決着、カヨとの戦い




「だから…一瞬で…ケリをつけるってんだ!!」




自己強化スキルを2つ重ね掛けしたゼルはカオスグラビティによって重くなった大剣を握りしめ、カヨへと突進する。




(くそ…!まだ一振りもしてねぇってのに、身体が悲鳴を上げてやがる…!)





己の体力を効果中の間代償に捧げる事でステータスが2倍になる狂戦士化バーサーク・モード

そして魔人族、獣人族の一部のみが使え、使用時には継続的な身体全体へのダメージの代わりに眠れる獣の力を引き出す事ができる神獣奮迅ビースト・モード




師であるライゼンに教わり、訓練期間になんとか習得した技だ。





(後でライゼンにぶん殴られるんだろうなぁ…)




ゼルはライゼンの言葉を思い出し、小さく笑った。

ライゼン曰く、このスキルを使用している時の身体への負担よりも、効果が解かれた時に襲いかかる反動の方がより強いらしい。

だから間違っても効果時間を無理に延長したり、負担に影響しそうな技は使うなと念を押されたのだ。




「それなのに剣重くして狂戦士化バーサーク・モード重ねて今から天地両断使うからなぁ……こりゃマジで後がこえーぜ」




ま、だからってやめる訳ねぇけどな?





「天地両断!!」




ゼルが唱えると、大剣の大きさ及び重量が20倍に引き上げる。

そこにカヤのグラビティが加わってるものだから、実際はそれ以上だ。






「これがウチのぉ、全力だオラアァァアア!!!」




「ちィッ!!」





カヨの視界いっぱいに大剣が広がり、避けることはできなかった。

咄嗟に両手を伸ばし、カヨは大剣を受け止める。





「グギぎギ……クソがァ…!!」

「そのまま潰れやがれえぇぇ!!!」




とてつもない衝撃に大地にはいくつもの亀裂が入るも、カヨはゼルの渾身の一撃を止めていた。




「デス……バイトォ!!」

「なっ…!」




拮抗した状態を先に打破したのはカヨだった。




カヨはゼルの大剣に噛み付くと、噛み付いた所を基点に黒いヒビが全体に広がってゆく。





やがてヒビが広がりきると、ゼルの大剣が粉々に砕けてしまった─────






「クソが……ここまで…か…」

力を出し切ったゼルは、気を失い地面へと身体を傾かせる。




「手こズラせやガッて……そノマま永遠に寝てナ…!」

しかしゼルが地面へと落ちる前に、カヨが先回りをしゼルにトドメを刺そうとする。




「ハ!?」

だが、気を失ったはずのゼルの身体は突然空中で向きを変えると、そのまま後方へと流れてゆく。




(魔法か…?イや、魔力を一切感ジナかった……ドウいウ事だ…?)





ゼルの身体がノレス達の元へ到着すると、何もない空間から見慣れた大鎌が出現する。

やがて姿を現したのは、ゼルを抱きかかえているカヤだった。





「カヤ……てめェェェ!!」




カヤはゼルをゆっくり下ろすと、カヨに身体を向ける。




「姉さんのきょとんとした顔傑作だったよぉ?あれぇ、もしかしてぇ勘が鈍ったのぉ?」

「カヤアァァァアアア!!!」





カヨは咆哮を上げ、カヤはカヨへと突進する。




「テメぇは食い千切る、デスバイトォ!」




カヨは鋭く尖った歯でカヤに食らい付いた……はずだったが、噛まれたはずのカヤは煙のように消えてしまった。




「あれれぇ、姉さん今の幻影が本物の私に見えたのぉ~?」

突如カヨの後ろから姿を現したカヤがカヨを馬鹿にする。




「てんメェええ!!」

カヨは素早く振り返りカヤに食らい付くが、またしてもそれは幻影だった。




「え?えぇ? もしかしてぇ、姉さんの食べた木の実って頭悪くなる副作用とかあったりするやつなのぉ?」




どこからともなく現れ攻撃することもなくただただ馬鹿にしてくるカヤに、カヨは顔を真っ赤にしてブチギレていた。





そんな二人の様子を呆然と見ていたマギルカだったが、ハッと我に返る。




「い、今のうちにゼルさんに回復魔法を!」




マギルカとコトハがゼルに回復魔法をかけ、同時にポーションを身体に振りかける。





「うむ、反動によるダメージは大きいが、逆に言えばそれだけで傷はもらっとらんからのう……しばらく休ませれば大丈夫じゃ」




ノレスの診断結果を聞いて皆が胸を撫で下ろす。





「それにしても……」

戦いの様子を見ていたレーネが顎に手を当てる。




「時間を稼ぐためとはいえ、この長い間あの状態のカヨと戦って攻撃1つもらってないなんてね…」




レーネは注意深くカヤの動きを見つめるが、どれが本体でどれが幻影なのか、はたまた本体はいないのか……

何一つとして理解ができなかった。





「カヤはまさに“影”じゃからのう、あやつは相手の不意を突き攻撃することに長けておる。範囲系のスキルを使う相手だと相性は悪いが、カヨのような近接相手だと余裕じゃろうな」




特に、カヤは今一切の攻撃をしておらずひたすら避けに徹している。

加えてカヨに対する煽りによって怒りで冷静さを失った今、いくら強くなる実を食べたとて捉えることはできないだろう。





「ハァ、ハァ……てメェ…まじデ……許さネぇ…」




息を切らしたカヨはフラフラしながらもカヤを睨む。




「実の効果が切れかかっとるな……レーネ、いけるか?」




カヨの様子に気付いたノレスがレーネの方を見る。





「うむ、勿論だ!私だって師匠に技を授かって来たからね!」




レーネは剣を構えると、ゆっくりと深呼吸をして集中を高める。





滅一閃・連刃めついっせん・れんは!!」




レーネが唱えた瞬間、凄まじい速度でカヨの方へと突っ込む。





「同じ技は……喰らワネぇヨ!! デス…バイトォ!!」




レーネの技を見たカヨが、前方に向かって牙を突き立てる。





しかし────。





「残念ながら、同じではないんだ」

「ナっ!?」





レーネは速度を保ったまま直角に曲がり、そのままカヨの背後に回る。

レーネが駆け抜けたその軌跡は、まるで空から落ちる稲妻のようだった。





「はぁぁぁ!!」

「ぐっ!!」




レーネがカヨへと突き立てた剣は見事背中に当たったものの、刺さることは無かった。




「流石に硬いね……でも…!」




レーネは後ろへステップを踏んだ後、再び駆ける。




「く…ソが…!!」




カヨはなんとか食らいつこうと身体の向きをレーネに向けようとするが、その度にレーネはぐんと直角に曲がり、気付けば右から、後ろから、左から、そして上から剣が降り注ぐ。




「これで…終わりだよ!」




レーネは残りの体力を振り絞り、今までを超える最高速度でカヨへと突っ込む。





(抵抗する気が無い…?いや、この速度についていけてないのか)




何故か棒立ちになるカヨに疑問を抱いたが、レーネはそのままの速度で剣を突き立てた……!!





「なっ!?」

「ツカ……まえタぞ…!」




レーネが突き立てた剣は貫通することは無かったが、カヨの腹には突き刺さった。

しかし、カヨの狙いはそれだったのだ。




自分のお腹に刺さった剣をカヨは両手で握り締め、ニタリと笑う。




「デスバイトォ!!」

「くっ!」




咄嗟にレーネは剣を離し後ろに飛ぶことで回避したが、剣はカヨに噛み砕かれてしまった。




「クシ…シ…これデお前は…モウ戦えナいな…」




カヨは息を切らしながらも笑ったが、突然様子が急変する。





「グググ……ハラが…いッテぇぇ……」

「終わりじゃな」




突然お腹を抱えて倒れこむカヨを見てノレスが呟く。




「ガハ…!ゴホ…!ハァ…ハァ…」

「姉さん……」




苦しそうに咳込み吐血するカヨにカヤが近づく。




「ノレス様ぁ…姉さんを助けることって出来ないんでしょうかぁ…?」

「カヤァ!!」




カヤの言葉に、カヨが怒鳴る。




「テメぇ…敵同士のくセに……温いコト言っテンじゃネェぞ愚妹が!! ゲホ、ゲホ……!」

「姉さん…!!でもぉ……私達、敵同士の前に……家族だよ…?」

「るっセェ!!さっキまで殺ソウとしてきた相手に何言ってンだ!!」




カヨは怒鳴ると、強引に立ち上がった。




「姉さん…!動いたら駄目だよぉ!」

「ダマれ!昔かラ私の後ろニ隠れル事しか出来ねぇ雑魚ノ愚妹が……家族ヅラしてンじゃねェ!!」

「でもぉ……姉さん…」

「そうイウ……ナヨナヨした所ガ嫌いだっつっテンだよ!! くっ、ガハ…ヒュー…ヒュー…」




明らかに異常な呼吸音と吐血量に、カヤは思わず近寄る。




「ヨルな!!」




がしかし、カヨに突き飛ばされてしまう。





「テメぇはモウ……私がいなクても…生きてイケンだろうガ…」




カヨは途切れ途切れに呟くと、背中を向けて歩みだす。

歩く先にあるものは、ゼルの一撃で底が見えないほど深く割れた大地の溝だった。





「姉さん……待ってぇ!どこ行くの!?」




カヤは手を伸ばして止めようとするが、その手は空を切りカヨに届かなかった。




「フン……テメェに看取らレルのだけはゴメンだ……私は私ノ死にたい場所で死ぬ」

「姉さん!お願い、駄目ぇ!」




カヨは溝の先までたどり着くと、チラリとカヤの方を見る。




「……知らネェ間に…強くナッタじゃネェか……アバヨ、カヤ……私の………」




カヨの言葉は段々と弱々しくなっていき、最後言い終わった頃には意識を失っていた。




そのまま前に倒れたカヨの身体は、暗く底の見えない溝へと飲み込まれるのだった────





「姉さああああぁぁぁぁん!!!」
















▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲















「なんじゃ…あれは…」




突如空中に浮かび上がった巨大な魔法陣に、ノレスは驚きの声を上げる。




「な、なんなんですの!?この規格外の魔法陣は!?」




マギルカの声で我に帰ったノレスは、急いで魔法陣を分析する。





「これは………転移魔法じゃな…クエンのやつ、何を転移させるつもりじゃ…」

「巨大な隕石でも落とすつもりではありませんの!?」




マギルカの言葉に、ノレスは首を振る。




「いや、そんなものを落とすつもりなら魔族が負けそうになってから詠唱するじゃろうし、そもそも転移魔法はどこかにある物しか呼び出せぬ。こんな巨大な魔法陣に見合う岩などないじゃろう……やつは開幕から何かを呼び出そうとしていた……」




ここにわざわざ呼び出すという事は、ここで意味を成す物のはず。

ここにしか無いもの、或いはここに適している物は……。




「魔力じゃ……!」

「魔力…ですの…?」

「ここは今、死んだ大量の魔族達の魔力がそこら中に満ちておる!」

「という事は、その魔力を集める装置を呼び出して吸収する事でパワーアップするつもりですのね!?」

「いや、いくら魔力が大量にあるとはいえ、あの魔法陣ほどの巨大な装置であるはずはないはずじゃ。それに、この魔力を全て吸収したらそれこそあの実の話のように身体が爆発するじゃろう…」





徐々に魔法陣から出現する物体を見て、ノレスは冷や汗を垂らした。




「兵器じゃ…」

「えっ…?」

「魔力を集めてそれを放出する兵器じゃ!クエンのやつ、そんなもの撃ったらこの世界ごと粉々になるぞ!!」





(なんとしても、撃たせる前に止めなくてはならぬ…!)





この世の終わりを告げる巨大な兵器を前に、ノレスは震えるのであった────。



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