クエンの目的




クロとの戦いを終えたアスタルテはクエンの元へ向かうべく走っていた。




「ちょっ、これどうやったら収まるの!?」




荒野を駆けるアスタルテの走った跡は、綺麗に凍りついて燃えていた。

それはまるで垂らしたガソリンの線に火が走っているようだ。





(ま、まぁとりあえずまだ戦うんだしこのままでもいいっちゃいいのかな…?一生このままだったらどうしよう……)




そんな事を考えていたアスタルテだったが、次の瞬間にはその思考も飛んで消える。




「……は?」





────突如空中に巨大な魔法陣が出現したのだ。






いや、もはや巨大という言葉では足りないのかもしれない。




空にできた裂け目を遥かに超える大きさ、まるで空が飲み込まれたのかと思うほどだったのだ。





「なんでいきなりこんなものが……?いや…」




────考えられる原因は1つしか無い……





アスタルテが視点を戻すと、そこには歪な笑みを浮かべたクエンの姿があった。




やっぱり、詠唱が終わったんだ…

でも、一体何をするつもりだ…?





「クロの姿が見えないが……そうかお前が…ふん、まぁいい。おかげで準備が完了した」




クエンはアスタルテを一瞥してそう言うと、空に展開される魔法陣に向けて手をかざす。





「こい!我が最強の兵器よ!!」





(兵器…?)





アスタルテが疑問に思ったのも束の間、魔法陣から鉄の物体が徐々に降りてきた。




空を覆い尽くす程の巨大な魔法陣から姿を見せるそれはとてつもない大きさであり、少しずつ全貌が明かされ始める。




(砲台……?いや、大砲!?)





魔法陣から出現した兵器は、超巨大な大砲もといキャノン砲であった。





砲身だけで何千メートルあるのだろうか…

顎を垂直になるまで上げて上を見なければもはやただの巨大な建造物にしか見えないほど大きい。






────ドゴオオォォォォォォンッ!!






やがてキャノン砲が全て出現すると、世界が割れるんじゃないかと錯覚するほどの振動がアスタルテを襲う。






やばい……

やばいやばいやばいやばい!!




こんなもの、地球数十個用意しても木っ端微塵なレベルなんじゃないか!?




この世界がどれくらいの大きさなのかは知らないけど、でも確実に辺り一帯は消滅するぞ!?

いや、それだけじゃない。




(仮にこの世界が無事だったとしても、核の冬が来るんじゃないか…?)




核の冬とは、核爆弾による爆発によって大量に放出されるすすと煙、煤煙ばいえんに含まれるブラックカーボンという物質が対流圏を通過して成層圏に放出されることによって太陽光を遮り、世界の温度が氷河期並に下がるというものだ。





「でも、この世界にそもそもブラックカーボンなんてあるのかな……いや、今考えるのはそれじゃない!」




あれがキャノン砲であるならば、発射は手動なはず。

つまり先にクエンを倒してしまえばなんてことはない!!





アスタルテは地面を蹴り、クエンのいる位置まで一直線に飛ぶ。




「無駄だ」

「なっ!?」





しかし、見えない壁に弾き返されてしまった。




「ならその壁を壊せばいいだけだ!」




アスタルテは再度飛ぶと、さっき弾かれた場所に向かって思いっきり拳を叩きつけた…!!




「嘘…でしょ…?」




拳を叩きつけたことでやっと正体を現したバリアだったが、アスタルテの全力パンチをもってしても僅かにヒビが入っただけだった。





「ほう……この防護壁に僅かとはいえヒビを入れるとはな。お前、強いな」




そんな事を言われた所で、砕けなかったアスタルテからしたら嫌味でしかなかった。




(なら、このキャノン砲を…!!)





アスタルテは意識を集中させ、拳を振りかぶる。




次の瞬間、振りかぶったガントレットは20倍の大きさになり、強烈なスピードと共にキャノン砲にぶち当たる!!




それはレーネ、ゼルと共に過ごした事でアスタルテが自動で習得した二人の奥義、天地両撃と滅一撃の合せ技だ。





しかし────





「いったあああ!!」




キャノン砲は壊れるはおろか、動きすらしなかった。

逆にアスタルテの拳に振動が跳ね返り、全身に衝撃が返ってくる。





「無駄だ、このバリアすら壊せんお前がなんとかできるわけないだろう」





クエンは空中からアスタルテを見下すと、呆れたような表情を浮かべた。





「なら…そのバリアを壊れるまで叩けばいいだけ…!!」




アスタルテは痺れる身体にムチを入れ、もう一度クエンの元へと飛ぶ。




「おりゃああああ!!」




アスタルテは再び天地両撃と滅一撃を発動させると、バリアに向かって拳を叩きつけた…!!





拳を叩きつけられたバリアは先程よりも大きな亀裂が入る。




(よし、この調子なら…!)





「お前、何か勘違いをしていないか?」

「え…?」





クエンの声が聞こえたと思った瞬間、アスタルテの身体は宙に舞い、轟音と共に地面へと叩きつけられた。




「いつつ……なに、今の…」




アスタルテが上を見ると、そこには片足を高く上げたクエンの姿があった。




「ほう。今ので死なないか。まだ薬が足りてないな…」




クエンはポケットから液体の入った小瓶を取り出すと、一気に飲み干した。




「そもそも、バリアを簡単に砕けない時点でお前は今の私と対等に戦うことすらできんよ」

クエンはアスタルテに言い放つと、キャノン砲の横へと移動する。




「まだ魔力が貯まりきっていないか、まぁ良い。出力は半分だが試し撃ちといこうじゃないか」




クエンは不敵な笑みを浮かべると、右手をキャノン砲にかざす。

すると不動だったキャノン砲は動き始め、砲身が町の方へ向きやがて光り始める。





「そんなもの撃ったら世界そのものが壊れるはず……自分だって無事じゃ済まないだろ!」




アスタルテが叫ぶと、クエンは変わらず笑みを浮かべる。




「ふっ、私はそんな柔じゃないんでね。考えても見ろ、力を持たずして威張っている奴らが消え、力を持つ者のみが生き残る世界……素晴らしいじゃないか」




いやこの人馬鹿でしょ!?

例え自分が砲撃に耐えれる力を持っていたとしても、この世界自体が破壊されたとしたら生活する場所も食べる物も何もかも無くなるんだぞ!?




「そもそもこんなでかい砲撃食らったら力持ってる人だろうが皆死ぬわ!」

「だから私が生き残ると言っているだろう」

「お前だけ生き残ってもこの世界が壊れたら生きていく場所という存在自体が無くなるの!そんな無の空間に放り出されて生き続けられる訳ないでしょうが!」

「何を言っている、無いなら造れば良いだろう?」





いや、お前は創造神か何かですか!?

かつてノレスの配下だったはずのただの魔族なんですよね!?




「ふん、ごちゃごちゃとうるさいやつめ。もういい、お前に割く時間など存在せんわ」




クエンはアスタルテから目を背け、キャノン砲を見る。





「記念すべき一発目……発射だ」





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