コトハの成長
「グルルルル……」
中心にいるカヨが唸り声を上げながら一定間隔に散った3組を交互に見る。
「組んで散ったはいいんだが……こっからどうすんだ?」
「ノレス様から指示があるかとぉ…」
それぞれの組が展開したのを確認したノレスは頷くと、声を張り上げる。
「各組はカヨを中心にそれぞれ一定の距離を保て!カヨの標的になった組は全力で防御、そして標的になっていない他の組がカヨを攻撃するのじゃ!」
「なるほど、全員固まってないなら巻き添えを気にしないで魔法を使えますわ…!」
「……しかも、常に背後が取れるから…正面から戦うより耐久…できる…」
(ふむ…)
作戦を理解したレーネは感心した。
確かにこれなら狙われた組は防御に徹することができ、別の組が背後から攻撃できる。
それで攻撃した組にターゲットが変われば、防御していた組が今度は攻撃するという感じか…
すぐに実行できるようなシンプルな作戦な上に合理的だ。
(ただ1つ気になるとすればメンバーの組み合わせなんだけど…)
まあそこは戦っていけば分かるだろう。
レーネは深呼吸をすると、剣に意識を集中させるのだった。
「グルアアア!!」
「…! 来たか!」
カヨが最初に襲いかかったのはゼル&カヤだった。
「ひいぃ!カオスシャドー!」
ビビったカヤは咄嗟にカオスシャドーを唱え、姿を消す。
「は……!?おいカヤてめぇ!!」
1人置いていかれたゼルは叫ぶと、とりあえず大剣を盾にし構える。
────が、暴走したカヨの体当たりを防げるはずもなく吹き飛ばされてしまう。
「くっそおおぉ……ただの体当たりでこんな威力出るかっつうんだよ…」
ゼルは痺れる手に悶えながらも立ち上がる。
すると、影に紛れて姿を隠していたカヤが姿を現す。
「ほほ、本当にすみませんでしたぁ!」
カヤは勢いよく謝ると、地面にめり込んでしまいそうなほど頭を付けて土下座する。
まさかの土下座にゼルは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたが、小さくため息をつくと歩き出す。
「ったく、次はねぇからな。頼むぞ」
「は、はい!」
カヤは立ち上がると、持っている大鎌を強く握りしめてゼルの後を追った。
「グガアアァァ!!」
「こっちに来ましたわ!」
「……了解…です…」
マギルカは素早く本を開き、意識を集中させる。
「ホーリーウォール!」
マギルカの詠唱とともに、二人の周囲に光の壁が出現する。
「グググ…グルゥゥ!!」
しかしなんと、カヨは光の壁をもろともせずに噛み付き、少しずつ食い破っていた────
「はぁ!?そんなめちゃくちゃな道理が通るはずありませんわ!?」
「……まかせて…下さい…」
コトハは狼狽えるマギルカの前に出ると、スペルブックを開いてもう片方の手を真上に伸ばす。
「……フレイム…ボルト…!」
コトハが詠唱すると、空から長さ1メートルはある炎に包まれた巨大な矢が5本、カヨに向かって降り注ぐ。
「え…?」
それを見たマギルカが驚きの声を上げる。
本来、ファイアボルトという魔法は炎の矢を術者の周りから出現させ、それを発射するものだ。
にもかかわらず、コトハは巨大な矢を
(どういうことですの…?)
マギルカがコトハの顔をチラリと見てハッとする。
─────魔法陣…?
なんと、コトハの左目の前に小さな魔法陣があったのだ。
(もしかして、空中に矢を出現させた上で魔法陣を通して落とす場所を指定してるんですの…?)
正直、矢を空中に出現させて落とすだけならできなくはない。
完成させた術式を空中に転移させればいいだけだからだ。
(とは言っても並大抵の魔法使いじゃ転移させることすら不可能ですけども…)
しかし、それを操って望んだ場所に落とすとなると話は違う。
その魔法に更に魔力を纏わせ、コントロールし続けなくてはいけないからである。
風に煽られればそれに合わせて向きを変え、敵が動けばそれに合わせて動かさなければいけない。
それはそう簡単な事ではない。
魔力の糸を一瞬でも切らせばもう言うことを聞かないのだ。
つまり……
(あの高さから一度も集中を切らさず、5本同時に操ったということですの…!?)
「あ、貴方、そんな技術をどこで…!?」
「……ん…この前…エルフの国で……師匠に習って…きました…」
「そ…そんな一朝一夕でできる事では無いはずですのに…」
マギルカはコトハの才能に関心を持つのと同時に嫉妬した。
(SSランクで魔法に長ける私ですら、それをしようとしたら数ヶ月はかかりますわ…)
「コトハさん!」
「………?」
しかし、素直な所がマギルカの良い所でもあるのだ。
「この戦いが終わったら……是非その技術を教えて頂きたいですわ!」
マギルカはガバっと頭を下げる。
その様子にコトハは驚くと、小さく笑う。
「……私で良ければ…喜んで…」
「…!!」
コトハの答えにマギルカはパッと顔を輝かせると、本を勢いよく開く。
「感謝致しますわ…!でしたらこの戦い、さっさと終わらせてしまいましょう!」
「ふむ…」
ノレスは顎に手をやり小さく唸る。
「コトハのやつ、中々やるではないか」
あそこまで完璧に魔法を操るとは…
(あやつとも一度戦ってみたいのう…)
ノレスはコトハの成長に関心し、ニヤリと笑うのだった────
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