強大すぎる力
「さて……」
アスタルテは拳をギュッと握りしめると、キャノン砲の前へと移動する。
そこはズバリ、先程アスタルテが爆発に飲まれた所だ。
(本当はキャノン砲を破壊できれば良いんだけど……)
しかし、キャノン砲には今大量の魔力が詰め込まれている。
下手に本体を攻撃してそれらの魔力が暴発でもしたら、着弾したのと変わらない被害になるだろう。
ならば、一度砲撃を防いでから本体を破壊する方が良い。
「よし、とりあえず神の獄炎ってスキルを使おう」
なんとなく神の光というのは回復系っぽいし、滅尽の裁きってのも死へいざなうって事は多分即死系だろう。
無への扉に関してはどういうものか全く分からない……
無っていう次元に繋がったドアを召喚する的な…?
「ところでアスタルテよ」
「む?」
アスタルテがスキルについて考えていると、横にいたノレスがまじまじとアスタルテを見ていた。
「お主、何故傷一つ無いんじゃ?あとその白い翼はどこから生えてきておる?」
「え、今更!?」
いやさっき思いっきり抱きしめて来て普通に話したよね!?
いやでもまぁあの時のノレスは冷静じゃなかったからあまり気にしてなかったとかなのかな…?
「ええっと……ノレスが使った覚醒っていうスキルを私も持ってて、それを使ったらこうなった感じ……?」
それを聞いたノレスの眉がピクリと動く。
「お主、今覚醒と言ったか……?なるほどやはりお主は……」
「ノレス?」
説明を聞くやいなやノレスは一人でブツブツと何かを語りだしてしまった。
────ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
そんなことをしている内に、キャノン砲に光が集まり始める。
「来るよ!ノレス、援護お願い!」
「いや、我もう魔力全然残っとらんぞ」
「……えっ?」
「序盤で魔力一気に使った上に回復した分をクエンとの戦いで使ったからのう……正直全然残っとらん」
「えぇ!?」
(いやいや、世界の命運がかかってるこの局面でそんな事言ってる場合じゃ……)
その時、アスタルテは先ほどレーネが言っていた言葉を思い出す。
そうだ……確か魔力を消費しすぎた場合、体力を魔力に変換して……
「ノレスもしかして……!」
「ふむ、一息ついたら急激に眠くなってきたのう……」
「待って!?それ寝たらダメなやつだから!もう目を覚まさないやつだから!!」
アスタルテはふらふらし始めたノレスを抱きかかえると、地面に下ろす。
「アスタルテ……お主は暖かいのう…」
暖かい……?
それを聞いたアスタルテはハッとなり、とあるスキルを思い出す。
────神のオーラ。
効果は周囲の友好な者を回復させる。
きっとこのスキルが常時発動してるからだ……
ということは恐らくノレスは今回復しているはず……
回復量がどれくらいかは分からないけど、“神”なんて大層な名前が付いているんだ、きっととてつもない回復量に違いない。
ただ問題があるとすれば────
「これって触れてないと効果発揮しないの!?」
えっ?神の効果微妙じゃない?
(いや、でも……仕方ない……こうなったら…!)
アスタルテはノレスを背中に背負って空中に戻る。
「ノレス!落っこちたら拾うけどなるべく落ちないように掴まってて!」
アスタルテはノレスに向かって叫ぶと、キャノン砲の方を見て集中する。
────むにっ。
「むに…?背中に何か柔らかいものが当たって……。っ!!」
それは他でもないノレスの胸である。
アスタルテはノレスを背負っているわけだが、両手で足を抱えてるわけではなく、ただノレスの腕をマントを羽織るかのように肩に引っ掛けているのだ。
それは当然、手を塞ぐと魔法が撃てないし、ノレスから離れると回復が機能しなくなってしまうからだ。
よって、ノレスの全体重がアスタルテの肩と背中に乗ってるわけで。
当然、アスタルテ達の中で一番の大きさを持つノレスの胸も押し付ける形になってしまうわけで……。
(こんな重大な時に何を馬鹿なことを考えてるんだ私は…!!心頭滅却、精神統一、明鏡止水ぃ!!)
アスタルテが邪念を取り払おうとしていると、何やら下の方でごそごそと音が聞こえる。
(ん……?なんだ……?)
アスタルテが下を見ると、ノレスと打って変わってほぼ平野の胸をノレスの手がまさぐっていた。
「ふむ、二ヶ月前と比べて少し増しておるな……」
「何やってんの!?元気そうならはたき落とすけど!?」
えっ?というか……。
「増してるって言ったよね!?いつの間に測った!?というか触って何故分かる!?そしていい加減その手を退けろおぉ!!」
「アスタルテよ、怪我人に対して冷たいではないか……」
「人の胸揉んで本人でも分からないような僅かな大きさの違いを認識できる時点で頭冴えてるでしょうが!?もう降ろすよ!!」
「ま、待て!分かったからもう少し満喫させてくれ……」
そう言うとノレスは手をズラしてちゃんとアスタルテの首の下で腕を組む。
(全く……すごいシリアスな場面のはずなのに……)
まあ、大きくなったのならばそれはそれで良しとしよう。
ってあれ……?今ノレス、満喫って言わなかった……?
「ねぇ、やっぱりノレスもう元気なんじゃ────」
────ゴガアアァァァァアア!!!!
アスタルテがノレスに話しかけたその時。
物凄い轟音が鳴り響く。
音の正体は勿論……キャノン砲だ。
「ちょちょちょっと!?ノレスが変なことしてるから全然心の準備出来てなかったじゃんかぁ!!」
「このタイミングで発射するあやつが悪いじゃろう、それに我は……いつだって心の準備は出来ておるぞ?」
「耳元で囁くなぁ!!って、なんでそんなに余裕なの!?」
慌ててアスタルテは前に両手を突き出す。
「お願いだからちゃんと相殺してよ……!!神の獄炎!!」
アスタルテが唱えた瞬間、突き出した手の前に家一軒はあるであろうレベルの巨大な魔法陣が展開され、そこから巨大すぎる炎が生まれる。
それはあまりにも炎とはかけ離れた見た目をしており、外側はメラメラと青く燃え上がるのと同時に稲妻のような閃光がほとばしっており、中心は赤黒く染まったレーザーのようなものだった。
「えっ…なにこれ……いや、でもこれなら……!」
一瞬その禍々しさに驚いたアスタルテだったが、これならイケると確信する。
しかし、神の獄炎がキャノン砲のレーザーにぶつかった途端、神の獄炎は
「い、いかん!アスタルテ、すぐに魔法を止めろ!!」
「えっ?」
「あのレーザーを一瞬で飲み込んだんじゃぞ!?それだけ威力があるということじゃ!ならばそれが着弾したらどうなる!?」
「……!!」
アスタルテは咄嗟に魔法を止めるも、既に発射された分の炎が消えるわけではない。
(どうする!?炎に追いついてそれに神の獄炎を放てば相殺できるか!?でも今からじゃ間に合わない…!)
そうだ、それならイチかバチか…!!
アスタルテは再び両手を前へ突き出す。
しかしその手が向かう先は先程の位置とは違い、
「無への扉!!」
アスタルテは一番内容が分からなかった魔法を唱える。
(正直内容はまだ理解できてないけど……もし名前のままの意味で無へと繋がってる扉が出るのだとしたら…!)
アスタルテの予想通り……ではなく、予想以上の大きさだったが、無事炎の先に扉が出現した。
その扉もまた禍々しく、触れたら魂を抜き取られてしまうのではないかと思うほどの見た目をしていた。
冥界の門というようなイメージだろうか。
とても人間が作れるようなデザインではない。
魔法に反応したのか、アスタルテが指示を出す前にその扉は勝手に開き始め、やがて全開になった。
「うわ……なに…あれ…」
扉の中身はあまりにも黒かった。
その闇をも覆い尽くすような黒さはまるで現実感がなく、まるで扉の中身をペイントツールで黒く塗ったかのような、合成写真を見ているような錯覚を引き起こした。
そして神の獄炎がその扉に触れると、まるで消滅しているかのように一切の音を発する事無く消えていく。
やがて神の獄炎が全て飲み込まれると、またしてもアスタルテの指示無く扉が勝手に閉まりだし、そしてその場から消えた。
「この魔法って……」
アスタルテは自分の手のひらを見つめる。
実感があまり持てないが、間違いなくどちらも自分が放った魔法だ。
世界を破壊するほどの威力を持つレーザーを一瞬で飲み込む炎。
そして、その炎すら無へと還す扉……。
(どっちもあまりにも規格外すぎる……これはもう使わないようにした方が良いだろう…)
世界を守ろうとして放った魔法が世界を破壊した、なんてとてもじゃないがシャレにならない。
「何を考えておるのじゃ?」
「ひゃあ!?」
突然耳元でノレスに話しかけられ、アスタルテは飛び上がる。
「いや、この力は封印した方がいいだろうなって思ってさ……」
「ふむ、まぁ普段遣いはできんじゃろうからな」
「どのみちこの魔法は覚醒中にしか使えないし、もう覚醒する所まで追い詰められることも無いだろうし…」
「追い詰められる…?やはり覚醒の条件が我と違うようじゃな……」
「やっぱりそうなんだ……」
「うむ……しかしどの道じゃ」
「え?」
そう言ってノレスがとある方向を指差す。
「もう一度無への扉とやらを使うことにはなりそうじゃな」
「あ……」
ノレスが指差した先にあった物、それはキャノン砲だった。
「あれを残すわけにはいかんじゃろう。この先、クエンのような思考を持った者が現れんとは言い切れまい?」
「うん、そうだね……二度とこんな事が起きないように……」
アスタルテはキャノン砲に手をかざし、無への扉を発動する。
どうやら対象に向かった向きに出てくるらしく、横に寝た状態のまま上からキャノン砲は飲み込まれていきやがてこの世から消えた。
────こうして、魔族との戦争は終わりを迎えるのであった。
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