全員集合
「お前、よくもおおお!」
ブチギレたヒョウが、ノレスに向かって氷のつららを乱射する。
それをノレスは華麗に避け───るのではなく、なんの抵抗もなく真正面から食らった。
「えっ、ノレス!?」
まさか攻撃に当たるとは思わず、アスタルテはノレスの方を見る。
「いやはや…こんなもんとはのう、あまりにもヌルすぎる」
砕けた氷から無傷でノレスは現れる。
「なっ…直撃したはずだ、なぜ効いていない!?」
「我はもっと凍てつき、燃え滾る氷を知っておる。のう、アスタルテ?」
(えぇ、そこで私に振ります…?)
視線を感じてそっちを向くと、案の定ヒョウがこちらを睨んでいた。
「私は氷の扱いに最も長けている!だからこそ四天王なのだッッ!こんな脳筋ちんちくりんに何が出来る!」
……脳筋ちんちくりん!?
「そんな言い方しなくても良くない…?」
シンプルに傷付くんですけど…
────ボンッ!!
その時、電子レンジで卵を温めた時のような鈍い爆発音が響いたと思ったら、ヒョウが爆発四散していた。
「……へっ?」
状況が飲み込めずアスタルテが困惑していると、ノレスから響くような低い声が発せられた。
「貴様ァ…」
ノレスの周囲から闇のオーラが溢れ、バチバチと稲妻のようなものが走る。
「アスタルテを愚弄しおったなあぁぁぁ!?」
ノレスの咆哮は凄まじく、敵の魔族は愚かグレイスの兵士達も震え上がっていた。
というか、もうすでにその愚弄した人木っ端微塵になってるんですけど…
「ほう、ヒョウがやられたか…」
「しかしヤツは我ら四天王の中でも一歩劣る存在…」
(なんかテンプレみたいな台詞吐いてるやつ来たんだけど!?)
「俺は四天王が1人、風のフウ」
「そして我は四天王が1人、地の───」
「とっとと消え失せろ黒歴史共がぁッッ!!」
─────ドゴオォォォォオォン!!!
ノレスが叫び、縦横20メートル以上はある極太のレーザーのようなものを撃ち出す。
尋常ではない魔力量が込められたレーザーに、流石のアスタルテも圧倒される。
数十秒間に渡るレーザーの射出が終わると、ノレスは頬に汗を垂らしながら肩で息をしていた。
「ハァ、ハァ……骨すら…残さぬぞ…ゴミ共め……」
「いや、あの…骨どころか塵一つ残ってないんですけど…」
アスタルテが射線上を見ると、二人の四天王どころか大量にいたはずの敵の魔族も消失していた…
「お…おいオイ…ドウなってんダこりゃ…」
「………」
「一体どうなっている!先に送った兵はどこへ行った!」
その時、空の裂け目から4人の人影が現れる。
「あれは…カヨとクエン…!現れおったな!」
ノレスの言葉を聞いてアスタルテは相手をよく見る。
長いマントに一人だけ貴族のドレスのようなものを着ている女性、あれがクエンか…!
他の2人はグレイスでレーネさん達が戦ったカヤさんのお姉さんと、退く時に現れたフードを被った女性…
ただ、あとの一人は誰なんだ…?
見たところ仲間みたいだけど、服は布切れ一枚だし髪もボサボサ、まるで奴隷かのような…?
「アスタルテー!!」
(…!!この声は…!)
アスタルテが4人を見ていると、空から自分を呼ぶ声が聞こえて振り返る。
それは、馬車から飛び降りたゼルだった。
「ゼルさん!?無事だったんですね!というか、何故ここに…?」
「私達もいるよ」
「レーネさん!コトハさん!」
アスタルテが見ると、それぞれ別の国に派遣されたはずのレーネ、コトハもそこにいた。
「ウチらのとこはそこまで激しくなかったからな、ハーピィに聞いたらここが一番やべぇってことで、救援に来たんだが…」
「大体カタがついちゃってる感じかな?」
「……地形…変わってる…」
「えっと…ノレスが全部やっちゃった…」
三人が状況を見て息を呑む。
「これを…一人でか?」
「改めて魔王の実力を思い知るね…」
「……魔王改め…破壊神…」
「おマエら!ナニ呑気に話シテるんダヨ!」
空中で怒鳴ったカヨが、三人に向かって突っ込む。
「キエエェェェェ!」
「うわっ、何!?」
三人の援護へ向かおうとしたアスタルテに、もう1人のボロボロの服を着た少女が突っ込んできた。
「アスタルテ君、こっちは任せてくれ!」
「お前、よく見たらあの時ウチらに負けたやつじゃねぇか」
「……しつこい…」
「テメえら、今回は本気ダカラなぁ!調子乗っテンじゃネぇぞ!!」
(カヤさんのお姉さんは三人に任せよう、それよりも…)
目の前の少女も気になったが、親玉であるクエンと、その横にいて動かないフードの子が気になる。
さっきからずっとブツブツと詠唱のようなものをしているのだ。
「アスタルテさん!その子は任せますわ!私達はアレをなんとかしましょう!」
マギルカが見ている方向には、大量の変異種が空の裂け目から産み落とされていた。
「魔力が回復したら我はクエンをぶちのめす」
「クシシ…いっちょぉやりますかぁ!」
────こうして、魔族戦争の最終決戦が始まるのであった。
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