アスタルテへの因縁
「オマエエエ!ヨクモオオオオ!」
「ちょっ、ほんとになんなの!?」
なんというか、殺意が半端じゃないんですけど!?
アスタルテは少女の攻撃をかわしつつ思う。
(というか、私への怨念が凄いんだけど…)
「うーむ…」
冷静になって少女を見てみるが、やはり見覚えが全くない。
全身黒いオーラに包まれているし、髪は逆だっているし、目は真っ赤だし、よだれ凄いし…
「あーア、可哀想にナァ?ソいつはお前ヲずっと想い続けテいたノニなァ?」
アスタルテの様子を見て、レーネ達と闘っていたカヨが笑う。
「そもそも私、今魔界に住んでる魔族に知り合いいないんだけど!?」
アスタルテは叫ぶと共に少女のお腹を殴って吹き飛ばす。
(それにしても、なんなんだこの子は…)
どうにも戦い方がおかしいというか…
そもそも武器すら持ってないし、引っ掻いたり噛み付こうとしたりと、まるで猛獣の様だ。
今だって、吹き飛ばされたのに受け身を全く取っていないし…
戦闘経験が無いのだろうか…?
でも、この子が放つオーラはそこらの魔族よりもよっぽど強い。
生まれ持つ強さを持っていながら戦闘経験を一切積まなかったのだろうか…?
(まぁ、とにかく早く終わらせよう、なんだか気味が悪いし…)
そう思ってアスタルテが少女に近づいた瞬間───
「……!?」
突如少女の周りから黒い影のような物が溢れ出し、アスタルテを包み込んだ。
「アスタルテ君!?」
「クシシ……あイツは終わッタな」
(なにが起きたんだ…?)
気が付くとアスタルテは真っ暗の空間にいた。
限りなく黒というのだろうか。
そこは一切の明かりはなく、距離感すらまるで掴めない。
自分が目を開けているのか閉じているのかも分からなくなってくるほどだった。
「……さない」
「えっ?」
「…さない……許さない…」
「許さない…」
「復讐してやる」
「絶対に殺す!」
最初は遠くの方で聞こえた声が、段々と大きくなりいくつもに重なってアスタルテに降り注いだ。
「だあああもう!うるさい!」
たまらずアスタルテは床を殴る。
すると、黒い空間が簡単に壊れ、目を開けた時にはさっきまでいた戦場に戻っていた。
「ナっ!?」
それを見たカヨが目を大きく見開いて驚く。
「馬鹿ナ…あレは最上級の呪イ魔法だぞ!?オマエ、何をシた!!」
それを聞いて理解した。
アスタルテには常時発動スキルに、魔法耐性(極)がある。
それは状態異常効果のある魔法スキル、属性効果を無効化するスキルなのだ。
つまり、状態異常効果に属する呪い系は最下級だろうが最上級だろうが私には効かない。
「今度こそ終わらせる…!って、あれ…?」
少女の方を見ると、ぐったりと地面に倒れていた。
どうにも邪気が抜けた感じというか、普通の女の子のような見た目になっている。
ん…?この子、どこかで…
「…!まさか、カンの町の!?」
そうだ、確かゴブリンの巣窟にレニーを助けに行った時、この子がいたはずだ。
性格がえらく酷かったのと、謎にビンタを喰らったから印象に残っている。
それにしてもどうして魔族と行動してるんだ…?
確か近くの教会に引き取られたはずじゃ…
「チッ、せッかく力を与えてヤッタのによォ…出来損ないガ」
その様子を見たカヨが吐き捨てるように言う。
(まさかこいつが…?)
この子の感情を利用して強力な呪いのスキルを付与させ、一度きりの爆弾特攻させる気だったのか!?
「お前が元凶か!」
「アスタルテ君!」
カヨに殴りかかろうとしたアスタルテに、レーネが声をかける。
「アスタルテ君の気持ちは分かるが、ここは私達に任せてくれないだろうか?私達もこいつには私念があってね」
「わ、かりました…」
「すまない。アスタルテ君はクエンってやつをお願いできるかな?どうにもさっきから様子がおかしいんだ」
レーネの言葉を聞いたアスタルテがクエンの方を見て驚愕した。
なんと、まだ詠唱しているのだ。
何をしようとしているのかは分からないが、アスタルテが戦っている間もずっと詠唱していたことになる。
どれほど強力なスキルを放つつもりなのか…
いずれにせよ、早く止めるに越したことはない。
「では、私はそっちに行きます!レーネさん達も気をつけて下さい!」
「チッ、行かせるカヨォ!」
アスタルテが走り出そうとするが、その前にカヨが立ちはだかる。
「おっと、君の相手は私達だ」
しかし、レーネさん達がすかさずフォローをいれ、カヨをどかす。
「鬱陶しいナくそガァ!クロォ!!」
カヨの叫びにクエンの横に居たフードを被っている子が反応し、こちらに向かってくる。
「行かせはしない」
「次から次へと…!」
アスタルテはうんざりすると、クロと呼ばれた子に向かって拳を振りかざすのだった。
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