二人の強敵
「グルアァ!」
カヨの突進にカヤが激しく吹き飛ばされる。
「ちょぉ、姉さん容赦ないんですけどぉ…」
頭を擦りながらカヤが起き上がる。
「容赦も何も、あやつ正気失っとるじゃろうが…」
ノレスが呆れてため息をつくと、全員の方を向く。
「二人一組で固まれ!お互いをカバーし合うんじゃ!」
ノレスの声を聞いた皆が顔を見合わせる。
(ゼルかコトハと組むと片方余っちゃうね…)
(急にんな事言われたって誰とくみゃいいんだ…!?)
(……こういうときに限って…アスタルテ…いない…)
(私、魔王ノレスと部下のカヤは少々話しておりますが、他の方々は初対面ですのよ!?あの二人が組むでしょうし…どうすればいいんですの!?)
(えぇとぉ…私他の方と全然打ち解けてないんですけどぉ…ノレス様に組んで下さいとも言いにくいしぃ…)
その様子を見たノレスが手のひらを顔に当て、大きなため息をつく。
「入学直後のクラス委員決めかここは!」
「クラス…?」
「委員決め…?」
ノレスの言葉に、皆の頭からハテナマークが出現する。
「くっ、この状況でこやつらは……レーネは我と、ゼルはカヤと、コトハはマギルカとだ!固まったら各々さっさと展開しろ!」
ノレスの怒声に反応して皆が咄嗟に二人一組になり、組ずつ三点に展開する。
「え…ええとぉ…よろしくお願いしますぅ…」
「おう、てめぇちゃんと付いてこいよ?」
(頼もしいけどぉ…一番気まずい人じゃんんん……)
(こいつ何考えてんのか全然分かんねぇんだよな…)
「エルフ族のコトハさんですわね、よろしくおねがいしますわ!」
「……よろしく…お願いします…」
(えぇ…なんだか素っ気なさ過ぎませんこと!?これから命を預け合うパートナーになるんですのよ!?)
(……SSランクのマギルカさん…足引っ張らないように…しないと…)
「ええと…ノレス?なんだかギクシャクしてる組み合わせなんだけど…これ大丈夫なのかい?」
「勿論じゃ、適当になど言っておらん。まぁ心配するでない」
「あはは…君がそう言うなら信じるけど…」
(何を考えてこういう組み合わせにしたんだろう…)
私なら、パワーのゼルに防御も兼ねているマギルカ、スピードと奇襲力があるカヤと私、魔法に長けてるノレスとコトハで組み合わせるんだけど…
しかし、この状況で適当に組み合わせてるとは思えない…
レーネは頭で整理しながらノレスに付いていくのだった。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
(あれは…何をやってるんだろう…)
アスタルテは遠くでカヨと戦っている皆の様子を見て、首を傾げる。
ノレスが何か言ったと思ったら皆まごまごし始めたし、次のノレスの言葉では皆首を傾げてるし、かと思えば二人ずつ謎の組み合わせで固まるしで、アスタルテには意味不明だった。
というか、その間にカヨ全然攻撃仕掛けないんだけどなんなのあれ…
言葉を話してる間は動けない呪いにでもかかってるの…?
そう考えている間もアスタルテはクロの攻撃を避け続ける。
(って、なんで私が考えてるときは手を緩めてくれないんだ!)
アスタルテは一人でツッコミを入れると、頭をしっかりクロにシフトさせる。
さっきは急で戸惑ったけど、一気に懐に入っちゃえばワンパンKO取れないかな…?
そう思ったアスタルテは弾丸の如く一気に加速し、クロに接近する。
しかし、真っ直ぐ進んだはずのアスタルテの目には、何故か空が映っていた。
「あれ…?」
なんだ…?何が起きたんだ…?
アスタルテは起き上がると、さっきと変わらない位置にいるクロを見る。
(確かに走ったはずなんだけど…幻術…?)
いや、違う。
アスタルテは自分の考えを否定する。
私はそもそも状態異常とかが効かないのだ。
幻術があるのかは分からないが、仮にあったとしても効くはずがない。
となると…
風で転ばされた…?
でも気づいたら仰向けになってたし…
「考えても分からないなら、もう一回やってみる!」
アスタルテは先ほどと同じように走り出す。
しかし、今度はしっかりクロの動きを見ながらだ。
「うおおおらぁ!」
クロをしっかりと見据えつつも、アスタルテは右手を振りかざす。
その瞬間────
クロは少し横に移動し、アスタルテの左足に自分の左足を絡めた。
次の瞬間には、アスタルテは先程と同じように空を見上げる形になっていた。
(え、柔道…?)
アスタルテは一瞬考えるが、目の前にチョップが飛んできて素早く体勢を立て直す。
(前からがダメなら上から…!)
そう考えたアスタルテは地面を蹴って空中へ飛び上がり、ガントレットをクロに向けて魔力を流す。
魔力に反応したガントレットが光ると、ブーストし勢いよくクロに向かって突撃する。
「なっ!?」
しかし、クロはアスタルテの下に潜り込むとその膝を軽く蹴り上げる。
たったそれだけなのに、アスタルテは空中で向きを変えられあらぬ方向へ吹き飛んでしまった。
「ぐぬぬ…見た目によらず力が強い…」
起き上がったアスタルテは歯を食いしばると、クロを睨む。
「私の技に力なんていらないよ」
クロは深呼吸をすると、構えを取る。
その構えは独特で、手のひらを広げて体の前に置き、左右の手は上下異なる高さになっている。
「……!!」
その構えを見たアスタルテはそれまで吹き飛ばされていたわけを理解した。
(あの構えは…合気道だ…)
多少攻撃的にアレンジはされているが、基本の型はそうだろう。
力に対して力でぶつからず、相手の力を利用して受け流す護身術…
一体どこで身に付けたのかは謎だが、今はそんな事を考えている余裕はない。
「おりゃぁ!」
アスタルテは両手を突き出すと、心でフレイムを唱える。
両手から放たれた絶対零度の炎は瞬く間に燃え広がり、辺りを凍らせる。
「…!」
虚を突かれたクロは構えを解き、後ろへ飛んでそれを躱す。
────が、それがアスタルテの狙いだった。
アスタルテは両足の靴に魔力を勢いよく流し、一瞬で空中にいるクロに接近する。
(地に足がついていないこの瞬間なら、受け流せる位置へ移動ができないはずだ…!)
アスタルテは右手を振りかざし、クロに向けて拳を放つ。
「くっ…!」
しかしクロは空中で身体を仰け反らせ、かする程度で被害を抑えた。
「あーもう!全然当たらなくてモヤモヤする…!!」
アスタルテは着地すると次の攻撃に移るべくクロを見る。
「…!?」
その姿を見てアスタルテは固まる。
どうやらさっきの攻撃で羽織っているマントのフードが外れたらしく、クロの顔を初めて見たのだが…
その顔はグレーに近い白さで、肩に届かない位の長さの髪も綺麗な銀色に染まっており、対照的に目は真っ赤だった。
年齢は18くらいだろうか…
まぁ魔族だから実年齢は分からないけども。
その美しい顔に一瞬気を取られてしまったアスタルテだったが、慌てて顔を振る。
(いけないいけない!戦いの途中で見惚れてる場合なんかじゃないでしょうが!)
とにかく、魔法スキルで攻めてそこを取────
「あとは任せた」
「…え?」
今、任せたって言った?
一体誰に…?
この周りに他の人はいないし、ノレス達と戦ってるカヨはそれどころじゃないだろうし…
アスタルテは意味が分からずに考えていると、クロは猛烈な加速で一瞬にしてアスタルテの目の前まで飛んできた。
「なっ!?」
慌てて両手をクロスしてガードすると、そこから激しい金属音と火花が溢れ出た。
(何この力…!!)
さっきまでの軽い力の面影は全く無く、ずしりと重い感覚が両手に広がる。
「ぐぬぬぬ…おりゃぁ!」
かなりキツイ体勢ではあったが、それでもアスタルテの力を超えることは無い。
アスタルテは両腕に力を込め、クロを弾き返した。
(びっくりした……それにしても、急に戦闘スタイルが変わったな…)
「へぇ~、今のを正面から受けて死ななかったやつは初めてだよ」
アスタルテはその声を聞いてびっくりする。
今まで淡々と話していたのに、急に声に感情が生まれたからだ。
そして無表情のまま全く変わらなかった顔も、普通に動いている。
「え、もしかしてキレたら性格変わるやつ…?」
いや、それにしてもおかしい。
武器が二刀流のダガーに変わっているのはまだ分かるのだが、何よりもおかしいのは────
────目だ。
ルビーのように真っ赤だったはずの瞳が、エメラルドのような緑に変わっている。
「ハハッ!久しぶりにマトモに戦えるんだ、ボクを少しは楽しませてくれよ?」
(えぇ……)
なんだか、普段は上品なクラスのマドンナを休日にたまたま見かけたらあぐらかいて爆笑してたレベルの夢ぶち壊れ具合なんですけど…
士気が著しく低下したアスタルテなのだった──────
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