ」
「でもさっき私達って……?」
「ああ、言ってなかった。ほら、出てきて」
クロが誰かに向かって言うと、瞳の色がルビーのような赤からエメラルドのような緑に変わる。
────その瞬間。
「ひぃぃぃぃぃ!!」
なにやら情けない声と共にクロは椅子から転がり落ち、壁にぶつかるまで後ずさる。
「えっと……」
「うわああ!!来るな来るなぁ!!」
様子を伺おうとしてアスタルテが近づこうとすると、全力で拒否されてしまった。
うん、すごくショック。
ちょっと泣きそう。
するとクロは何事もなかったかのようにスクっと立ち上がり、席に戻る。
目は赤色に戻っていた。
「すまない、妹は少しトラウマになってしまってるみたい。後日ちゃんと挨拶させる」
「むしろ私がトラウマになりそうなんだけど……」
私なんかしたっけ!?
そんな怯えられるほど怖いことしてなくない!?
「って、え?妹……?」
アスタルテはクロと戦ったときの会話を思い出す。
確か二重人格かどうか聞いた時は違うって言われたよね……
瞳の色が変わるのは謎だけど、1つの身体に2つ人格があるなら二重人格じゃないのかな……
アスタルテが唸っていると、クロが話し始める。
「私達の事、話す。私達は普通の魔族の双子として生まれた。その時は私は私。妹は妹だった」
(私は私……?)
アスタルテは若干引っかかりを覚えつつも、次の言葉を待つ。
「────クエン様によって、私達は一つになった」
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